2018年3月23日金曜日

20180323 主に二著作からの抜粋引用 冷戦後の世界規模での宗教の興隆と我が国の場合・・

其の1 
集英社刊 サミュエル・ハンティントン著『文明の衝突』上巻 pp.163-164より抜粋引用
『(冷戦後の)グローバルな宗教復興をもたらした最も顕著で重要な、そして最も強力な原因は、まさしく宗教に死をもたらすとされていたものにほかならない。すなわち、二十世紀後半の世界に巻き起こった社会、経済、文化の近代化の嵐である。これにより、長いあいだ確立されていたアイデンティティの基盤と権威の体制とが崩壊した。人びとは農村部から都市へと流入し、故郷との絆を断って、新しい仕事についたり、職を失ったりした。彼らは見知らぬ多くの人びとと接触するようになり、新しい人間関係のなかにおかれた。彼らはアイデンティティの新しい根拠、新しい安定した社会、新しい道徳律の体系を求め、そこでみずからの存在意義と目的とを見つけようといたのである。宗教は、主流の宗派であれ原理主義であれ、これらの欲求をみたしてくれた。リー・クワンユーは、東アジアについてこう説明している。

われわれは一、二世代のうちに工業化をなしとげた農業社会である。西欧では二百年、あるいはそれ以上の年月をかけて行われたことが、ここでは五十年あるいはそれよりも短期間のうちに起ろうとしている。非常に短い期間に、すべてが押しつぶされそうに詰めこまれているのだから、混乱や誤作動があるのはやむおえない。韓国、タイ、香港、シンガポールなどの成長いちじるしい国々を見ると、一つの驚くべき現象に気づく・・・宗教の興隆である。祖先崇拝、シャーマニズムといった古い習慣や信仰だけでは、もはや完全な満足は与えられなくなった。人間の存在意義、なぜわれわれはここにいるのかといった疑問に対し、より高いレベルの答を求める動きがある。これは人びとが社会のなかで周期的に大きなストレスを経験していることと関係がある。

人間は、理性のみによって生きていくものではない。彼らは自己の利益を追求するうえで計算し、合理的な行動をとる前に、まず自身を定義づけなければならない。利益追求の政治を実施するには、まず自己の存在を規定する必要がある。社会が急速に変化するとき、確立していたはずのアイデンティティは崩壊し、自己を新たに定義しなおし、新しい自己像を構築しなければならなくなる。自分は何者か、自分はどこに帰属するのかといった問いへの答えを求める人びとに、宗教は魅力的な答えを与えてくれる。宗教集団は、都市化によって失われた地域社会にかわって、小さなコミュニティを新たに創出してくれるのである。』

其の2
講談社刊 加藤周一著 『日本人とは何か』 pp.116-117より抜粋引用
『では(戦後)日本の田舎ではどうか?
きだみのる氏は「部落には宗教はない。宗教の屍があるだけだ」と断定し、次のような注目すべき観察をした。

それは村のお彼岸会であり、檀家たちがお経を聞き、読経料二百円ずつ出した後で、きだみのる氏が住職や総代たちと酒を飲んだ時に考えたことである。


彼岸の今日の儀式、費用、それらはすべて今日の部落の生活の現実に対して何の意味も持ってはいない。住職も部落の連中も懲罪の場としての地獄も亡霊の存在も信じていはしない。住職は生活のためにそれを信じている振りをしているかも知れない。しかも他のものは全く意味をもたない伝統の歯車のまにまにこのような儀式を行っているのだ』と(「群像」一九五六年十一月号)


田舎では、仏教も天皇崇拝も、まだほんとうに生きているという考えは、日本人の観察者の中にも少なくない。

しかし、そういう観察者の大部分は都会の住人であって、部落の人々にとってはよそ者である。

部落の事情をほんとうに理解することがむずかしいのは、外国人にとって日本の事情を理解することが困難なのと似ているかもしれない。外からの観察者にとっては、田舎に宗教がみえ、内からの観察者にとっては宗教の屍がみえる。ということは、田舎には都会よりも、宗教殊にその信仰ではなく、その儀式的な面がよく保存されているということなのであろう。「住職は生活のためにそれを信じている振りをしているかもしれない。」―ときだみのる氏はいう。それを見破るためには、氏のように長い間部落に住みこむ必要があるだろう。調査票を配布して、回答を集めるやり方で、それを見破るのは、むづかしい。ところが政治・社会・文化現象の全体にとって、宗教が何らかの影響をもつか、もたぬか、もつとすればどういう影響であるかは、信じているのか、信じているふりをしているのかということによって、決定的に左右されるはずである。しかもそれだけではなく、この信じるのでもない、信じないでもない、「信じるふりをする」という態度のうちには、宗教と関連しての日本的なものの典型があらわれているかもしれないのである。

近年から現在に至るまでに列島各地にて発生した、もしくは今現在も継続して発生している地震・大雨・水害・火山噴火などの大規模自然災害により被害を被った(被っている)諸地域の安全そして復興を祈念しています。



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