2021年2月3日水曜日

20210202 昨日の続き「時代精神」について思ったこと

おかげさまで、直近投稿の「記事作成時の脱主体化(没頭)と「時代と繋がっている」というについて」は思いのほか多くの方々に読んで頂けました。これを読んでくださった皆様、どうもありがとうございます。

さて、この記事にて述べた「時代精神」ですが、それは、ある地域、ある時代において特徴的な諸要素を総合的にとらえたものと云えます。また、思うにそれは、論文のような硬質な文体では的確に表現することが困難なものとも云え、あるいは実際に、ある時代精神を認識することを試みる場合、その時代を扱った論文を読み込むよりも、同時代に著された物語、小説などを多く読み込むことによって、より的確に認識することが出来るのではないかと思われます。

そして、そうした経験がある程度蓄積しますと、自身内部に、その地域・時代において独特な雰囲気のようなものが醸成されてきます。この雰囲気とは他面において、その地域・時代を扱った文物を鑑賞・観察する際の評価基準ともなり得るものでもあり、それに基づき考えたことを基礎として、なおもその地域・時代について考えていきますと、その評価基準はさらに洗練され、そして、その地域・時代に実際には存在していないにも関わらず、観念的ではあるのですが、そのさまざまな様相を(的確に)知覚することが可能になるのだと思われます。

また、私見ではありますが、端的に、さまざまな歴史や地域を対象とする(ホンモノの)研究者とは、この独特な雰囲気・評価基準を我が物とされている方々を指すものと考えます。

そして、そうした方々について考えてみますと、自然と想起されるのか、以前、当ブログにて抜粋引用した小林秀雄氏による以下のコトバです。

「だから伝統というものをキャッチすることのむずかしいことは、いま決して伝統なんてものはなくなっちゃったからではないのだな。むしろ、伝統を経験している人々がいるか、ということに気が付くと、これが大事なんだな。
どこに捜すこともない。ただ、ふつうの書画好き、道具好きのなかにいるのですよ。
いわゆる書画骨董の世界というもののなかに、たいへん、なんというか時代錯誤的な、たいへん複雑な形で現に生きているのです。断っておきますが、時代錯誤的なものというのは、知的な評価なのです。審美的な評価ではない。
伝統が今日も生きているということが時代錯誤と見えるのは、傍観者の知的な目です。
好き者には、そんな目はない。伝統を内側から見ますから。そういう目に伝統の命が見えている。これは日に新たなはずのものなのです。
いったんこれを見てしまった人には、これは消そうといったって消えるものではない。そんな不自然なことができるものではない。」

特に最後の二行は自身の記憶に基づいてみましても「たしかにそうである。」と云えます。しかし、そうしたことに対し、あまり興味を持たない(所謂実務的な方面の)方々からしますと、あるいは「得体のしれない、おかしな野郎だ!」と思われ、さらには、現今のコロナ禍によって一層同調圧力が顕著になった我が国社会においては、排除される対象にもなり得ると云えます・・。

そして、考えがこのあたりにまできますと、今度はトーマス・マンによる「トニオ・クレーゲル」作中にて、主人公が久しぶりの帰郷での滞在中、手配中の詐欺師と間違われた件が思い出されるわけですが、こうしたある種、人文社会科学的な素養を持つ(少し変わった)方々に対する社会全般の態度が抑圧の方向に向かって行きますと、その社会とは、おそらく早晩衰亡に向かって行くと考えていましたが、昨今の隣国での事情を知るにつれ、それもまた単純には云い切れないということが分かりました。

ともあれ、そこで不図思ったことは、昨今の我が国においては、本当のこうした方々に代わり、よく分からない芸術家気取りのお笑い芸人の方々が(過分に)幅をきかせていることであり、そして、それを伝統に基づく審美的な視点から批判する言論勢力もまた乏しく、そこから見える実質とは、つまるところ、貨幣が流れるビジネスモデルに有利に参加出来ていれば、別に問題はないといったところであるように思われます・・(苦笑)。

しかし、そうした流路(ビジネスモデル)のなかで「消費されるもの」として作られた種々作品は徐々に劣化してゆき、そしてついには、さきに述べた「貨幣が流れるビジネスモデル」が、伝統に基づく審美的な視点などをあまり考慮されない消費者の方々にも透けてきてしまっているのが、ここ最近の状況といったところではないでしょうか?

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!





ISBN978-4-263-46420-5

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