2024年2月18日日曜日

20240218 金属材料を基軸とした雑文(試作文章)

二千数百年前、弥生時代後期の西日本では、鋳造技術を用いて作製された銅矛や銅鐸が、当時の村邑国家群において祭器として用いられてきました。銅矛・銅鐸双方の材料である青銅は、銅と錫の合金であり、そこから二千年以上前の列島西部には、合金を溶かして鋳込んで成型する技術がすでに存在していたことが分かります。

他方、我々が日常用いている火・炎を用いて、合金である青銅を溶かすことは困難ですが、二千年以上前であれば、現代以上に困難であったと思われます。それでも当時既に、その技術自体は存在していたのです。

そのように考えてみますと「当時の人々はどのようにして金属や合金を溶かしていたのだろう?」と思いますが、これに関しても考古学分野の方々は研究されており、現在までに、弥生時代の青銅鋳造遺跡が西日本を中心としていくつか発見・発掘されています。そしてまた、遺跡内の作業所遺構や、そこから分かる集落での立地状況や、そこで出土した青銅片の成分などから、それぞれ遺跡の時代の新旧、あるいは、列島における青銅鋳造技術の伝播の経路などが明らかになります。それによると、鋳造技術は、ユーラシア大陸を東遷し、中国を経て朝鮮半島を南下して、北部九州に至り、そこから東西そして南へと伝播したことが分かります。

そしてその後、数世紀も経たないうちに同じ経路をたどり今度は鉄の加工技術が伝播してきました。つまり、我が国には、さきに青銅の鋳造技術が伝わり、次いで、しばらく経って鉄の加工技術が伝播してきたのです。この様相は、世界史で教わった青銅器時代と鉄器時代との関係(青銅が先、鉄が後)とも通底するものがあり、さらに、その背景には、共通する科学的知見があります。

具体的には、それぞれの金属・合金としての融点・液相点です。これを少し詳説しますと、鉄単体での融点はおよそ千五百度程度であり、そこに炭素が自然に添加された炭素鋼となりますと、千二百度ほどにまで液相点が下がります。対して、銅単体での融点は千九十度であり、そこに錫を混ぜて合金化することにより、溶ける温度(液相点)は千度ほどにまで下がります。つまり、鋳造の材料として青銅を用いるためには、千度以上まで加熱する必要があり、他方の鉄は合金化された炭素鋼で千二百度ほどになります。そして、これがさきに述べました青銅器時代と鉄器時代の時代の前後にある物質の化学的性質です。

こうした物質の化学的性質は、時代で変わることはありません。つまり、現在であっても、あるいは千年、二千年前であっても、青銅の溶ける温度(液相点)は千度ほどであるという性質は変わりはありません。こうしたことは当り前であるのかもしれませんが、人類がそれぞれの金属・合金が溶ける高温の炎を意図的に用いることが出来るようになったのは、人類が誕生した五百万年前と比べると、かなり新しく、せいぜい五千五百年前(紀元前三千五百年)頃でした。

これらの技術が世界各地の文明圏に達するには、さらに数千年を要し、日本列島に青銅の鋳造技術が齎されたのは紀元前三百〜四百年頃とされています。そこから、我が国は、世界の中でも青銅の鋳造技術の伝播は遅い方であったとも云えます。 しかしながら、伝播が遅ければ、その齎された技術水準も低いままに留まり、また発達も遅くなるというわけではありません。そのことは、奈良の大仏様(東大寺盧舎那仏像)を想起すればお分かりになると思います。

そしてまた、物の大小は問わず、こうした技術を用いて作製するものに対するこだわりや熱意に、それを生み出した国や地域の持つ特徴的な性質が反映されると思われるのです。

このことを例を挙げて具体的に述べると、冒頭で挙げた青銅の鋳造技術で作製された銅鐸や銅矛ですが、それらの意匠や形状から、それぞれを生み出した各地域の文化的特性の一面が窺えるといったところになります。

それは前時代である縄文時代の文化の系譜を背景とするものであったり、あるいは、作製物の少し前の時代での朝鮮半島や中国大陸に文化的背景を持つものであったりします。ともあれ、やがてそれらは、次第に混淆して次の時代の文化を生みだす共通の土壌となっていきます。

その意味において銅鐸や銅矛もまた、その一例であり、それらもやがて、その次の時代の精巧な銅鏡や巨大な釣鐘へと進化発展を遂げていく技術的な土壌になっていったと考えられます。 また、こうした進化発展の基礎にあるものが「高温の炎を意図的に用いる技術」であると云えるのですが、さらに、この技術の背景にあるものを考えますと、そこには多くの場合、その国や地域を包括した埋蔵資源を含む自然環境といったものがあると云えます。そしてまた、その環境が青銅や鉄といった金属・合金類の加工の進化の程度を決定するのだと云えます。

今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

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