こちらの講座の長であるO教授は、以前はS教授の同僚であり、年齢は二つほど違うとのことで、また、当歯科大学のOBで歯科医師でもあった。ともあれ、おそるおそる研究室を訪ねると、話が通じていたのか、すんなりと教授室に通され、そして預かっていた実験試料一式を手渡すことが出来た。するとO教授は早速、それらを手に持ち、私を連れ立って実験室に向かった。これまでに私は医専大とK大学以外の歯科理工学講座の実験室に入った経験はなく、この時が初めてであったが、これには少しの緊張と共に、何と云うかパラレル・ワールドを覗くようなワクワク感が少なからずあった。
室内に入ると、歯科歯科理工学研究室にて共通するのか、鼻を衝くモノマー液の匂いが薄くなったものや、高温状態の電気炉が発する、あの独特の熱気などを感じ取ることが出来た。そして、その奥に医専大やK大学のそれよりも大掛かりな、万能引張圧縮試験機が据え付けられており、その前には白衣を着た私と同年輩と思しき方が、キャスター付きスツールに座り、背中を丸めて何かの作業を行っていた。
そこへO教授が後ろから「おお、実験進んでいるか?それで、今朝の講座連絡会議でも話したK大学の歯科理工学研究室の大学院生**君がつい先ほど着いてね、こないだK大のS教授と話して、次のジルコニアと歯科用陶材との接着強さを測定する実験はラウンドロビン・テストにしてみようということで、向う(K)で作った試料を持って来てもらったのだが、今からこの試料を使った接着試験は出来るかな?」と話しかけた。
すると、背中を丸めていた方は、すぐさま顔を上げて、こちらを向き、手に持っていた小型のモンキーレンチを何かの治具らしきものから離して、そのままの手で額を拭った。この時、試験機の前にいる方は、かねてより私と似た実験を手掛けていると意識し、また、学会発表の際に何度か質問を受けていたことが思い出された。
そして「ええ、先ほど治具の組み立てを終えて、今しがた、別素材の同型の試料を用いて予備実験をして、治具の微調整をしたところですので、今からスグにでも始めることは出来ます。」と返答をされた。
後で知ったところによると、この方は当研究室の大学院生(博士課程4年)であり、主に歯科用合金と、さまざまな材料との接着についての研究をされており、学会発表の際に示される、それら界面を高倍率にて観察した電子顕微鏡像のクリアさにはいつも感心していた。あるいは、これは主として実験機器自体の性能であるのかもしれないが、そうであっても、高倍率にて、あの程度までピントを合わせることが出来ることは、当時の私にとっては驚くべきことであったのだ・・。
やがて、私が持参した数種類の試料が入ったケースを開き、そこから一個づつ試料をと取り出し、各種寸法を電子ノギスにて測定し、それぞれ数値をエクセル図表に入力し、図表データとの相関が分かる様に試料番号が記載されたウェルプレートに収められた。
この実験自体はどちらかと云うと荒っぽいものとも云えるのだが、そこに至るまでの作業工程、つまり、試料の作製後から実験に至るまでの過程がなかなか面倒であり、あるいは条件毎の試料数が多ければ、こちらの作業の方が大変であり、また面倒であると云えるかもしれない・・。
ともあれ、今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
日本赤十字看護大学 さいたま看護学部
祝新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5
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