株式会社 草思社刊 ジャレド・ダイアモンド著 倉骨 彰訳『銃・病原菌・鉄』下巻pp.84-86より抜粋引用
ISBN-10: 4794218796
ISBN-13: 978-4794218797
『有用な発明は、一つの社会から別の社会に二つの方法で伝播する傾向がある。一つは、その発明を実際に目撃したり教わったりした社会が、それを受容し、取り入れる方法である。もう一つは、その発明を持たない社会が、自分たちが不利な立場にたたされることを認識し、その発明を取り入れる方法である。後者の例は、ニュージーランドのマオリ族のあいだでマスケット銃がどのように普及したかを考えるとわかりやい。ニュージーランドでは、1818年頃に、マオリ族の一部族であるナプヒ族がヨーロッパの貿易商からマスケット銃を手に入れてから、マスケット戦争とよばれる戦いが15年間続いた、その結果、マスケット銃を持たなかった部族は、銃を手にした部族によって征服されてしまうか、あるいは自分たちも銃を持つようになり、1833年になると生き残ったすべての部族がマスケット銃を持つようになっていた。
新しい技術は、発祥地から別の社会にさまざまな方法で伝播する。トランジスタ(半導体)が1954年に合衆国から日本へ伝わったのは、平和的な交易を通じての例である。蚕が西暦552年に東南アジアから中東へ密輸されたように、技術がスパイ行為もどきに伝播することもある。1685年に、20万人のユグノー教徒がフランスから追放されて、フランスのガラス製造技術や衣服製造技術がヨーロッパじゅうにひろまったように、技術を持った人びとが移住することによって伝播することもある。そして戦争によって技術が広まった例が、中国の製紙技術のイスラム圏への伝播である。イスラムの製紙技術は、中国人の製紙職人が、西暦751年の中央アジアのタラス川の戦いでアラブ側の捕虜になり、サマルカンドに連れてこられたのがきっかけではじまった。第12章において、われわれは、文化が「実体の模倣」や「アイデアの模倣」で伝播することを考察し、実際に文字システムがどのように伝播したかに言及した。そしてわれわれは、この章のここまでの考察において、技術の伝播にも「実体の模倣」や「アイデアの模倣」があることを示す例をとりあげてきた。前の段落で紹介した事例はどれも「実体の模倣」によって技術が伝播している。ヨーロッパ人は、中国で発明された陶磁器技術を、長い時間をかけて自分たちで独自に考えだしたが、これは「アイデアの模倣」によって技術が伝播した例である。硬質の半透明な陶磁器は、7世紀頃に中国で誕生し、14世紀になると、シルクロード経由でヨーロッパに伝わり、非常に珍重された。だが、その製造方法はまったく知られていなかった。そして、それを模倣しようといろいろ試みられたものの、すべて失敗に終わっていた。今日のマイセン磁器が登場するには、1707年になってからのことである。これは、ドイツの錬金術師(アルケミスト)ヨハン・ベトガーが、長い時間かけてさまざまな実験を繰り返し、各種の鉱物と粘土の混合割合を編み出した結果である。その後、フランスやイギリスでも多かれ少なかれ独自の研究成果を踏まえて、セーブル磁器、ウェッジウッド磁器、そしてスポード磁器が誕生している。このように、ヨーロッパの職人たちは、中国で発明された製造法を自分たちで独自に考え出した。しかし、彼らが陶磁器の製造を思いついたのは、目標とするお手本が目の前にあったからである。』
今回の抜粋引用部は、あるいは比較的幅広い方面の方々にとって興味を持って頂けるかもしれません。
と云いますのは、まず前半部に述べられている19世紀ニュージーランドでのマスケット戦争を知りますと『持ち上げられ(神聖視され)がちな我が国の幕末維新・維新回転期の歴史も、あるいはそうした歴史(マスケット戦争のような)の流れの一つであったのかもしれない・・。』と考えさせられること、次いで、後半部にて述べられている陶磁器に関しての記述は、無機物・セラミックス等の研究をされている方でしたら、当記述を参考として用いることも出来るのではないかということ、です。ともあれ、今回もここまで読んで頂きどうもありがとうございます。
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祝増刷決定!
ISBN978-4-263-46420-5
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今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
数年前から本日に至るまで列島各地、特に西日本において発生した大規模自然災害によって被災された地域の諸インフラの回復および、その後の速やかな復興を祈念しています。
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