2020年11月25日水曜日

202011125【架空の話】・其の48

ちなみにE先生は、年齢がこの時29歳であり、比較的私とも近く、その後、色々とお世話になることも多かった。

その後、ブラブラとT文館を一巡し、途中でペットボトルの暖かいお茶も購入して、ホテルに帰着したのは22:30頃であった。部屋に戻ると、テレビを点けてから、バスタブにお湯を溜めつつ、ベッドに座っていると、僅かに外の繁華街の喧騒が聞こえてきたが、それもまた何故だか、異郷にいることを感じさせた。

やがて、バスタブに湯も溜まり、決して広くはないトイレと一体になったユニットバス内で器用にシャワーで身体を流してから、バスタブに浸かった。気のせいであるかもしれないが、どうも水が首都圏よりも柔らかいように感じられた。しかし、その後、幾つかの地域にて風呂に浸かる経験を経てきたが、この時の感覚は間違いとは思えず、たとえ水道水であろうと、地域による相違はあるのではないかと、現在に至るまで考えている。

さて、風呂から上がり少しのぼせ気味の中、テレビをボーっと観ていると、時刻は24:00近くになっていた。翌日は特に早起きする必要はないものの、少し早く出て、またT文館を歩いてみようと思ったが、そこで不図、ホテルのチェック・アウト時刻が10:00であり、また明日Bがやって来るのが昼前であることを思い出した。そして、Bがやってくる頃には既に宿泊客ではなくなっている私に駐車場を貸してもらえるかが心配になってきた・・。そこで、フロントに内線電話をかけようとしたが、こうしたことは面と向かって言った方が良いと思い、タオルで頭をもう一度拭いてから、客室備え付けの寝間着を着てフロントに向かった。冬季だけに室外は多少冷えたが、我慢できないほどではなかった。やがてフロント前に着くと、若い男性が何やらPCの入力作業のようなことを行っていてが、私の姿を認めると「何か御用でしょうか?」と訊ねてきた。そこで「明日、昼頃から14:00過ぎあたりまで駐車場を使わせてもらうことは可能か?」という主旨の質問をすると、すぐに一端バック・ヤードに下がり、そしたまたすぐに戻ってきてPCの画面を確認してから「ええ、明日の昼は大きな宴会も入っておりませんし、また、自動車でお越しになる早めのチェック・イン予定の方はいらっしゃいませんので、大丈夫です。ええと、何処のお部屋にお泊りでしょうか?」と訊ねてきたことから「はい、7階の7**号室の**と申します。」と返事をすると、ペンで何かを記入して「はい、承知しました。では、その旨、明日勤務の者にも申し伝えておきます。」とのことで、無事に駐車場を使用させて貰えることになった。

安心して、部屋に戻るとルームキーを室内に置いたまま出て来たことに気が付き、閉ざされたオート・ロックのドアの前で少し困惑したが、ここは速やかに再度フロントに行くべきと判断し、またフロントに戻った。フロントのスタッフの方も前と一緒であり、またこちらを認めると何か言い出しそうであったが、私が先に「すいません・・。ルームキーを室内に置いたままで出てきてしまいまして・・」と頭を掻きながら話しかけると「ああ、そうですか、では今ご一緒に伺います。7**号室の**様ですね。」と云い、バック・ヤードに一声掛けてから、しゃがんでキーケースの中にあると思しきマスター・キーを手に持ち、エレベーターに乗り解錠のために同行してくれた。

そこで少し雑談をしたが、こうしたことは度々生じるそうで、特に恥ずかしいことではないとのことであったが、しかし、それでもやはり恥ずかしいには違いないだろう・・。

そうして、どうにか再び室内で落ち着くことが出来たのは、24:00過ぎであり、早々に洗面や歯磨きなどをしてから、就寝した。この日も色々と初めての経験があったことから多少の気疲れもあったようで、すぐに寝付くことが出来た。

翌朝目を覚ましたのは7:30頃であり、特に用事もないことからテレビを点け、そのままベッドの中から観ていると、徐々に目が覚めてきて、ベッドから出て洗面、歯磨きなどを行い、着替えてから概ね荷物をまとめ終えたのが、大体8:15頃であった。チェック・アウトまではまだ大分時間があることから、どこかへ行ってみようと考えたところ、昨夜、偶然会った面接官(E先生)のことから思い出したのか、もう一度大学を見に行こうと思い付いた。そうと決めると動きは速やかになり、外出の準備を済ませて外に出た。今度はルーム・キーは持参したままである。

