2025年4月19日土曜日

20250418 株式会社文光堂刊 エルンスト・クレッチメル著 相場均 訳『体格と性格』~体質の問題および気質の学説によせる研究~ pp382-384より抜粋

株式会社文光堂刊 エルンスト・クレッチメル著 相場均 訳『体格と性格』-体質の問題および気質の学説によせる研究ー pp382-384より抜粋

 造形芸術の分野でも、詩人における場合とほぼ似通った様式の差異があちこちに見られる。ただこの差異は、技巧教育や詩の流行から受ける影響によって多少共不明瞭になっている。肥満型の循環気質の人に会っては、ハンス・トーマのように、素朴な客観性がみられるし、同じく循環気質でも、フランツ・ハルスの絵には、強烈な生気が、ほしいままに投げ出されているのである。彼はでっぷり肥っていて、「生に対してかなり享楽的」だったと言われている。しかし他方、典型的な分裂気質の人々の場合、フォイエルバッハには形式美をそなえた古典主義が見られるし、ミケランジェロやグリューネヴァルトには、高潮した激情がうかがえるのである。これは全くの分裂気質的な芸術様式であって、その本質的な傾向はすべて、豊かな天分を持った分裂病患者の絵画に現れた芸術感覚に一致している。総括して表現主義と呼ばれるものは、さまざまな心理学的成素を含んでいるが、それらは皆、すでに我々が見た通り、典型的な分裂気質的なものである。1.極端な様式化の傾向、すなわち立体派的要素。
2.激情的な傾向、色彩と身振りによって、およそ我慢できる限りの極端な表現効果をひき出す傾向。この傾向は戯画的な歪曲におちいる危険を意識しながら、敢えて遂行されるのである。これが狭義の表現主義的要素であって、現代の芸術運動と、中世紀に現れたその守護神ともいうべきM.グリューネヴァルトとの近親関係を作り上げているものなのである。この傾向の幾分かは、芸術史上の天才的な分裂気質者たちによくあるもので、外面的な芸術手法が全然違っていても、その背後にひそんでいる傾向である。これはミケランジェロのルネッサンス様式の背後にも、グリューネヴァルトのゴシック風の様式の背後にも見ることができる(例えばイーゼンハイマーの祭壇に描かれたグリューネヴァルトのキリスト復活図と、ミケランジェロの自在画を比較してみると、身振りと、運動の対照の中に非常によく似た表現の激情を認めることができよう)
3.自閉的要素。実際の形態から故意に面にそむけ、事物を写実的に描くことに嫌悪を持つのであるが、この現実の形態からの離反は、様式化する表現目的や、情熱的、表現主義的な描写目的によって動機付けられていない場合でも行われているのである。
4.最後の要素は、精神分裂病の思考機構としてよく知られているものに基づいている。すなわち夢の要素であって、フロイドのいわゆる転位と凝縮と象徴形成への顕著な傾向である。このような機構は、例えば、外面的には全く異質な、多くの形象部分を同一の画面に描くというような形をとって、現代表現主義の芸術作品にはしばしば見られるものである(例えば農夫の顔があって、それが同時に農園の風景を表しているというふうなもの)。

 音楽の分野で、これに相当する気質型を分析しようとしても、まず準拠すべき基盤がない。というのは、有名な大作曲家はたいてい、生物学的に複雑な合質を示しているからである。そしてあまり重要でない作曲家については、音楽の専門家だけが、かなりの資料を集めることができるという程度なのである。

学者の型

 学者は、後に説く実際活動に生涯を捧げた人々と同様に、たいていの場合、個人心理学的立場から利用できる客観的資料を詩人ほどたくさん残していないものである。その上、彼等においても、すでに我々の知っている事柄が、反復して現われているに過ぎないので、ここでは、極く手短かに扱うことにする。また学者は、少数の傑出した人々は別として、肖像がなかなか手に入り難く、綿密な電気も少ないのである。たとえあっても、それは彼等の仕事や戦いを数えたてたものか、あるいは、一般民衆教化につくした彼等の功績をたたえる読み物にすぎない。

 ところで前世紀以来、学者の体型が一般にどのように推移して来たかをみると、興味深い事実がわかる。古い時代、特に神学者、哲学者、法学者にあっては、幅がせまくて長く、しかも彫りの深い、細長方の顔が支配的で、エラスムスや、メランヒトン、スピノザ、カントなどのような容姿が多かったが、19世紀以後は、肥満型が多くなり、特に自然科学の分野にこの傾向が著しい。多くの肖像を集めたものを比較してむると、大まかな標準を得ることができる。例えば私は、神学者や哲学者、法律家などの、非常に特色のある銅版画を集めた。1802年版の肖像画集をしらべてみたが、ちょうど60例のうち、大体35例は細長型の傾向が強い分裂性体格型を示し、約15例は混質が強く不正確であったが、肥満型のものは約9例に過ぎなかった。ところが19世紀の有名な医学者を網羅した挿画入りの医学辞典を調べてみると、特に名を知られた人々のうち、肥満型は約68人、混質ないしは不明瞭なものが約39人、分裂症の範疇に属する体格型は約11人であった。

 このように大ざっぱな操作には、どうしてもかなりな誤謬が入りこんで来るものだが、次のような相違だけは、かなりはっきりしているので全く無視するわけにはゆかない。すなわち、古い時代の、主として抽象的形而上学的で、概念的体系的な研究に従事した精神科学者には、細長型の体型を示すことが多く、自然科学者のうちでも、具象的、記述的な分野には、肥満型の体型が多いということである。