2018年10月18日木曜日

20181018 文藝春秋刊 山本七平著『ある異常体験者の偏見』pp.27-29より抜粋引用

文藝春秋刊 山本七平著『ある異常体験者の偏見』pp.27-29より抜粋引用
ISBN-10: 9784163646701
ISBN-13: 978-4163646701

『「私が一方ならぬお世話になり、今でもお世話になりっぱなりのI書店のI社長は、私たちとは全く別種の、恐ろしい体験をされた方であった。I社長は戦争中「特高」につかまり、ある警察署の地下の留置場に三年間入れられていた。しかしI社長には、一見、いわゆる「被害者意識」といったものが全くなかったし、外見からは、そんな恐ろしい体験をした人とは全く見えなかった。少しアルコールが入ったとき、その留置場生活を語るI社長の語り方は、不思議なことにむしろたのしげでさえあった。「そりゃあねえー、キミ、三年間、太陽というものを一回も見なかったよ。しかしナー、キミ、ボカァしまいにゃ牢名主になってネ、毛布五枚敷いたその上に座っていたんだ。ヤクザが入ってくるとボクの前で仁義を切ってサ・・・。キミ、仁義の切り方知ってるかい・・。それからなあ、キミたちは知らないだろうなあ、一時「三原山心中」というのがはやってね。そのころのあの留置場にゃ心中の片われが入れられてさ、ボカァ、よく説教したもんだよ。アハハ・・」といった調子で語られる。いわゆる社会の底辺の人びとの人間模様は、聞いていて一種の興味は感ずるものの、凄惨な雰囲気は全く感じられなかった。しかし後で思い起こすと、社長が語ったのはすべて、留置場内の他人のことと、その他人とのかかわりあいのことで、自分のことではなかった。I社長は絶対に怒らない人で、いつでも平静そのもの、社員がひどい失敗をしても、叱ることさえない人であった。そのためか、ある日の昼休み、社員たちが食後の無責任放談をしているとき、だれかが「一度、社長が逆上するところを見てみたいものだ」などというばかなことを言い出した。すると古い社員のNさんが妙なことを言った。「そりゃ、わけないことさ。巡査を見れば逆上するよ」「ヘエー」とみな怪訝な顔をするとNさんは笑って「そのうち、わかるよ」と言った。その「そのうち」が意外に早く来た。
いつものように机を並べて仕事をしているとき、何か一種異様な雰囲気を感じて私は思わず顔をあげた。そして顔をあげたのは私だけではなかった。奥の社長室の扉があき、皆の間を社長がカウンターの方へ歩いていく。その顔つき、体つき、歩き方、すべてが普段の社長と全然違って、全く別人のように見えた。異常な緊張感がその全身を包み、一種の怒気ともいうべきものを全身から発散させつつ、社長は、射るような鋭い目をカウンターの一角に据え、少しうわずった声で「オイッ、キミキミ、一体何の用だ」と言いつつ、相手を圧倒するような気迫でその方へ歩いていく。カウンターの一角には巡査が来ていた。何の用で来ていたのか知らないが、しかしやはり何か異様なものを感じ、それに圧倒されつつも、何が起こっているのか全くわからず、戸惑った顔をしながら、口の中でモゴモゴと何か言っている。「カッ帰りタマエッ」と社長は一喝した。巡査はあっけにとられたような顔をして帰っていった。われわれ一同、この騒々しい生意気社員たちも、一瞬何かに打たれたように、シーンとしている。その静けさの中を、コツコツという靴音とともに社長室にもどっていくI社長の後姿は、私にとって永久に忘れられない情景であった。しかしそれから三十分ほどたって社長室から出てきたI社長の顔は、いつもと違わず、温和そのものであった。「わかったろ」夕方、駅まで行く途中でNさんはいった。「そりゃ、常識があればわかることさ。社長がどんなに笑い話で話したって、特高につかまった留置場の三年間は、普通のコッチャないものな。ハハハー、巡査、驚いたろうな。前にこういうことがあったんだ・・」といってNさんは話を続けた。終戦後、左側通行が右側通行に切り替わった頃、日比谷公園の前で巡査が、左側を歩いている人たちに「右側を歩きましょう」というビラを配ったことがあったそうである。当時は「民主警察」の時代で、警察はきわめておとなしかった。I社長とNさんは、話に夢中になって、何も気づかずに左側を歩いていた。そして全く不意に巡査がビラをN社長に差し出す結果になった。「あのときは全く驚いた。社長はパッとニ、三メートルとびのいて身構えたよ。その瞬間、本当に人が違って見えた。ひどかったんだろうなあー、あの三年間は・・。」』



