兄曰く「あと少しで着くから。」とのことであったが、具体的な目的地については、何も情報がなかったが、まあ隠しておいた方が面白いというのであれば、それはそれで、私としても、乗っておいた方が面白いというものであろう・・。
さらに、海と陸の丁度、境界を走るような道路を走っていると、時折、右手の海側に小半島状の陸の出っ張りがあったが、かつては、それら小半島の海際にも道路が通じていたようであり、その度に右側に曲がる寂れた道が目に入ってきた。現在、我々が走る車道も十分に都市部とは異なった趣があると云えるが、この右手に曲がる道に入ると、一体どのような感じがするのだろうかと、不図思った・・。
また、兄は「もうじきだよ。あと10分もかからないと思うけれど、今向かっているところは、車を降りてからまた少し山道を登るけれど、それはたいした距離じゃないから・・。それと、今日の夕飯はW市内に戻ってから、また別の中華そばを食べようと思っているのだけれど、他に何か希望や食べたいものはある?」と訊ねてきたため「いや、昨日のとは別の中華そばも美味しそうだし、それで構わないよ。それよりも、この辺りは道路と海の距離がやけに近いね。」と話を振ると「ああ、現在、内陸の方に高速道路を建設中だけれど、それよりも、こうした観光で走る分には、この海際の道を走る方が面白いと思うんだよね・・。でも、たしかにこの辺りの道路は、海に近い、いや、近過ぎるから、台風なんかで天気が悪くなると、すぐに通行止めになるね・・。だから、山の方に裏道も結構あるんだけれど、それはそれで、細くてクネクネしているから、乗っていて気持ち悪くなってしまう人も結構いるらしいよ・・。まあ、それでも、、昔の徒歩での熊野古道参詣よりかは、かなりマシだろうけどもね・・。でも、時間があれば一度このあたりを歩いて熊野本宮あたりまでは行ってみるのも悪くないかもしれないね・・。四国では弘法大師の足跡を辿る有名なお遍路があるけれど、こちらでの熊野三山の参詣には、仏教と神道が混ざったような、より原始的とも云える、何というか自然崇拝に近いような感覚が根底にあるんじゃないかと思うことがあるんだ・・。それに、さっき風呂で立ち寄ったS浜も、まだ古墳を造っていた古代の末期とも云える7世紀半ばくらいに万葉集に歌を載せるような人達が、訪れていることが記録されているんだよ・・。まあ、機会があれば話すけれども、そうした物語も、なかなか悲しくて醜いものがあるよ・・。しかし、それだけではなくて、南方熊楠が後半生を過ごしたのは、さっきのS浜にほど近いT辺という街で、よくこちらの方にも出向いていたらしいよ。だから、そういった我が国の自然科学分野での、まあ巨人もしくは変人と云えるような人が好んで居着いたということは、やはり、さきほどの「自然崇拝に近いような感覚」もあながち間違っていないんじゃないかと思うんだよね・・。」と云ってから、ホルダーに置いていたペットボトルのジャスミン茶を一口飲んで、さらに「さあ、もうじきだよ。」と云って右側にウィンカーを出し、左右を確認してから右側にハンドルを切った。
そこからは、かなり道が狭くなり、また道路の舗装整備も、しばらく為されていないような若干凸凹する感じであった。そうした道をしばらく走り、海側に突き出た半島状の陸地を廻り込みつつ登っていくと、観光ホテルの看板が現れたが、手入れされている様子はなく、あるいは既に閉まっているのかもしれない。そして、それらしき建物が見えてきたが、営業してる様子は見受けられず、ただ、その前にある広場で、何人かの方々がケートボールをしていた。距離も遠いためか、こちらに気が付く様子もなく、兄はさらに車を少し走らせて、おそらくあまり人が殆ど来ないようなところに車を停めた。そして、周囲を見てから「さあ、ここだ。」といって後ろにおいてあるリュックを取り、手早く車を降りた。私もそれを真似して車外に出てみると、海が近く、多少標高があるからか、さきほどよりも風が冷たく感じられた。周囲はあまり手入れされたような痕跡がない、まさに自然といった趣であり、その中に獣道とは云えないものの、かといってキチンとした道とも云えなさそうな道(のようなもの)がさらに上に続いていた。兄は、その方向に歩き出し、私もすぐに、それを後ろから追い、横に並んだ。
*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
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祝新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5
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