そして、この問題に対応するため、2019年には「特定技能制度」が導入され、外国人労働者の受け入れが拡大されました。しかし、2023年での介護分野にて就労する外国人労働者の数は2万人に届かず、2024年の目標として掲げた6万人には遠く及びません。こうした背景には円安の影響による我が国の平均賃金の低下や、米国やオーストラリアと比較して経済的な魅力が乏しくなっていることが挙げられます。さらに加えて、我が国での介護分野への若年層の就職も厳しく、介護・医療分野では、求人数は増加しているものの、労働環境の厳しさや賃金の低さなどから応募者側が忌避する傾向があります。また、さきに述べた円安等の背景から、より高収入・良好な労働条件を求めて、海外移住を希望する若者の動きも顕著になってきています。そして、こうした国内の状況が継続しますと、介護・医療分野での人材確保が一層困難になると考えられます。
そこから、この状況を改善して、介護・医療分野での持続可能性を確保するためには、多方面からのアプローチを採ることが適切であると考えます。具体的には、ロボット技術やICT(情報通信技術)などテクノロジーの活用により業務を効率化し、少ない人員でも良いサービスを提供できる体制を整備することが挙げられます。また、高齢の方々が自立できる環境を整え、介護従事者の負担をできるだけ軽減する仕組みも同様に重要と云えます。さらに、介護・医療職全般の労働環境や賃金を改善して、若年層から専門性と将来性を備えた魅力的なキャリアとして認識されることも大切であると云えます。とはいえ、こうしたテクノロジーの活用や処遇の改善だけでは、根本的な解決にはならないと考えます。根本に近い解決とは言えずとも、有意に改善すると考えられる、具体的な施策として、現行の人文社会科学系分野への進学希望者を介護・医療分野へ導くことであると考えます。例年、全大学進学者の半分以上は人文系に進みます。そして、このうちの2~3割程度が介護・医療分野への進学に興味を持ってもらうように、高校教育や進路指導などの段階で、将来のキャリア展望や社会的意義などを丁寧に説明して、魅力ある選択肢として提示できるようになることが、人材不足を解決する鍵になるのではないかと考えます。
そして同時に、介護・医療分野での専門知識と実践能力を養う「専門職大学」の新設も効果的であると考えます。既存の大学と専門職大学との異なる大きな点は、現場での実習の割合が多く、実践能力と専門知識とを統合したカリキュラムを提供し、即戦力となり、さらに成長可能性の高い人材の育成を目的とすることです。こうした新たな高等教育機関が拡充することで、優れた介護・医療専門職を多く輩出して、懸念される当分野での人材不足を改善することができるものと考えます。
また、介護・医療分野は、他の分野・産業とは異なり、直接的に経済的価値を生むものではありませんが、高齢化が進展する社会の生活基盤を維持する上で不可欠な分野です。そして、このことは、西欧など先進諸国においても同様の傾向があります。そこで、さきに述べた新設されるべき介護・医療系の専門職大学においては、実践的な外国語教育(話す・聞く)に大きく注力することにより、将来、我が国がこの分野において世界的な先導者となり、さらにまた、新たな普遍的な付加価値を生み出す能力を醸成することができるのではないかと考えます。
如上のように、我が国が介護・医療人材不足を乗り越えるためには、短期的・長期的双方の計画を組み合わせることが重要であると考えます。テクノロジー等による労働環境の改善、そして処遇改善、社会的な認知向上といった包括的なアプローチを推し進める一方で、世界規模で進展していく高齢化に対応するための人材を養成する機関として介護・医療系の専門職大学を新設することが、今後、我が国が国際社会において存在感を示し、適切な対価として外貨を得ていくための起点になるのではないかと考えます。
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