さきに述べた歯科医療分野にて多用されるロストワックス鋳造法に用いる鋳型材(埋没材)とは、当初は主に耐熱性のみが重視されていた。
その一方においてアメリカ合衆国のコールマンによる合金の鋳造収縮理論の発表および同フェンナーによる石英の高温結晶形であるクリストバライトが加熱により膨張する性質が発表された。
そして歯科補綴物の作成において、これら材料の性質(収縮・膨張)が互いに補完し合いワックス等の樹脂系材料により作成された鋳造体模型の寸法を変えることなく合金に移し替えることが企図された。
しかしながら、この鋳型材(埋没材)の加熱時における膨張のみでは合金の鋳造収縮を十分に補完することは困難であることから、順次鋳型材(埋没材)の膨張を試みる工夫が為され、硬化時膨張・水和膨張・吸水膨張といった更なる鋳型材膨張の発現もまた企図された。
こうした鋳造精度向上の工夫により、歯科精密鋳造とは徐々に理論・体系化され、くわえて新たな知見も随時追加され、歯科医療における精密な補綴物を得る技術・理論体系とは確立していった。
これらはほぼ全て20世紀代に為された進化発展であることから、歯科補綴物製作の視点にてこの世紀を概括すると『歯科精密鋳造確立の歴史』と評することも可能であると云える。
現在、歯科用合金を材料とする精密鋳造により製作された補綴物が口腔内にて広汎に装着されているが、その歴史的背景とは20世紀以降において急激な進化発展を遂げたものであり、それは、その他多くの(画期的効果を持つ)工業製品とも同様であることには、やはり何らかの大きな歴史の流れにおける有意な変化がこの時代の前後にあったのではないかと考えられる。
そして昨今、歯科用合金に多く用いられる貴金属の価格が上昇し続けていることから、その広汎な使用の継続とは疑問視され、何らかの代替技術・材料が求められているのであるが、そこで注目を集めているのが、さきにも少し触れたコンピューター技術の進化発展に伴い汎用化されつつあるCAD/CAM技術である。
そして、これを用い材料が比較的安価であり、今後もその材料の安定的供給が見込まれるコンポジットレジン、各種セラミックス材料などを用い各種歯科補綴物を製作するといった傾向が強くなってきている。
これを大きな歴史的視点にて捉えてみると、さきに述べたように20世紀とは歯科精密鋳造の時代であり、それに対して今世紀とはCAD/CAM技術による歯科補綴物製作の時代となるのではないかとも思われる・・。
ともあれ、そうすると既存の歯科技工が大きな変革を余儀なうされ、あるいはその業界全体のあり方自体もまた必然的に大きく変わっていかざるを得ないと云える。
歯科治療を受ける患者さん側からの視点であれば、何れであれ、より良い歯科医療を手頃な価格にて受けることが重要であることから、こうした歯科医療における技術体系の(大規模な)変化とは、あまり考慮すべきことではないのかもしれない。
しかし一方、それにより歯科医療を行う側に何らかの憂慮すべき不利益・不都合が恒常的に生じる事態が惹起されるのであれば、それは結果的に歯科医療そのものをジリ貧の状態とし、昨今、いくつかの業種において過労働がさまざまな事故に結び付く可能性が指摘されたことと類似するような事態が招来されるのではないかとも考えられる・・。
そして、それはやはり憂慮すべきことではないかと思われるのだが、さて如何であろうか?
ともあれ、今回もここまで読んで頂きどうもありがとうございます。
昨年から現在までに列島各地において発生した一連の地震・大雨・水害等の大規模自然災害により被害を受けた諸地域のインフラの復旧・回復および復興を祈念しています。
昨今再び噴火をはじめた新燃岳周辺の方々の御無事をも祈念しています。