2022年8月29日月曜日

20220829 株式会社文藝春秋刊 山本七平著 山本七平ライブラリー⑦「ある異常体験者の偏見」pp.270-271より抜粋

株式会社文藝春秋刊 山本七平著 山本七平ライブラリー⑦「ある異常体験者の偏見」pp.270-271より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4163646701
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4163646701

その日九時ごろ、私は家を出た。学生服の下にパンツでなく下帯をつけていた。これが当時の徴兵検査の正装である。検査場は杉並区下高井戸の小学校の雨天体操場、家から歩いて四十分ぐらいの距離である。その古い木造校舎は、戦後もしばらく残っていた。校門の近くの塀に白紙がはられ、筆太に矢印で検査場への道筋が示されている。殆どが学生服の三々五々が、手に書類をもってその方へ行く。雨天体操場ににはゴザが敷かれ、壁際がつい立てで仕切られ、その各区画を順々に通って検査をうける。周囲をつい立てで囲まれた中央のゴザの広場がいわば待合室で、そお正面が講義、終った者はその前に裸で並び、順々に呼び出されて壇の上から検査の結果が宣告されるらしい。

 そんな光景を、あけ放たれた雨天体操場の入口を通して横目で見つつ、その入口の横に机を並べて書類の受付をしている兵事係らしい人びとの方へと私は向った。その前には十数人の学生服が、無言で群れていた。そのとき私は、机の向うの兵事係とは別に、こちら側の学生の中で、声高で威圧的な軍隊調で、つっけんどんに学生たちに指示を与えている、一人の男を認めた。在郷軍人らしい服装と、故意に誇張した軍隊的態度のため一瞬自分の目を疑ったが、それは、わが家を訪れる商店の御用聞きの一人、いまの言葉でいえばセールスマン兼配達人であった。

 いつも愛想笑いを浮かべ、それが固着してしまって、一人で道を歩いている時もそういった顔付をしている彼。人あたりがよくて、ものやわらかで、肩をすぼめるようにしてもみ手をしながら話し、どんな時にも相手をそらさず、必ず下手に出て最終的には何かを売って行く彼。それでいて評判は上々、だれからも悪く言われなかった彼。その彼といま目の前にいる超軍隊的態度の男が同一人とはー。

 あとで思い返すと、余りの意外さに驚いた私が、自分の目を信じかねて、しばらくの間ジイーッと彼を見つめていたらしい。別に悪意はなく、私はただ、ありうべからず奇怪な情景に、われ知らずあっけにとられて見ていただけなのだが、その視線を感じた彼は、それが私と知ると、何やら非常な屈辱を感じたらしく、「おい、そこのアーメン、ボサーッとつっ立っとらんで、手続きをせんかーッ」と怒鳴った。そして以後、検査が終わるまで終始一貫この男につきまとわれ何やかやと罵倒といやがらせの言葉を浴びせつづけられたが、これが軍隊語で「トッツク」という、一つの制裁的行為であることは、後に知った。

 軍隊との初対面におけるこの驚きは、その後長く私の心に残った。そのためか大分まえ、ある教授に、ある状態で、ある役つきの位置におかれると一瞬にして態度が変るこの不思議さについて話したところ、これは少しも珍しくない日本人的現象だと同教授は言った。

20220828 類型化され得る要素としての「黒光り」・・

昨日の投稿記事は、思いのほか多くの方々に読んで頂けました。これを読んで頂いた皆さま、どうもありがとうございます。また、そうした事情から、当時多用していたGoogleマップのキャプチャ画像を投稿記事に挿入しました。この画像内でチェックして示されているのは、当時訪問した全ての医療・歯科医療機関ではなくて、そのごく一部の、携帯電話をスマホに変更してから後に訪問した場所です。

ともあれ、当時はそのようにして、訪問した場所をGoogleマップ上にて記録していましたが、現在になって思い返してみますと、これは悪くない方法であったのかもしれません。そして、今後また、この機能を用いてみたいと思います。

さて、冒頭にて述べました通り、昨日の投稿記事は投稿翌日としては比較的多くの方々に読んで頂けたことから、さらに、その続きを書き進めてみようと思います。

その内容は「成功している歯科医院に多く見られる類型化され得る要素」となりますが、それはあまり具体的に書きますと、個人特定されてしまうおそれがあることから、少し抽象的に述べます。

また、これまでの投稿記事内での、この題材に関連すると思しき記述として「20181109 『野
良犬』であった自分が思ったこと・・」
内にて述べた「これら先生方に共通する特徴として、ある程度以上に学究肌であることです。彼らは歯科医院を運営しながらも、ごく普通に研究を続け、学会発表をされていたり、専門書籍の執筆などをされています。」が挙げられますが、この記述は、さきの「類型化され得る要素」と、ほぼ同じであると云えます。つまり、2018年11月の私は、昨日の投稿記事にて述べたことの返答を既にしていたということになります。しかし同時に、そこで「そこには何らかの(究極的には説明できる)理由があるのではないかと考えます。」とも述べており、さらに、その先についての言及を試みていたようですが、こちらについては、未だ言語にて述べることは困難であると云えます。

ともあれ、少し前に戻って「これら先生方に共通する特徴として、ある程度以上に学究肌であることです。」について、もう少し述べていきますと、この「学究肌」とは、端的に、より、その方の本質・本能に近い部分から、自分の仕事(歯科医療)に関する興味を持ち続けているということであり、それは、特に同じ分野の方でなくとも、ある程度の期間、その様子を眺めていますと、判然とするのではないかと思われます。

それは見様によれば面白いものでるとも云え、ご自身が運営する歯科医院の患者さんの自費診療の割合を高くしようと色々と考えていながらも、他方では脱離した補綴装置の分析を行うために高価な顕微鏡や分析機器を購入するといった行動様式であったり、あるいは歯科医師ではありながらも、どこか理系分野での院生の延長といった感じが付きまとっているような行為態度とも云えます。また、それに付随することですが、その恰好が、ある程度の年齢まで達していて、また収入も悪くないはずであるのに無頓着であり、ここからも理系分野での院生の延長といった感じを受けます。

バブル期からのイメージの延長であるかもしれませんが、一般的に我が国の都市部の開業歯科医師と云いますと、ブランドものに身を包んだ「黒光り」しているようなイメージがあると思われますが、私の知る、さきの「類型化され得る要素」の外見とは、無頓着あるいは合理性に重点を置いたものであり、総じて穿き慣れたジーンズやスウェットパーカなどといったアイテムを好んでいるように見受けられました。また、その恰好は、街中で見かけますと、あまりパッとしたものには映りませんが、しかし、そのお話を伺ってみますと学術的な内容を、ごく普通な調子で話されたりすることから、また異なった意味での「黒光り」をイメージさせられますが、この「黒光り」に関しましては、また後日述べてみたいと思います。

今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
順天堂大学保健医療学部


一般社団法人大学支援機構


~書籍のご案内~
ISBN978-4-263-46420-5

*鶴木クリニックでのオペ見学につきましても承ります。

連絡先につきましては以下の通りとなっています。

メールアドレス: clinic@tsuruki.org

電話番号:047-334-0030 

どうぞよろしくお願い申し上げます。