2020年8月2日日曜日

20200801【架空の話】・其の36

こうした指導教員に関する背景をボーっと思い出していると、私も数か月後にはKに住む予定であることが不図、思い起こされ、そこでBに連絡してみようと思い立った。指導教員には思いがけずに長時間居座ってしまったことを詫び、二人分のカップとソーサーを洗ってから研究室を後にした。

時刻は未だ14:00前であったが曇りがちで、陽も陰ってきていた。研究室棟を出て学食に行き、寒いためか空席が目立つ屋外の席に敢えて座り、左手を中学生の頃から着ているダークブラウンのグローバーオールのダッフルコートのポケットに入れ、右手でスマートフォンを操作して、Bに電話をかけてみたが、しばらく鳴らしてみても出ることはなかったため、電話を切り、そしてショートメッセージにて「またあとで連絡する。」と送信しておいた。


そうしてスマートフォンを手に持ったまま、右手もポケットに入れ、座ったままで背伸びをして天を仰いでみた。空は14:00前というのに、陽が乏しく灰色であり、こうしたところから、不図、先週末のWの空の色や、大気の薫りが思い出されてきた・・。そして「よくは分からないが、ああした太陽光の量や、それを素として成育する様々な植物から発せられる気体や物質などは、その土地土地に住む人々の心身に長年影響を及ぼして、次第には、地域性のようなものが形成されるのではないだろうか・・。」と不図、思ったわけだが、その後になってもこの考えには、科学的に究明してみても面白く、何かしら興味深い新たな知見がそこにあるのではないかと思われた。

ともあれ、この学食での空気には、さきのWでの大気のような、樹木や植物の薫りが混然一体となったようなものは感じられず、大気は冷たく、そして乾燥していた。すると突然、右ポケットに入れいたスマートフォンに着信があったため上を向いていた顎を落とし、姿勢を直してから電話に出た。はたして電話はBからであった。

Bは「さっきはごめん。え「今どこにいるか?」だって・・。それが、もうあまり出席が必要な講義もないし、修論も受理されて審査にも無事に通っているから、早々に高い家賃のこちらのアパートは引払って、今はKの実家に戻ってきているよ。それで、こっちに来て家を探すのであれば、出来るだけ一緒に探すようにするから、その日程を教えて欲しい。」とのことであった。私の方も早急に家探しに行く必要があると考えていたことから、翌週の金曜日に行くことに決め、それをBに伝えて合意を得た。

航空便は昨年の編入試験と同様、LCCを利用して行くことにした。また、今回のKへの訪問は、以前ほど緊張する性質のものではないことから、上手くアパートを探すことが出来たらならば、向うで少し遠出をしてみようと思った。

こうした状況からも分かるように、修了直前の私はそれなりに色々と動いており、周囲には卒業旅行で海外に行く方々も少なからずいたように思うが、私にとっては、さきのW訪問や今度のK訪問が、そうした卒業旅行に値するものであったと認識している・・。

さて、LCCで首都圏からKに行く場合、一般的に最も安い航空便であれば、新東京国際空港、つまり成田空港から出発するものになり、これは、成田空港まで出向くことに慣れていないためか少し面倒に感じられた。

このBとの電話とショートメールのやり取りを一通り終えると、私は席を立ち、この後はD先生に連絡を取り医院を訪問してみようと思った。とはいえ、この医院は、家の最寄駅からの途中、少しだけ折れたところにあるため、あまり労せずして行くことが出来る場所にあると云える・・、

医院に電話を掛けてみると、歯科衛生士のCさんが出てきて「今から夕方くらいまでは少し時間があるから寄って頂いて大丈夫です。」とのことであり、相変わらずのマジメな口調であったが、同時にその声は少し浮いているようにも聞こえた。

そして医院に着いて中に入ると、待合室には加湿器が置かれ、室温は暖かく保たれていたことから、少しホッとして更に中に入ってみると、Cさんはゴム手袋をした手で滅菌消毒されたらしい器具をそれぞれの収納場所に戻ししてるといった様子であり、D先生はクリップボードに挟んだカルテに何かを書き込んでいた。二人とも私に気が付くと、先生はクリップボードを傍らのキャスター付きワゴンに乗せ、Cさんは区切りの良いところまで器具を仕舞い終えると「今日は早いですね。それと、もうすぐKへの引越しもしなければいけませんね。」と声を掛けてきてくれた。私は「ええ、実はまさに今度kにアパートを探しに行こうと思っているのですが、そこで少し、向うの地理について知っておきたいと思ったのです。もちろん、向うではBにも相談に乗ってもらうつもりですが、ここにもK出身者とそこに長く住んだ人がいますからね・・。」と返事をした。するとD先生が「ええと、大学は市民病院とK大のKキャンパスの近くだったよね・・。」と具体的な地理の話を始めたため、少し記憶を遡り「そうです。あの路面電車の市民病院駅のすぐ近くです。」と返事をした。すると先生は「あの辺りは昔は専売局があったんだよなあ・・。と話してから少し間を置いて「それで、そのまま市電に乗っていると、さらに南のK大病院のある方に行くんだよ。それで、住むのであれば今や繁華街と云っても良いK中央駅の近くよりも、K大KキャンパスかK大病院の近くの方が安くて、比較的静かで住みよいと思うよ。」とのことであった。Cさんはk中心市街地の北にあるY野という場所のご出身であり、高校,大学時代を通じて市内中心部までバス通学であったとのことであり、住むのであれば、確かに賑やかなk中央駅近くよりも、中心からは少し外れたK大病院の近くあたりが良いかもしれない。」とのことであった。ちなみに、この時Cさんから聞いたY野という地名は、以前に読んだ記憶があり、そこで「ええっと、Cさんの出身地のY野って、もしかして西南戦争のK野利秋やB府晋介の出身地のY野ですか?」と訊ねてみると「ええ、そうです。今でも石碑が立っていて、公園になっていたりしています。それでも、よくご存じでしたね・・。」と少し嬉しそうであった。また、その顔を見ていると、Cさんの顔貌も何だか、さきの二人のように精悍に見えてきたのだが、より精確には、それまで私が気が付いていなかっただけであるのかもしれない・・。


*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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