2024年5月26日日曜日

20240525 中央公論新社刊 「自由の限界」世界の知性21人が問う国家と民主主義 中公新書ラクレ pp.97-99より抜粋

中央公論新社刊 「自由の限界」世界の知性21人が問う国家と民主主義 中公新書ラクレ pp.97-99より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4121507150
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4121507150

世界は重苦しい傾向にある。社会は分裂し、かつ閉鎖的になってきた。そのことは、英国のEU離脱を決めた英国民投票を含む、各国の投票結果として表れている。だから、私は米大統領選でトランプ氏が勝つと予想した。この傾向は今後も続く。

 トランプ氏の勝利に失望する人々がいるが、トランプ氏は民主的に選出された。米国の民主主義は機能している。

 しかし「米国第一」を強調するトランプ氏は、開かれた社会や国際主義に対する脅威である。ナショナリズムの台頭という脅威だ。

 今日の世界は一九一〇年頃の世界と比較できる。当時も科学技術は進歩し、民主主義は機能し、グローバル化が進行していた。世界は民主的で満ち足りた発展を手にすることも可能だったはずだが、閉鎖的なナショナリズムの台頭が野蛮を生み落とした。二度の世界大戦だ。今日の世界も自らを閉ざそうとしているように見える。

 私の考える二〇一七年の最大の脅威は日米と中国の紛争だ。トランプ氏はロシアを友、中国を敵と見なしている。

 南シナ海で人工島を建設する中国の動き、核・ミサイル開発を強行し続ける北朝鮮の動きなどを加算すると、アジアは爆発寸前の状況にある。東シナ海と南シナ海で起こりうる全てのことが心配だ。大きな危険がそこにある。もし将来、日米と中国が戦争に至る事態になれば、世界戦争に拡大するだろう。そうならないように私たちは今、脅威の存在をしっかりと知っておく必要がある。

 軍事的な火種はこの他に五つ。ロシア対ウクライナなどの旧ソ連領、インド対パキスタン、中東、アフリカ中央部、そしてイスラム過激派組織「イスラム国」。「イスラム国」はイラクで支配地域を失うかもしれないが、リビアなど別の国で新たなる支配地域を得るに違いない。

 そして更なるテロが起きる。並外れた数の難民・移民が発生する。世界は緊張をはらみ、不安定になる。

 だが「世界の警察官」はいない。米国はオバマ政権時代にその役回りから降りている。「アラブの春」の後に軍事クーデターの起きたエジプトに介入せず、化学兵器を自国民を使用したシリアのアサド政権をたたかなかった。米国は既に世界から手を引きつつあるのだ。私は二〇〇六年に米国が撤退する世界に警鐘を鳴らしたが、現実のものになりつつある。