ISBN-10 : 4582532071
ISBN-13 : 978-4582532074
海軍陸戦隊は、次に行われた1884年、85年のエジプト遠征にも参加し、ハルツームにとらわれたゴードン将軍救出にむかった。イギリス軍は小型砲艦に何丁かのガトリング銃を積んでいったのだが、実際に戦場で使われたのは、チャールズ・ベレズフォード率いる、少人数の陸戦隊兵士たちが装備したガードナー銃一丁だけだった。ベレズフォードの一行は一個小銃隊に同行し、アブー・クレイでアラブ人の襲撃にあった。イギリス軍はすぐにガードナー銃を中心に方陣隊形を整え、デルウィーシュたちの襲撃を撃退しはじめた。だが実際には、ガードナー銃は70発を撃ったところで早くも故障してしまった。しかし、そうした効果だけでも、兵士たちは十分に勇気づけられた。ベレズフォードは、自らこう語っている。「私が銃を撃つと敵は並んだまま次々と倒れていく。まるで将棋倒しのような眺めだった」。そして、海軍陸戦隊の兵士はここでもまた、機関銃を守るために捨て身の勇気を見せられることを証明している。この戦いの途中、なんとベレズフォードは自分の機関銃を方陣の外に運びだした。その途端、デルウィーシュたちが攻め込んできた。その後の白兵戦の間に、ベレズフォードの部下八人、すなわち、そこにいた海軍陸戦隊全員が、次から次へともう一度機関銃を作動させようと試みるうちに、全滅させられてしまった。ここまでくると、ベレズフォードの機関銃への愛着は多少行き過ぎにも思える。この後、メテムネ奪回のために出兵したイギリス軍銃隊には、七ポンド砲を装備した中隊が随行した。「だが、ガードナー銃はなかった。その理由はどうも、臀部の腫れ物がひどくて、ベレズフォードが従軍できなかったためらしい。時には、ベレズフォードはガードナー銃を自分の私物だと思っていたような印象を受ける」。
エジプトとスーダンでの戦いは、1898年に山場をむかえた。その年、イギリス政府はもうこれで遠征を終りにしようと思っていた。しかし、このころ、遠征軍はすでにマクシム銃を装備しており、その信頼性は疑いようもなかった。遠征の最後の決戦は、オムドゥルマンの戦いだった。ここで、デルウィーシュたちの大軍はイギリス軍の前線に何度も突撃をしかけたが、そのたびに圧倒的な小火器の銃撃によって撃退された。この大量の火力のなかで最も威力を発揮したのがマクシム銃だった。イギリス軍に同行していたドイツ人従軍記者はこう書いた。「銃の射程を合わすのに手間どったが、それが終わると敵はばたばたと倒れていった。デルウィーシュたちの突撃を撃退するのに六丁のマクシム銃が大きな役割を果たしたことは明らかである」。別の従軍記者は、その日の夕暮れの戦場の有り様を伝える記事で、この武器がもたらした戦果についてこう書いている。
それはマフーディ派[イスラム教の一派。終末論的な世界観をもつ]のいう最後の日、それも最大級のものだった。彼らは近寄ることすらできなかったのに、逃げることを拒んだ。(中略)あれは戦争ではなく、虐殺だ。(中略)折り重なった死体の山はなかったー折り重なった死体はほとんどなく、どこまでいっても一様な間隔で倒れていたのだ。頭の下にあてた靴を永遠の枕として、安らかに横たわっている者がいる。ひざまづき、最後の祈りを終えないままこときれた者もいる。そのほか、ひきちぎられてばらばらになった者もいる。
この戦いにはウィンストン・チャーチルが同行していたために、チャーチルのいた第21槍騎兵連隊が無益な突撃をしたということ以外には、現代の神話はこの戦いについて何ひとつ語り伝えていない。だが当時、オムドゥルマンの戦いのもつ意義についてのはるかに適確な評価が、エドワード・アーノルド卿によってなされていた。マクシムはそれを自慢げに自伝に引用している。「これまで、多くの戦争の勝敗を分けてきたのは、士官や兵士たちの突撃と技量、勇敢さだった。しかし、今度の戦いを勝利にみちびいたのは、ケント在住のもの静かな科学に携わる紳士だ」。オムドゥルマンでの死傷者数は、イギリス兵28人、他国兵20人に対し、デルウィーシュの〈死者〉は11000人にものぼっていつ。この数字を見れば、アーノルド卿が特別深い洞察力を持っていたとは思わないだろう。だが、当時にあって自動火器の価値を認める用意ができていた著名人はアーノルド卿ただ一人だったといっても過言ではない。ほかの人間たちにとっては、それは、英国魂の勝利、白人の全般的な優越性を示すもう一つの実例となったにすぎない。
だが実際、マクシム銃はオムドゥルマンの戦い以前から、アフリカで、すでにその価値を証明していた。未開拓の奥地で、さまざまな開拓者が変わることのない熱意をもって愛用していたのだ。セシル・ローズやフレデリック・ルガードのような男にとって、またイギリス領南アフリカ会社や帝国東アフリカ貿易会社のような組織にとって、ヨーロッパ人による統治をつづけていくためには、マクシム機関銃が必要不可欠だった。マクシム自身は、自分の発明品がそうした役割に用いられることを、単純に喜ぶだけだった。