過剰な砂糖の摂取が健康に悪影響を与えることは広く知られていますが、特に問題視されるのは食品や飲料に人工的に加えられた「添加糖」です。添加糖は、肥満や2型糖尿病・高血圧など多くの慢性疾患のリスクを高めることが数々の研究で示されています。さらに、妊娠期から子どもが2歳になるまでの「最初の1000日間」における砂糖の摂取が、子どもの将来的な健康に影響を及ぼすことが近年の研究で明らかになっています。
学術誌「サイエンス」に掲載された研究によると、妊娠期から幼少期にかけての1000日間に砂糖の摂取量を減らすと、子どもの成人後に2型糖尿病のリスクが約35%、高血圧のリスクが約20%減少する可能性があると報告されています。また、2型糖尿病の発症を平均で4年、高血圧は2年遅らせる効果もあるとされています。この研究は、英国で第2次世界大戦中に導入された砂糖やお菓子の配給制度が1953年9月に終了した時期のデータを用いており、配給制度の影響を受けた妊婦や幼児の後の健康状態を追跡調査しました。
戦時中の配給制により、当時の英国では成人の1日あたりの砂糖摂取量が40グラム程度に制限されていましたが、配給制が終了するとほぼ倍の80グラムに倍増しました。研究者たちは配給制終了前後に生まれた6万人以上のデータを分析した結果、配給中に妊娠や出産を迎えた乳児は肥満のリスクが約30%低下し、配給制終了後に生まれた乳児は2型糖尿病や高血圧のリスクが増加する傾向があることを確認しました。さらに、妊娠期や幼少期の砂糖制限は、子どもが生涯にわたって甘いものを好む傾向を抑える効果があることも示されています。
テネシー大学のマーク・コーキンス教授によれば、人間は生まれつき、甘味に対する好みを持っているが、過剰な砂糖摂取は代謝に悪影響を与え、体が糖を脂肪として蓄えやすくなると指摘しています。人類は古来より果物など自然の糖を摂取していましたが、精製された砂糖は非常に濃縮されており、現代ではチョコレートケーキなどの甘味が簡単に手に入るため、ほとんどの人が無意識のうちに過剰摂取しているのです。このような環境により、体は飢餓に備えて糖を脂肪として蓄えようとする一方で、実際には摂取過剰が原因で肥満や生活習慣病のリスクが高まっています。
現代の食生活においては、加工食品や清涼飲料の消費が増えており、これが過剰な砂糖摂取の主な要因です。例えば500mlのソフトドリンクには20~40グラムの砂糖が含まれており、これだけで1日の摂取目安量を超える場合があります。WHO(世界保健機関)は1日のカロリー摂取のうち砂糖を10%未満、できれば5%未満に抑えることを推奨していますが、実際には多くの人がこれを超えています。また、米国の食事ガイドラインでは、2歳以上の人々が1日あたりの砂糖摂取量を総カロリーの10%未満にすることが求められていますが、特に妊娠中や授乳中の女性は1日80グラムを超える添加糖を摂取しており、推奨量の3倍以上に達しています。
こうした砂糖の過剰摂取を防ぐため、さまざまな対策が求められています。まず、食品パッケージの栄養成分表示を改善し、消費者が糖分の含有量を一目で確認できるようにすることが重要です。糖分表示が明確になることで、消費者が自分で適量を意識して選ぶ手助けとなるでしょう。また、学校や家庭での栄養教育も重要です。砂糖が過剰に体に入るとどのような影響があるかを広く理解してもらうことで、子どもが早い段階から健康的な食習慣を身につけ、将来の健康リスクを軽減できるようになります。
さらに、砂糖を多く含む食品に対する課税や規制を導入することも、効果的な対策とされています。こうした政策によって、消費者が無意識のうちに低糖食品を選びやすくなるだけでなく、食品メーカーも砂糖控えめの製品開発に取り組むようになります。飲食業界もまた、健康的なメニューや砂糖控えめのオプションを提供することで、消費者が自然にバランスの取れた食生活を選択できる環境づくりに貢献できるでしょう。
個人レベルでも、甘い飲み物やお菓子を控え、糖分の少ない食品を選ぶ意識が重要です。また、購入する食品のラベルを確認し、添加糖の摂取量を把握することで、将来的な健康リスクを管理することが可能です。こうした食生活の工夫は、個人の健康を守るだけでなく、家族や次世代の健康を守るためにも大きな意味を持ちます。
砂糖は体に必要なエネルギー源ですが、過剰摂取は慢性疾患のリスクを高める原因となります。特に妊娠期から子どもが2歳になるまでの1000日間は、子どもの将来の健康に影響を与える重要な時期であり、この期間の砂糖摂取量を適切に管理することが推奨されます。政府や食品業界、そして私たち消費者が一体となり、適切な砂糖摂取を実現するための環境を整えることは、より健康的な社会の実現に向けた第一歩です。