2026年2月3日火曜日

20260202 株式会社岩波書店刊 亀山郁夫著「ショスタコーヴィチ:引き裂かれた栄光」」 pp.364-365より抜粋

株式会社岩波書店刊 亀山郁夫著「ショスタコーヴィチ:引き裂かれた栄光」」
pp.364-365より抜粋

ISBN-10 ‏ : ‎ 4006023715
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4006023713

 1957年、すなわちロシア革命40周年の記念すべき年、ショスタコーヴィチは、第一次ロシア革命を描写的に描く交響曲11番を完成させる。その初演は、同年10月30日、N・ラーフリン指揮、ソヴィエト国立交響楽団の演奏によって行われた。スターリン亡き時代にあって、この交響曲が、その長大さにもかかわらず、革命20周年を記念する交響曲第5番ほどの複雑な内面性をもたなかったことは明らかである。他方、20世紀初頭の革命歌をふんだんに使用した第4楽章は、文句なしに祝祭の音楽と意味づけることができるもので、そのメッセージ性の高さからしてめざましい成功を収めることができたのは当然のことだった。初演からまもなく開かれた作曲家同盟の会議でも、「けたはずれのリアリスティックな力強さを感じさせる作品」との評価が与えられた。

 全体で4つの楽章からなっており、それぞれの楽章に標題がついている。 

 第1楽章「宮殿前広場」は1905年1月9日(ユリウス暦)に起こった「血の日曜日」事件の不気味な予感を漂わせる音楽で、革命歌「開け!」を引用しつつ、革命前夜の不穏な空気を伝える」。アレグロによる第2楽章は。「1月9日」と題されており、低弦による不気味なうごめきが、民衆の行進を描き出す。ドルマトフスキーの詩につけた「革命詩人による10の詩」から第6曲「1月9日」の自己引用がなされ、トランペットの合図によって皇帝軍による虐殺の場面が描かれるが、弦楽器とチェレスタによる音楽はまさに葬送とレクイエムのシンボルと見ることができる。これは、エイゼンシテインの映画「戦艦ポチョムキン」の名場面「オデッサの階段」の伴奏として使用され大きな注目を浴びた。周知のように、「永遠の記憶」と題された次の第3楽章では、二つの革命歌(「同志は斃れぬ」「こんにちは、自由の自由なる言葉よ」)が引用され、力強いクライマックスを迎えたあとに再びレクイエム風の音楽に戻る。第4楽章「警鐘」は、金管楽器による革命歌「狂うがよい、暴君どもよ」、次いで「ワルシャワ労働歌」が使用され、炸裂する音楽ののち最後は帝政ロシアへの警鐘によって閉じられる。

 いかに内面的な複雑さを持たない音楽でも、ショスタコーヴィチにおいてはつねに「二番底」の存在を疑ってかからなくてはならない。十月革命40周年という記念すべき年にふさわしい音楽として、1905年がテーマとして取り上げられること自体、さして問題はない。しかし、この革命がそもそも挫折した革命であることを彼はどう受け止めることができたのだろうか、しかもこの曲が書かれる前年にハンガリー事件が起こり、ショスタコーヴィチ自身が知人を介してその事件の内実にかなり深く通じていた事実もある。

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