日本人の腸内環境には、世界的にも特徴的な点があります。それは腸内細菌に善玉菌であるビフィズス菌の割合が特に高いことです。同じ東アジア圏の中国人と比較しても、日本人の腸内環境は顕著に異なり、中国人の腸内環境はむしろ北米人に近いという結果が得られました。また、日本人の腸内細菌には、炭水化物やアミノ酸を栄養源として代謝する能力や海藻類を分解する酵素遺伝子を持つといった特徴もあります。こうした特徴は、我が国の古くからの水稲耕作文化と海産物を多く摂る食文化の伝統と関連していると考えられます。さらにまた、肥満率の低さや長寿といった健康文化とも関連があるとも考えられます。
先述のように日本人の腸内環境は5つに分類され、それぞれの特徴は以下の通りとなっています。
タイプA:肉中心の高たんぱく・高脂肪の食事を好むタイプで肥満の原因となるルミノコッカス属が多い。
タイプB:たんぱく質、脂質、炭水化物がバランス良く摂られているタイプで、肥満を防ぐバクテロイデス属や、炎症を抑える酪酸を産生するフィーカリバクテリウム属が多い。
タイプC:炭水化物に偏った食事が多いタイプで、バクテロイデス属は多いがフィーカリバクテリウム属が少ない。
タイプD:高たんぱく・高脂肪に加え、砂糖の摂取が多いタイプで、ビフィズス菌が多いものの、タイプAに近い腸内環境を持つ。
タイプE:野菜や魚が多く、脂質が少ない健康的な食事タイプで、日本人に多いプレボテラ属が豊富に含まれる。この細菌は食物繊維の分解に関与している。
上記の5分類は健康リスクとも関連しており、たとえばタイプE(野菜や魚が多い食事タイプ)やタイプB(バランスの取れた食事タイプ)が健康的で良いとされる一方で、タイプA(高たんぱく・高脂肪タイプ)は疾患リスクが高いことが指摘されており、タイプEの人に比べタイプAの人は心疾患のリスクが14倍、糖尿病が12.5倍、高血圧が11倍にも上ると報告されています。また、タイプCは炎症性腸疾患(IBD)そしてタイプDは肝疾患などのリスクが高いとされています。
さて、上述のように腸内環境と健康につい書き進めていますと、ドイツの精神医学者エルンスト・クレッチマーによる著書『体格と性格』が想起されます。クレッチマーは、さきの著作において、体格と性格や気質との関連性を考察しました。それを簡潔に述べますと、たとえば、細身の体型の人は内向的で厳粛な性格が多く、肥満体型の人は外向的で快活な性格が多いといったことです。ともあれ、これに、さきに述べた日本人の腸内環境による5分類を重ねてみますと、腸内環境が体格や性格の形成に関与している可能性も想定出来ます。
具体的には、タイプA(高たんぱく・高脂肪)のルミノコッカス属が優勢な腸内環境は、肥満体型を助長するだけでなく、性格的には快楽志向や衝動的な行動などとも関連する可能性が示唆されます。他方で、タイプEの野菜や魚を主とした食生活は、腸内環境が健康的であるだけでなく、内面での安定や持続可能な行動とも関連する可能性があります。このように、腸内環境には身体的健康だけでなく心理的傾向(性格)にも影響を及ぼす多面的な性質があると云えます。
腸内環境を良好に保つためには、プロバイオティクス(善玉菌)の摂取やプレバイオティクス(善玉菌の増殖を促す成分)を積極的に取り入れることが推奨されます。ヨーグルトや納豆などの発酵食品を継続的に摂取し、野菜、果物、豆類、海藻類に含まれる食物繊維やオリゴ糖を食生活に取り入れることで腸内細菌叢の多様性が保持され、健康な腸内環境が維持されます。我が国の伝統的食文化は、こうした観点から見ても、理想的であり、世界規模においても心身の健康に資する優れた食文化であると考えます。
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