20181017 100~1200記事のあたりの現在が踏ん張り時・堪え時であるのか・・?【記事作成の継続と能動性の自覚】

先日の1100記事到達以降も、毎日ではありませんが、続けて記事作成を行ってきており、この調子にて記事作成を続けますと、年末には1160記事あたりまでは無理なく到達することが出来るのではないかと思われてきました。

さらに、来年の2月中には1200記事に到達することも出来るのではないかとも思われてきます。そして1200記事まで記事作成を継続しますと、今度はあまり無理をせずに1300~1400記事あたりまでは何とか書き続けることが出来るように思われてきますので、あるいは現在1100~1200記事のあたりが踏ん張り時・堪え時であるのかもしれません・・。

一方で、当ブログ開設当初は、100記事への到達でも、そこそこスゴイことであると感じており、また、200記事への到達の際も、そのことを記事に書き記しているほどでした。そして面白いことには、こうした『スゴイことであると感じる』は更に記事数が増加するに伴い徐々に減衰していくことから、この当初の100~200記事あたりこそがブログ記事作成継続の試金石となるように思われるのです・・。

それ故、次に2000記事への到達を目標としても、しなくとも、現在の1100~1200記事の段階は無理はしないまでも、多少辛くとも、記事作成を続ける方が良いのではないかと思われるのです・・。また、おそらく、ここには何かしらの普遍的な傾向、要素といったものはないのでしょうが、その一方で、ここで大事と思われることは、最終的には自身の感覚であり、そしてより深い、もしくは単純ではない能動性の自覚ではないかと思われるのです・・。

そしてここで、昨日分の投稿記事にて述べた『記事作成を継続することにより、自身内面のことを客体化・対象化して述べることが出来るようになったことが実感される』と、さきの『より深い、もしくは単純ではない能動性の自覚』を結びつけることが出来るのではないかと思われるのです・・。

また、まさに率直に述べると、こうしたところにコトバの深さといったもの、さらには人文社会科学系学問の価値の神髄のようなものがあるように思われるのです。

おそらくコトバは、率直さそして精確さを意識して用い続けることにより研ぎ澄まされ、用いるコトバのその意味が、自然と味わい深いものとなっていくのではないかと思われるのですが、さて、如何でしょうか?

ともあれ、今回もまた、ここまで読んで頂きどうもありがとうございます!


~書籍のご案内~
増刷決定!
ISBN978-4-263-46420-5

医歯薬出版株式会社


~勉強会の御案内~
前掲著作の筆頭執筆者である師匠による歯科材料全般、あるいはいくつかの歯科材料をトピックとした勉強会・講演会の開催を検討されておりましたら、よろこんでご相談承ります。師匠はこれまで長年にわたり大学歯学部・歯科衛生・歯科技工専門学校にて教鞭を執られた経験から、さまざまなご要望に対応させて頂くことが可能です。

勉強会・特別講義 問合せ 連絡先メールアドレス
conrad19762013@gmail.com 

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数年前より現在に至るまで、列島各地において発生した、さまざまな大規模自然災害により被害を蒙った地域の速やかな復旧、およびその後の復興を祈念しています。



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