「今世紀に入り、今後さらに進行するであろう社会の高齢化に対応すべく、国内各地に医療・介護系の大学が新設され、既存の大学も、そうした学部・学科を設置する方向で動き、そしてまた、医療介護系専門学校も新たに専門職大学として改組を試みるものが増えてきた。それに伴い、人文社会科学系を専攻する学生数は徐々に減少していった。
私は、もともと文系の大学に進みたいと考え、A大学のヨーロッパ文化専攻に進んだが、この専攻では、あまり良い就職口に就けそうにないことに3年生になってはじめて気が付き、そこで「毒を食らわば皿まで」と、同じ専攻の大学院修士課程に進むことにした。修士課程まで進めば「これまでとは違うビジョンで物事が見え、そして、より良い選択肢を見つけることが出来るのではないか」と考えたわけであるが、他方で、そうした面倒にして困難な選択をなるべく先延ばしして「出来る限り安逸に生きていたい」といった願望が全くなかったとは言い切れない・・(苦笑)。また、この専攻分野であれば、自分は多少のセンスはあるのではないかとも、現実を知らないまま思い込んでいたフシもあったと云える・・(苦笑)。
ともあれ、そのようにしてA大学大学院の修士課程に進んだわけであるが、そこでの生活は、学部生時代の延長のような部分も少なからずあり、他方、研究のための書籍を読む時間については、学部生時代と比べて履修科目が圧倒的に減ったため、かなり増やすことが出来た。また、以前からアルバイトをしていた実家自宅とA大学の通学路の途中にあるS駅近くの古着屋で週3日程度働いていたが、この店は、店長のこだわりか、なかなかシブイ、古い映画作品に出てくるような品が度々並ぶことがあった。ここでのアルバイト勤務は、常連客が店長との会話を通じ、なんとなく働くようになったという背景がある。
しかし、時々、店内で物色している客に対して長いウンチクを語ってしまうこともあり、これについては、時々やんわりと後で店長から注意を受けることがあった・・。それでも店長自体が、そうしたウンチク自体は好きであることから、その注意は「そういうことを人に説明したいのはわかるけれども、多くのお客さんは、そこまでマニアックなハナシを聞きたいとは思っていないから、あまりしなくても大丈夫だよ・・。」といったものであった。とはいえ、自分が良いと思った品を手に取っているのを見かけると、ハナシかけたくなってしまうのは、ごく普通の人情であるように思われるのだが・・。
さて、アルバイトと参考資料・著作の読み込みや、調べものと履修科目の対応、そして少しの遊びにて修士課程1年目を終え、次の2年目では、通常であれば、本格的な就職活動を行うことになるわけであるが、それでも私はどうしたわけか、就職活動に身を入れることは出来ず、バイトは相変わらず続けながら、割合とダラダラした日々を過ごしていた。周囲の院生やゼミの学部生などはリクルート・スーツを着て大学でも就職支援センターなどに頻繁に出入りしていた中、私といえばジーンズにヨレヨレのシャツで図書館と院生研究室ばかりに出入りし、教員の方々から「君はこの先どうするつもりなのかね?」と、あまり興味なさげに訊ねてくることも幾度かあった・・(苦笑)。
当時、傍から見ると私はどのように見えていたのだろうか?いや、そのようなことは今となってはどうでも良い。それよりも、ここからが、少し重要なくだりになってくるのだが、GWが終わり梅雨に入る少し前の時期、どうしたわけか、突然、右下の歯が痛くなり、シフトで入っていたバイトも早退して、一端自宅に戻り保険証を持ってから、近所の歯科医院に、かなり久しぶりに訪問した。その院長は、かつて、どこかの歯科大学で講師あたりまで勤めたていたとのことであり時折、商店街など駅の近くで見かけることがあったが、気安く話しかけるには纏っている緊張感が強すぎるように当時は感じられた・・。しかしながら腕は確かであると近所では評判であり、私の家族も皆、そこでお世話になっていた。
ともあれ、そうした経緯で歯科医院に入ると、丁度、院長が開封したての学会誌のような雑誌を院内入ってすぐの待合室で立ち読みしていたようであり、雑誌を持ちつつ、こちらに目を向け「おお、**君じゃないか・・。久しぶり、どこか歯でも痛くなったのかね?」と聞いてきたので「ええ、どうもお世話になっています。実は右下の歯が少し痛みますので先生に診て頂きたいのですが・・。」といった感じで、右顎に手を触れさすりつつ少し自嘲気味で答えた。」すると「ほお、そうですか・・。丁度今、予約していた患者さんがキャンセルになったところなので、すぐに診てあげれるよ。」とのことであり、普段、あまり運の良し悪しについて考えない私も、これには少し「運が良い」と感じ、また、それが外出先にて腹痛を起こし、飛び込んだ先の施設で清潔なウオッシュレット付きトイレが空いていた時の感覚によく似ていることに気が付いた・・。
そして、その5分後には、私は診療チェアーの上にいた。」
*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
祝新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5
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