2018年7月4日水曜日

20180703 あらためて読んでいる作品から思うこと、現在との共通性・・普遍的な性質?

以前に述べましたが、ここ最近は大西巨人著『神聖喜劇』をあらためて読んでいます。その文体は硬質にして執拗であり、さらに、その述べるところが作品内での現実から主人公の過去の記憶、さらには、それらと関連する著作・新聞記事などと多岐にわたって広がり、読み進めていくうちに飲み込まれているような感覚を覚えると云えます・・。

小説も少なからず読んできたと自覚していますが、この作品は、その中でもかなり異質であると云えます。それは、作品自体が異様に長く、そして、しばしば示される文章が衒学的とも云えるほどに濃く、その意味を理解するためには、その背景の文脈をも理解していなければならない、といった箇所が随所にあるためと云えます。

端的に、当作品は読み進めるのが多少困難であると云えますが、その一方で容易に読み進めることが出来る他の多くの小説などと比べますと、読後の印象が強烈であり、そこからも、さきに述べた『異質』といった印象を受けるのだとも云えます。

さらに、当作品を興味深いものとしている要素の一つに、作中に縮小された我が国社会の様相が活写されていることであると云え、これは大岡昇平による『俘虜記』とも類似する要素であると思われます。さて、そこで『神聖喜劇』に対する大岡昇平の評を以下に抜粋します。

現代社会への鋭利な諷刺
作家 大岡 昇平
『日本の軍隊は老朽化し、各種「操典」や「令」の、文語カタカナ書きの煩雑な条文に縛られていた。敵が退却したのに、追撃しないと「作戦要務令」違反になるため、猪突して潰滅したりした。
 大西巨人氏は、超人的な記憶力をもつ主人公を設定することにより、この条文を逆手にとって、軍隊生活の喜劇性を生き生きと描き出すのに成功した。この喜劇性はまた、ますます官僚化しつつある現代の生産社会のものであるから、現代への鋭利な諷刺になっている。』


この文章はおそらく今から40年程前に書かれたものであると思われますが、それでも、この文章を通じ、我が国の、あるいはそれ以上に普遍的とも云える性質であるのかもしれませんが組織老朽化の傾向・方向といったものが示されているのではないかと思われました・・。

そして、そこからさらに現在の社会を考えてみますと、それは一体どのように評されるべきものであるのでしょうか?

ともあれ、こうしたことを時代を通じても人々に考えさせる『内容』を持つ作品が、後世に伝えられていくと思われるのですが、さて、そうした作品の価値は如何なる経済的指標により計測・換算され得るものなのでしょうか?

しかし、であるからといって、決して経済的要素を軽視しているわけではないのですが・・【ここも重要なところではないかと思われます・・。】。

そして、生き生きとした議論の価値・意味合いは、こうしたところに立脚し得るのではないかと思われますが、さて如何でしょうか?

とはいえ、今回もここまで読んで頂きまして、どうもありがとうございます。

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増刷決定!
ISBN978-4-263-46420-5
医歯薬出版株式会社


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