電停までは徒歩5分もかからずに、やがて来た中央駅方面への市電に乗り、目指す市民病院前駅に着いたのは8:50過ぎであり、思いのほかに早く着いた。そこから大学まではまた徒歩で1、2分程度であり、大学の前に立つと、どうやらこの時期は医療系資格の国家試験が集中しているようで、何だか全体にピリピリした雰囲気が漂っていた。こうした雰囲気は人文社会科学系の大学キャンパスではあまり感じられないものであり、これに関しては今に至るまで、どうも慣れることが出来ない・・。

ともあれ、そうした事情から、折角訪れたキャンパスではあるが、何やら邪魔をするようで悪いと感じ、また時刻も悪くないことから、編入試験の際も利用したファーストフード店に入ると、この時も以前と同様少なくない学生さんと思しき方々がいたが、混雑とまでは行かず、すぐに席も確保出来た。そして、ソーセージエッグマフィンセットを注文し、比較的時間をかけて食べ、食後も一休みしていると、時刻は9:30に近くなっていたことから、ホテルに戻るべく立ち上がり、そして「今日の昼食はあまり食べられないな・・」と不図思った。その後、ホテルに着いたのは9:50頃であり、無事にチェックアウトも終えた。とはいえ、Bが着くまではまだ少し時間があることから、腹ごなしも兼ねて、また少しT文館を散策しようと思い立った。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!



ISBN978-4-263-46420-5

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20201125 株式会社講談社刊 村上春樹著「羊をめぐる冒険」上巻pp.19-22より抜粋

株式会社講談社刊 村上春樹著「羊をめぐる冒険」上巻pp.19-22より抜粋

ISBN-10 : 4062749122
ISBN-13 : 978-406274912

 1970年11月25日のあの奇妙な午後を、僕は今でもはっきりと覚えている。強い雨に叩き落された銀杏の葉が、雑木林にはさまれた小径を干上がった川のように黄色く染めていた。僕と彼女はポケットに両手をつっこんだまま、そんな道をぐるぐると歩きまわった。落ち葉を踏む二人のの靴音と鋭い鳥の声の他に何もなかった。

「あなたはいったい何を抱え込んでいるの?」と彼女が突然僕に訊ねた。

「たいしたことじゃないよ」と僕は言った。

彼女は少し先に進んでから道ばたに腰を下し、煙草をふかした。僕もその隣りに並んで腰を下した。

「いつも嫌な夢を見るの?」

「よく嫌な夢を見るよ。大抵は自動販売機の釣り銭が出てこない夢だけどね」

彼女は笑って僕の膝に手のひらを置き、それからひっこめた。

「きっとあまりしゃべりたくないのね?」

「きっとうまくしゃべれないことなんだ」

彼女は半分吸った煙草を地面に捨てて、丁寧に踏み消した。「本当にしゃべりたいことは、うまくしゃべれないものなのね。そう思わない。」

「わからないな」と僕は言った。

ばたばたという音を立てて地面から二羽の鳥がとびたち、雲ひとつない空に吸い込まれるように消えていった。我々はしばらく鳥の消えたあたりを黙って眺めていた。それから彼女は枯れた小枝で地面にわけのわからない図形を幾つか描いた。

「あなたと一緒に寝ていると、時々とても悲しくなっちゃうの」

「済まないと思うよ」と僕は言った。

「あなたのせいじゃないわ。それにあなたが私を抱いている時に別の女の子のことを考えているせいでもないのよ。そんなのはどうでもいいの。私が」彼女はそこで突然口えお閉ざしてゆっくりと地面に三本平行線を引いた。「わかんないわ」

「べつに心を閉ざしているつもりはないんだ」と僕は少し間をおいて言った。「何が起こったのか自分でもまだうまくつかめないだけなんだよ。僕はいろんなことをできるだけ公平につかみたいと思っている。必要以上に誇張したり、必要以上に現実的になったりしたくない。でもそれには時間がかかるんだ」

「どれくらいの時間?」

僕は首を振った。「わからないよ。一年で済むかもしれないし、十年かかるかもしれない」

 彼女は小枝を地面に捨て、立ち上がってコートについた枯草を払った。「ねえ、十年って永遠みたいだと思わない?」

「そうだね」と僕は言った。

 我々は林を抜けてICUのキャンパスまで歩き、いつものようにラウンジで座ってホットドッグをかじった。午後の二時で、ラウンジのテレビには三島由紀夫の姿が何度も何度も繰り返し映し出されていた。ヴォリュームが故障したせいで、音声は殆ど聞きとれなかったが、どちらにしてもそれは我々にとってはどうでもいいことだった。我々はホットドッグを食べてしまうと、もう一杯ずつコーヒーを飲んだ。一人の学生が椅子に乗ってヴォリュームのつまみをしばらくいじっていたが、あきらめて椅子から下りるとどこかに消えた。

「君が欲しいな」と僕は言った。

「いいわよ」と彼女は言って微笑んだ。

我々はコートのポケットに手を突っ込んだままアパートまでゆっくり歩いた。