2020年6月1日月曜日

20200531【架空の話】・其の21

【架空の話】
「そんなこともあって、俺も最近は、先の進路については、少し考えているんだよ・・。」と兄はハナシを結んだ。地域は違えど、それぞれで生じている現象や出来事の背景には共通・通底する何かがあるのかもしれない・・。

ともあれ、この食堂でWラーメン(中華そば)を食べ終え、兄の運転で自動車を走らせていると「ええと、次は、このあたりの一宮に行こうと思っているんだ。一宮というのは、その地域で一番古くて格式の高い神社のことなんだけれど、ここWは、なかなか面白いところでね、その一宮が複数あるんだ。それで、今から行く神社は、そのうちの一つであるのだけれど、ここではさらに、一つの境内に二柱の主祭神を祀っているんだ。いや、それは摂社や境内社のような小さい祠で祀っているのではなく、立派な御社殿が二つあるんだよ・・。」とのことであった。Wを含めた近畿地方は、古くに拓かれた地域であることから、伝えられている神々についての伝承も多様であり、それ故、地域の神様の格式を決めるに際しても、おそらく、さまざまな意見があり、結果、地域の一宮が複数あるといった事態に至ったのではないかと思われる。

さて、今朝到着したJRのW駅を左手に眺め、さらにしばらく走り東の方向に進むと、左手に学校が見え、さらに、その先に幼稚園そして神社の鳥居が目に入り、そこで左折して、神社の専用駐車場に入り駐車した。

車を降り、神社境内に立ってみると、未だ寒い1月末であるものの、これまで首都圏では味わったことのない、さまざまな樹木・植物の香りが混然一体となった奥行きのある大気が鼻の奥にまで届き、その雰囲気にしばし陶然とした。車を降りて先に行く兄は、しばし歩いてから、こちらに気が付き、横並びに戻ってきた。そして「この神社は向かって左右に二つの御社殿があるから、出来れば両社共に参拝しておいた方が良いと思う。」とのことであったが、もとより、この参拝では兄を真似をするつもりであった。

神社境内にて驚かされたことは、それぞれの御社殿に、さらに数多くの摂社や境内社が祀られていることである。しかし、こうした常緑性の樹木・植物群に抱かれた御社殿、摂社、境内社の有様(ありよう)こそが、主祭神を軸として時代時代の霊験あらたかな神々を祀り続けてきた地域の古社の自然な姿であることが、社叢の大気を通じて実感することが出来た。

両社への参拝を終え、いくつかの摂社・境内社に対してお参りをすると、兄は、授与所、社務所に向かい、中にいた巫女さんに声を掛け、しばしの会話の後「少しお待ちください。」と言って巫女さんは奥に消え、代わりに奥の方から神主姿の男性が出てきた。兄はその男性にあいさつし「今日は弟がやってきたので一緒に参拝に来ました。」と、私のことを紹介した。そこで私も神主さんに向かい「どうも、兄がいつもお世話になっています。」と頭を下げた。すると「ええ、お兄さんとは釣りで知り合ったのですが、その後はこちらも電気製品などのことでお世話になっています。それで参拝はどうでしたか?」と訊ねてきたため「ええ、こういった感じの神社はあまり自分の住んでいる場所にはないと思いますが、とても歴史を感じさせる社叢ですね・・。」と返事をした。すると「ええ、たしかに古いかもしれませんが、このWには、他にもそうした神社はありますので、お時間と興味もあれば、是非、そちらもお参りに行ってください。」とのことであった。

その後、兄と神主さんとの会話を聞いていると、どうやら、この神主さんは、神社と並んで幼稚園も運営されているようで、そこに暖房機器を納入した担当者が兄のようであった。私はそこで御守りを一つ頂いて神社を後にした。帰りの自動車の中で兄は「どう、なかなか重厚な感じの神社でしょう。それで、あの神社の神主さんの家は、1500年以上続いているらしいよ。ええと、むかし、このW県はK国と云ったのは知っていると思うけれども、このk国と同じ字が、この神主さんの苗字なんだよ。あと、平安時代前期頃の歌人で、平仮名で書いた日記で有名なK貫之も、同じ苗字だけれども、おそらく、この歌人の方は、元々は同じ一族ではあっても、早くから平城京、平安京あたりに住んで中央官僚化した流れだろうね。それに対して、こちらのK氏の方は、それこそ古墳時代あるいは祭政一致であった頃から、この地に根を張った豪族が現在に至るまで続いているんだよ・・。まあ、日本全国で見ると、たしかにそうした家は他にもあるけれども、その縮小版、いや、そうじゃないな・・。ええと、より素朴なカタチで残っているのが、この神社そして、その神主さんのところではないかと思えるんだよね・・。」とのことであった。たしかにハナシを聞いていると、そこには何らかの連続性や繋がりがあるように思われたが、他方で、それらの時代はあまりにも古く、また、その背景となる知識にも乏しいことから実感が湧かず、その感覚もイマイチよく分からなかった。とはいえ、これは新鮮な経験であったとは云える。

国内ではあれ、異郷で接する、そうした連綿と続いた文化事物には、私としては、やはり惹きつけられる「何か」があるように思われる・・。


*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!



新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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