ISBN-10 : 4879191620
ISBN-13 : 978-4879191625
この未開のままの黒人の一隊のうしろから、順化された黒人―彼らに加えられている新しい力の副産物なのだがーのひとりがライフル銃の中ほどを手に握って、だらしなく付いてきていた。ボタンの一つとれた上衣を着ていたが、白人の僕を見かけると、すばやく、銃を肩に担ぎ変えた。ちょっとした用心というわけだ。遠目には白人はみんな同じに見えて、僕がどんな男なのか、分からないからね。近づいてみて、すぐ安心すると、大きな白い歯をみせて、ずるっこくニヤリとした。そして引き連れている黒人たちの方をチラリと見た。彼は、僕を、彼の崇高な任務の相棒として見てくれたらしかった。つまるところ、この僕だって、この気高く公正な大事業の一部を担ってきたわけだからね。
『丘に上がっていくのはやめにして、僕は向きを変え、左の方に降りて行ってみた。丘の上にあがる前に、鎖につながれた罪人たちを視界の外にやりすごしてしまおうと思ったのだ。知っての通り、僕は特別心優しい男じゃない。人を殴ることも、殴られるのをかわすこともしなけりゃならなかった。はまり込んだ生活が生活だから、後のことはよく考えずに、抵抗したり攻撃したりしたこともあったさ。攻撃も抵抗の一手段だからな。暴力の鬼、貪欲の鬼、燃えたぎる情欲の鬼にもお目にかかった。―だが、誓ってもいいが、そいつらは、すべて、頑強で、強壮で、紅潮した目を持った鬼どもだった。そうした奴らが、まわりの男たち―いいかね、いっぱしの男たちをどつき回し、駆り立てていたのだ。しかし、ここは違う。丘の中腹に立って、僕はこれから先を見通した。この土地の、目も眩む烈しい太陽の下で、強欲無慈悲な愚行に耽溺する、だらしのない、しょぼくれ目の、見かけ倒しの悪魔と、僕はやがて知り合うことになるだろうということをね。そいつがいかに陰険狡猾な奴であるかを、それから数か月後、ここからさらに1000マイルも入った奥地で見出すことになったのだ。僕は、何か警告でも受けたかのように、ぞっとして、しばらく立ち尽くしていた。結局、僕はさきほど目をつけていた森の方に向って、丘を斜めによぎって降りて行った。