2020年5月18日月曜日

20200518【架空の話】・其の16

【架空の話】
ほかにも、これに似たハナシはいくつもあるが、現在の兄は、洋服よりもバス釣りや自動車の方に興味が向いているようであり、私がK県に行く前に一度、訪問してみようと思った。この訪問については、また別の機会に書きたいと思う。

さて、初夏に編入試験の合格発表があり、そこから続く盛夏、晩夏は、論文作成のための調べもの、指導教員への研究経過報告、ドラフト執筆、そしてアルバイトに多くを費やし、季節を感じる余裕はなかった。

また、ドラフト執筆時にあらためて気が付いたことは、以前も述べたが、私の修士課程の研究テーマは、ジョセフ・コンラッドというポーランドに出自を持つ英国作家の著作から、当時の西欧文化、また時代精神の認識を試みることであるが、それら著作の中で、我が国で比較的知られているのが「闇の奥」(Heart Of Darkness)と云えるが、この「闇の奥」のテーマの一つが「居地の移動に付随する精神の変化」であり、まさに「今後の私の身に生じることにも相通じる部分があるかもしれない」のである。

この「闇の奥」は、これまで数度にわたり映画化され、それらの中で最も有名であるのがフランシス・フォード・コッポラ監督による「地獄の黙示録」(Apocalypse Now)であり、むしろ、我が国では、当映画作品の原作がコンラッドの「闇の奥」と云った方が通りが良いのではないかと思われる。もっとも、双方、時代や舞台背景は異なり、「闇の奥」は19世紀末のアフリカ中央部であり、「地獄の黙示録」は1960~70年代の東南アジア(ベトナムとその周辺)である。そして、これらから、さきにも述べたある種普遍的とも云える、居地の移動から生じる人間精神変容のメカニズムについて考えてみると「そうすると私の場合は今後一体どうなっていくのだろうか・・。」と思い至り、突如として不安になり、落ち着かなくなってくる・・。つまり、当時の私は、居地の移動の経験がないにも関わらず、精神の変化や、あるいは、それらが蓄積したものとも云える歴史や文化について、何やら知っている気でいたのだ・・。また、そのような状態を指して、おそらく「観念的」と云うのだろう・・。

他方、こうしたことはBに知らせても、あまり興味を持つことはなく、それよりも映画内で出てきたビル・キルゴア中佐のキャラの立ち振り・無双振りに甚く感心して「いやあ、実際ああいう人が上にいたら従ってしまうだろうね・・。」とのことであった。たしかに、それはわかるが、しかし、この著作・映画の一つの大きなテーマは「優れた資質を持っている人であっても(あるいは、であるからこそ)野蛮にして原初的な創造性を行使できる環境に身を置くことは、抗しがたい誘惑となるのか、あるいは、それとは反対に、優れた資質を持っていればこそ、徹底的に管理された社会・組織の中で自身の内面からの能動性を押し殺し、平穏無事に暮らすことが正しいのか。」といったところであると思われるのだが、おそらく、こうした大きな問いのようなものは、19世紀末から20世紀初頭の西欧社会全体を通じ、ある程度共有されていたのではないかと思われる。またそれは、対外的な帝国主義と、ある程度成熟した大規模市民社会の結合の所産であるとも評し得る。そして、さらにそこから少し時代がくだると、初の世界の国家同士による、大規模総力戦である第一次世界大戦がはじまるといった構図になるわけだ・・。
【その意味において、エルンスト・ユンガーの人生は象徴的であるように思われる・・。】

また、ハナシは少し変わるが、この「対外的な帝国主義と、ある程度成熟した大規模市民社会」が併存している時代の社会一側面を描いた著作がトーマス・マンによる「魔の山」であり、また同時に、それはジャン・ルノワール監督による映画「大いなる幻影」の舞台背景とも少なからず共通するものがあると思われるのだが、如何だろうか?

ともあれ、そうこうするうちに秋となり、本格的に論文を書き始めた次第であるが、それと同時に、引越しの準備なども少しずつ始めた。また、編入試験の合格以降、治療がなくともD先生の医院には週一程度で訪問し、色々と歯科にまつわる耳学問を仕入れている。Cさんとは、以前よりかは話せるようにはなり、Kでの出身地も聞くことが出来たが、生憎、私の方がKの地理感覚が乏しいため、あまり話しを展開することが出来なかった。くわえて、それとも関係するが、忘れてはいけないことは、Bが最終面接に通り、希望通りの地銀に入行することが出来たことと、同じK出身者であるからとBにCさんを引き合わせたことである。このハナシは単純であり、Bと話しをしていたら「就職後のために歯をキレイにしておきたい」とのことから、D先生の医院にBを連れて行ったからである。そして、そこでBは定期的にPMTCとホワイトニングを受けることになった。これらは主に歯科衛生士の職分であるとのことから、同年代のK出身者同士であるBとCさんの会話は弾んだのではないかと思われる・・。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

~勉強会の御案内~
歯科材料全般あるいは、いくつかの歯科材料に関する勉強会・講演会の開催を検討されていましたら、ご相談承ります。また、上記以外、他諸分野での研究室・法人・院内等の勉強会・特別講義のご相談も承ります。

~勉強会・特別講義 問合せ 連絡先メールアドレス~
conrad19762013@gmail.com
どうぞよろしくお願いいたします!








