2019年6月2日日曜日

20190602 「ルサンチマン」について

ルサンチマン」という言葉があります。この言葉の意味は「弱者の強者に対する憎しみ、妬み」で概要的な理解は間違っていないと考えます。

ここで大事なことは「弱者の強者に対する」ということであり、そこから表立って憎しみを強者である相手にぶつけることが出来ず、陰に蓄積している憎悪感情と云えます。

また、そうした感情を培地とした道徳律がニーチェの云う「奴隷道徳」であり、西欧において主潮をなすキリスト教的な道徳もまた、その発生の経緯から考えると「奴隷道徳」と見做しました。

そして、同様のことを東洋における孔子の儒教に当て嵌めてみても、類似した構図を見出すことが出来るようにも思われます。

さて、ニーチェはこの「奴隷道徳」の培地である「ルサンチマン」を弱さからくる不健康な良からぬものと考え、他方同時にそれ(ルサンチマン)を、さまざまな創造的行為の原動力であるとも述べ、即ち、二律背反の要素を持っているものと考えていました。

そして、このことを近代の我が国に当て嵌めて考えてみますと、我が国の近代化は、当時の欧米列強に対する「憎しみ、妬み」のみに集約することは出来ませんが、それでも、我が国の近代化は、国際社会での強者に対する弱者の反応であると云え、また、その反応の中には「ルサンチマン」とも評し得る感情が少なからずあったと考えます。

ともあれ、こうした感情から発奮し、あるいはそれを発条として19世紀後半からの我が国の近代化は為されたと云えます。

くわえて、このニーチェによる「ルサンチマン」そして「奴隷道徳」とも浅からぬ関係を持つと考えるのが科学的社会主義(マルクス主義)です。その運動は、団結した労働者階級によって既成権威および、それらにより構成される政府が転覆され、私有財産の否定、資本の共有化が為され、それを労働者階級の代表である政府によって管理・運営されるといった概略になると云えますが、この既成権威および、それらにより構成される政府を転覆することにより理想の社会を実現しようとする思想自体に、毒もしくは本質的に良くないものを小泉信三は感じ取ったのではないかと考えます。

すなわち、人の「憎嫉感情」に訴えかけ、自己勢力の強化、活性化をはかるような性質を持つ思想は、たとえ、その思想自体が良いものであったとしても、それを担ぐ人々が、徐々にそうした性質を強め、そして、それにより、その社会もまた良からぬ方向に行くようになるということです。

また、こうした考えは、思想・経済学分野とは離れますが、同じく小泉信三が説いたスポーツマンシップとも通底する何かがあると考えます。

しかしながら他方で、あまり、文章化したり、口に出して云うことは必ずしも多くないと思われますが、我が国の戦後社会もまた、端的に人々の自他との比較により生じる「憎嫉感情」に訴え、諸活動の活性化をはかってきたようなフシがあるのではないでしょうか・・。

またこれは「ウォ・ーギルト・インフォメーション・プログラム」などよりも深く、我々内部に根差しているのではないかと思われます。

そして、思想あるいはより広義に、人文社会科学系学問の重要さは、本来、そうしたことを是正したり、過去の文脈に基づいて人々に問いかけるといったところにあったのではないかとも思われますが、さて如何でしょうか。

今回もここまで読んで頂き、どうもありがとうございます。


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