2020年6月3日水曜日

20200602【架空の話】・其の22

【架空の話】
他方、それらの時代はあまりにも古く、加えてその背景知識も乏しいことから実感が湧かず、その感覚もイマイチよく分からなかった。とはいえ、これはこれで新鮮な経験であったとは云える。

国内ではあれ、異郷で接する、そうした連綿と続いた文化事物には、私としては、やはり惹きつけられる「何か」があるように思われる・・。

当地一宮の参拝を終え、また自動車に乗り、さらに東に向かった。すると、どうしたわけか、カーオーディオから「インディ・ジョーンズ」のテーマ曲が流れてきたため、運転をしている兄に「何でこの曲をかけているの?」と訊ねてみると「ああ、この曲を聞くと、なんかワクワクしてくるんだよね。それと、今向かっているのは古墳が集まっている場所で、学術用語だと群集墳って云うらしいけれど、この群集墳も、さっき参拝した神社との関連で考えてみると、なかなか面白いと思うんだよね。」といった返事が返ってきた。

しばらく走ると周囲の自然が多くなり、まさに郊外といった趣になってきたが、そうした中、バスのロータリーと駐車場が目に入ってきて、ここに車を乗り入れた。かなり広い駐車場であったものの、他の駐車車両は多くはなく、兄は入口近いところに駐車し、私に「行くよ!」といった合図して車を降りて歩き出した。私は少し急いで兄の後を追い、横並びになりつつ、道両側に樹が植えられている歩道を進んだ。

ここでの大気も、さきの神社とは異なるものの樹々・植物の香りが濃厚であり心地良いものがあった。そして、この歩道の終点には、城の石垣のようなものが現れ、さらに、その先には、石積と不思議な紋様を組み合わされた外壁の建物があった。この建物を横に見つつ、さらに進むと、視野が広がり、里山の散策コースのようなものが現れ、また、その道際には、移築されたと思しき、古い時代の建造物がいくつか並んでいた。しかし兄は、それらには関心を示さず、さらに先に進んでから、私に「もうじきだよ。ここから先が面白いんだ!」と弾んだ声で云った。程なく、本格的に里山散策コースの道に入り、歩き続けていると、いくつかの標識が目に入ってきた。それらには各々「**号墳」と記されていた。とはいえ、散策路を歩いていても、一見、周囲にそれらしきものは特に見当たらず・・と、そう思った矢先、散策路の周囲に、多くのマウンドらしきものがあることに気が付いた。さらにそれらを少し注視すると、マウンドから石造りの構造が見えているものもいくつかあり、その一つに近づいてみると、それこそが古墳であった!当地域一帯には、このマウンド程度(全長10ⅿ以下)の小古墳(主に円墳)を合計すると600基程度にはなり、そこから、当地域一体は**千塚古墳群と呼ばれているとのことであった。さらにその後、兄と開口している比較的大きな古墳(円墳)の玄室に入ってみた。すると兄はおもむろにペンライトを革ジャンのポケットから取り出し点灯し、周囲を照らした。ペンライトの明かりで照らされた玄室の壁面は、板状の石を積み重ねたような構造であり、さらに我々の頭上少し高いところには、その板状の石が玄室内を架橋し、丁度、棚か梁のような感じになっていた。後で知ったところによると、この構造は「石棚」「石梁」と呼ばれ、この地域において特徴的な古墳造営様式とのことであった。

ともあれ、これまで、古墳の玄室に入った経験がなかったことから、これには甚く興奮し、その後もいくつかの開口していて見学可能な古墳の内部に入ってみたが、それらの構造は、さきに述べた板状の石を積み重ねるもので共通しており、石積みの技巧に偏差はあるものの、それは経時的な技術の進歩であると推察された。

恥ずかしいハナシではあるが、この時、私は途中から半ば我を忘れていたが、兄の方も同様であったようで、散策路の移動は一緒に行動していたが、開口している古墳を見つけ、いざ「ここ入ってみよう。」と内部に入ると、それぞれがペンライトを持ち、好き勝手に観察していた。ちなみに用意周到な兄は、こうした状況を想定し、ペンライトをリュックにも入れて準備していたのだった・・。

この古墳散策は比較的長時間にわたり、行きに通った駐車場からの歩道を帰り道にて歩いている時は、既に少し日が陰り、薄暗く、そして肌寒くなってきていた。また、この散策で集中力と体力を使ったのか、二人とも帰路では言葉が少なく、そして車を走らせている時も同様であった。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!


新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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