2024年3月1日金曜日

20240229 株式会社講談社刊 養老孟司・茂木健一郎・東浩紀著「日本の歪み」pp.131‐133より抜粋

株式会社講談社刊 養老孟司・茂木健一郎・東浩紀著「日本の歪み」pp.131‐133より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4065314054
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4065314050

養老 防衛費の拡大で気になるのは、戦前の轍を踏まないかということです。「天皇制」といっても、天皇の下にはいつも武力をもった幕府がありました。日本の歴史を見れば、天皇制の中から鎌倉幕府という暴力集団が成立し、江戸幕府まで続きます。尊王攘夷の明治政府も同じ構造です。一〇〇〇年近く続けてきたものから簡単に抜けられるのでしょうか。
 言い換えると、暴力をいかに言語で統制するかという問題を本気で考えているのかということです。「シビリアン・コントロール」といいますが、そもそも英語ですから。自分の国の言葉にもできないようなことが身につくのかよ、と思います。

東 重要な指摘だと思います。おっしゃるように、日本は武家支配が長い軍人国家です。鎌倉幕府以降、一九四五年までずっと武士や軍人の時代だったわけで、むしろ戦後日本のほうが軍政の影がない様な稀な時期でしょう。だから軍人以外の人たちこそが社会の実体だ、ということをあまり真剣に考えたことのない国なのかもしれませんね。

茂木 戦後日本の出発点となってGHQだって、つまりは「アメリカ軍」だもんな。つまり日本国憲法は「軍政」の下でできた。

東 軍政下で作った平和主義です。だから朝鮮戦争が起きたら即、脱臼されてしまう。

茂木 第九条だって本当は、「戦力は保持しない、但しアメリカ軍を除く」というのが実態で、日本国内に軍はずっとあったんですよね。

東 日本の民主主義の起源として、「船中八策」とか「五箇条の御誓文」を持ち出してくる人がいるでしょう。けれど、僕の理解では、民主主義というのはまず人民が力を持つ、人民こそが社会の本体であるという発想が必要なんですよね。「和が大切」というのとはちょっと違うし、「みんなで決める」といっても「偉い人がみんなに意見を聞く」だけではだめなんです。自分たちで決めないと。けれども日本では、みんなでわいわい言ったあと、「偉い人」が決めて丸く収めてくれるのを民主主義だと思っているふしがある。ある意味で権威主義的な国だとも言えますよね。

養老 そうですね。憲法の問題にせよ、民主主義の問題にせよ、今の状況だとどうも空中戦のように思いますね。