2026年7月5日日曜日

20260705 株式会社日刊現代・講談社刊 若林秀隆著「幸福寿命」 pp.92-95より抜粋

株式会社日刊現代・講談社刊 若林秀隆著「幸福寿命」
pp.92-95より抜粋

ISBN-10 ‏ : ‎ 4065436508
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4065436509

幸福寿命を短くする社会側の要因とは
 社会生活が幸福寿命と大きく関連しているのは皆さん納得していると思います。ある程度の年齢になると、大きく人生を転換するのはなかなか難しいです。となるとこれからを 考えるうえで大事なのは社会生活の中でいかにプチシフトしていくかではないでしょうか。
 現在の日本社会には、個人の幸福寿命を短くする社会側の要因が数多くあります。社会の現状を知ったうえで、個人が能動的にプチシフトすることを心がけないと、今の日本では幸福寿命をのばすことは難しいです。
 社会側の要因をまとめると、人間関係とコミュニティの希薄化、個人の多様性を否定する価値観、完璧を求める過剰なプレッシャー、経済的・社会的な不安定性の4つに分類できます。
 人間関係とコミュニティの希薄化には、つながりの貧困化や、無機質な都市開発があります。昔の日本社会では、良くも悪くも血縁 (家族や親族との関係)、地縁(地域コミュニティ との関係)、社縁(会社組織との関係)によるつながりが強かったです。個人が受動的に生き ていても、さまざまなしがらみが存在していました。
 現在でも地方では一部、血縁や地縁が色濃く残っていますが、都市ではかなり消失しました。そのため、都市では個人が能動的に生きないと、人とのつながりが少なく孤立しやすい無縁社会の影響を受けます。
 都市開発による環境破壊で自然や公園が減り、無機質なビルが多くなり、マンションのオートロック、スーパーなどでの買い物がすべてオンラインで行えるようになったりするなど、コミュニティが育まれにくい都市構造が増えています。そのため、環境面でも受動的な生き方では、人との深い関係を築くことが難しくなりました。
 個人の多様性を否定する価値観には、非寛容性と同調圧力、男尊女卑と性別規範、外国人・ 障害者などへの排他主義があります。ただしこれらは、現在の日本社会に限らず以前から 存在するものです。みんなと同じであることを求め、少しでも違う生き方や考え方をする 人を受け入れず、出る杭は打たれるという非寛容性と同調圧力が、日本では強めです。
 世界経済フォーラムが、経済、教育、健康、政治参画の分野毎にデータを重み付けしたジェンダー・ギャップ指数を毎年発表しています。2025年の日本の順位は、148ヵ国 中118位であり、2024年と同じでした。昔の日本社会よりはまだましかもしれま せんが、今でも男尊女卑と性別規範が強く、都市よりも地方でより目立ちます。日本で都市より地方の人口減少のほうがより多い要因の一つは、地方での男尊女卑と性別規範の強 さだと私は思います。
 完璧を求める過剰なプレッシャーには、行き過ぎた新自由主義による自己責任論と個人主義、高すぎる要求水準、労働能力と生産性の至上主義、効率性至上主義、知識社会化、グローバル化があります。
 新自由主義とは、規制を緩和して市場で自由な活動をさせることが最も効率的であり、個人の成功も失敗も自己責任で、弱者救済のための公的福祉には消極的な考え方です。現在の日本社会では、行き過ぎた新自由主義による自己責任論と個人主義の影響が強く、失敗は社会の責任ではなく個人の責任として厳しく追及されます。そのため、人に助けや援 助を求めることに心理的な抵抗を感じる方が増えている印象です。
 経済的・社会的な不安定性には、格差社会の進行、少子高齢化、政治的な不安定性があります。新自由主義、知識社会化、グローバル化などの影響で、日本でも格差社会が進行 しています。少子高齢化は、社会保障制度の財政を圧迫し、国民の将来への不安を増大さ せます。この不安を解消できない政治への不信感が、さらに社会の不安定性を高めています。
 高齢者へのエイジズム(年齢差別)もあります。年金や医療といった社会保障制度の今後への不安は、政治的な不安定性や政治家や役人に対する信頼の低さが一因です。政治家と役人が、すべての国民の幸福を最優先に取り組んでいれば、今とは異なる社会になって いたはずです。
 このように、現在の日本には幸福寿命を短くする社会側の要因が数多くあります。
 一方、スマートフォンやAIなどテクノロジー面の発展、個人の自由や多様性が以前よりは尊重されるようになったこと、人とのつきあいの選択肢の増加、障害者差別解消法な ど法律の整備、医療や公衆衛生の進歩、美味しい食品やお酒の増加、犯罪率の低下など、 幸福寿命をのばす社会側の要因もあります。
 そのため、昔の日本社会のほうが今より幸福なりやすかったわけではないと私は考え ています。昔の日本には受動的に得られるつながりがありましたが、それはしがらみでも ありました。一方、現在の日本には、能動的に自らの意思で、より多様で豊かな幸福を迫 求できる機会が増えました。ただし、幸福寿命を短くする社会側の要因が多いので、社会 が変わるのを待つのではなく、個人が社会生活を能動的にプチシフトすることが幸福寿命 をのばす道となります。

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