20200517【架空の話】・其の15

【架空の話】
「先日受けた説明によると13:00からHPにて掲示とのことであり、時刻を過ぎ、更進ボタンを押してみると、学科毎の合格者の受験番号が掲示されており、口腔保健工学科の欄を見てみると、果たして、そこには一つだけ番号が掲示されており、それは私の受験番号であった・・。

とはいうものの、いざ合格してみると、その実感らしきものはなく「そうすると、生まれて初めての引越しを経験することになるが、どうしたものか・・。」といったことの方が気がかりになり、そこで、すぐさまBにメールを送り、合格したことを伝えた。すると「良かったな。今後忙しくなると思うけれど、Kでの家探しでは協力できるかもしれない。」といった返事が来て、くわえて「最終面接まで行った。こちらは結果が出るまでもう少し時間がかかりそうだ。」とも記されていた。

次いでD先生の医院に電話を掛けると、ごく短時間ではあるるが、電話口に出てきてくれて「ああ、それは良かった。また今度夕食にでも行って、そこで話そう。」とのことであった。しかし、丁度あの時、歯が痛くなり、D先生の医院に行かなければ、このような事態には至らなかったと思われることから「偶然とはスゴイものである。」と同時に「あるいは、これは必然であるのかもしれない。」とも思い、そこから、偶然と必然の違いというものが、イマイチよく分からなくなった・・。

また、自宅に電話をかけて編入試験合格を伝えると、電話口に出た母親は「そお、受かったの・・それじゃあ、まあ頑張りなさい。」と、あまり気のない返事であった。おそらく、母親としては、二つ年上の兄も就職で既に家を出て、そのうえ私も遠いk県まで行くというのは、少なくとも手放しで歓迎出来る事態ではなかったのかもしれない・・。

そういえば、ここで兄がハナシに出てきたが、私には兄がいる。父親と同様、理工学部に進み、その分野での通例通り修士課程を修了し、某家電メーカーに就職し、現在は、近畿地方W県の事業所にて勤務している。仕事が忙しいのか、ここ最近は、あまり連絡がないが、以前に愚痴っていたのは「理系出身だから研究所に配属されると思っていたら、どうしたわけか、営業部署の配属になって大変だ。」といったことであった。しかし一方、W県での生活は、それなりに楽しんでいるらしく、向こうでバス釣りをはじめたことや、中古の自動車を購入したことを幾分誇らしげに伝えてきたこともあった。

また、私もそうした兄の様子を見て「何処か他の場所に行くのも悪くないのでは・・。」と思うようになっていたのかもしれない・・。

くわえて、兄からの他の影響と思われることは、古着も含めて洋服好きであるということである。傾向として兄は、所謂アメカジが好きであり、とりわけ第二次世界大戦頃の米陸軍航空隊のフライトジャケットを好み、各メーカーが製造しているレプリカのフライトジャケットは、片手では数えきれない程持っていた。おそらく、アルバイトで得た収入の多くを、そちらの方に費やしていたのではないかと思われる・・。

さらに、この趣味に拍車が掛かり、レプリカのあまり高価ではない布製フライトジャケット(たしかB‐10という型であった。)を購入し、サンドペーパーや洗濯機などを用いて布地にアタリや退色感が出るように加工し、背中に何やら絵を描いたりし、さらにジッパーを部品取りするために比較的安価な、状態の良くない1940年代のジャケットを購入し、ジッパーを外して加工したフライトジャケットの方に取り付け、いかにも本物のヴィンテージらしく見えるような加工をしていた。兄から聞いたハナシによると、このジャケットを都内のヴィンテージ古着を多く扱っていることで有名な店に、買取希望として持込み、店員によるチェックで本物のヴィンテージであると認められ、かなり高額での買取を申し出て来たという・・。

しかし、ここまでやると多少やり過ぎの感もあると云えるが、単純に兄は、自分の加工したジャケットをプロに評価してもらいたかったのだと思う。その証左として、兄はそのジャケットを店に売却せず、そのまま大学での作業着として愛用していた。

ほかにも、これに類したハナシはいくつもあるが、現在の兄は、洋服よりもバス釣りや自動車の方に興味が向いているようであり、私がK県に行く前に一度、訪問してみようと思った。この訪問については、また別の機会に書きたいと思う。」

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!



新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

~勉強会の御案内~
歯科材料全般あるいは、いくつかの歯科材料に関する勉強会・講演会の開催を検討されていましたら、ご相談承ります。また、上記以外、他諸分野での研究室・法人・院内等の勉強会・特別講義のご相談も承ります。

~勉強会・特別講義 問合せ 連絡先メールアドレス~
conrad19762013@gmail.com
どうぞよろしくお願いいたします!