2020年6月9日火曜日

20200608【架空の話】・其の25

【架空の話】
夜のW市街は首都圏に比べると、街の灯りがまばらであり、寂しい感じもしたが、同時に、冬の夜の澄んだ空気は、周辺の自然環境に由る濃厚とも云える薫りが強く感じられ、何やらフワフワとした心地良い感じがしたが、あるいはそれは、なれずしによる酔いと、地域の自然の薫りが強い大気による相乗効果が私に及ぼした影響であるようにも思われた・・。

その後、22:00少し前には家に着き、兄と私は交互に風呂に入り、歯磨きなどを済ませてからリビングルームでしばし駄弁っていたが、日が変わる頃には、いよいよ眠くなり、どちらともなく「じゃあ、明日も早いから寝ようか・・。」といった感じになった。最後に兄は「じゃあ、明日は県の南の方に行ってみようと思うから、よろしく。」といって自室に入った。私は布団を用意してくれた部屋に入り、明日の準備をして床に就いた。時季のため、はじめ布団が少し冷たく感じられたが、しばらくすると、体温で心地良い程度までに温まってきて、それに伴い眠気も全身に広がり入眠に至った。

翌朝7:00頃、目を覚ますと、兄の方も丁度、起きて来たところのようであり、寝間着のままで洗濯機を操作しているところであった。私は寒さもあるため出来るだけ手早く着替えてしまい、実家と同じシリアルを兄の分と二つ準備した。兄の方も「お、ありがと。」とそれを食べつつ、着替えなど、準備を始めた。レザージャケットは昨日と同様であったが、その下は、適度に色落ちしたダック地のブッシュパンツにオフホワイトのネル地ボタンダウンを着ており、これまた何というか探検家スタイルであった・・。ちなみに家を出る際に履く靴をそれとなく確認すると、靴紐がなく、甲の部分にモンクストラップシューズのようなストラップが付いた7インチ丈のビーンブーツであり、その恰好には適した選択であったように思われる。出発時刻は8:00を少し回った頃であった。

さて、今度は早々にW市街地を離れ、高速道路に乗り、南に向かった。周囲の風景が昨日以上に自然が濃くなっていき、はじめに渡ったA田川では、河川両岸の丘陵地一帯にみかんが栽培されているということであったが、その収穫時期は、もう大体終わっているとのことであった。また、続けて兄は「このA田というところは、知っていると思うけれど、みかんで有名で、それ以外でも面白いところなのだけれど、今日向かっているところは県の最南端の方で、まあディープ・サウスと云ってもいいかもしれないけれど、そのあたりは、また県北部とは色々と違うんだよ・。」とのことであった。ちなみに本日も先ほど、カーステレオからインディ・ジョーンズのテーマ曲が流れていたが、それ以外は邦楽のたとえば、元ちとせの「ワダツミの木」や中島美嘉の「朧月夜~祈り」といった、何と表現するのか、昔の日本を連想させるような楽曲が多かったように思われる。ともあれ、車はさらに半島を南下して、高速道路でH川を渡っている時に「そういえば、歌舞伎の「娘道成寺」や能の「道成寺」の舞台って、このあたりだって知っていた?」と兄がハナシを振ってきた。「ええと、あの女の人が蛇になって川を渡って、お寺の釣鐘に隠れていたお坊さんを焼き殺してしまうハナシでしょ。・・そのお寺がこのあたりにあるの?」と私がハナシの筋を思い出しながら問い返すと「そうそう、その道成寺っていうのは、このH川の北岸にあるお寺でね。たしか遅くとも奈良時代には創建されていた古いお寺なんだけれど、その境内の、どのあたりか分からないけれども、とにかくお寺の敷地から、弥生時代後期の1~2世紀あたりに作られたと思しき大型の近畿式銅鐸が出土しているんだ・・。それで、釣鐘にまつわるハナシで有名なお寺の境内から、同じく青銅を材料とした鐘・ベル型の古代の文化事物が出土しているって、なんだか因縁めいていて不思議だと思わない?」と、さらにハナシを大きくして問いかけて来た。とはいえ、そうしたハナシ自体は興味深く、また、ある意味、兄らしい視点であると思われた。そして「うん、それはたしかに面白いね。それで、その「道成寺」のハナシのスジの元祖もこのあたりなの?」と問い返してみると「う~ん、それもたしかに面白い視点だね・・。このハナシはたしか平安時代末期に書かれた「今昔物語集」に載っているのだけれど、それ以前については、たしかな起源と判断出来る国内文献での記載はないことから、あるいはこのあたりが発祥なのかもしれないね・・。でも一方で、今昔物語自体、インドや中国といった外国の説話を、日本のそれも含めてまとめたものだから「娘道成寺」の元ネタも、調べてみると、あるいは海外にあるかもしれないね・・。」とのことであった。

こうしたハナシはなかなか面白く、また、さきの出土した銅鐸表面に焼かれたような痕跡があったとしたら、それはそれで更に因縁めいてきて、かなり興味深いところではあると云える。さて、そうこうするうちにG市を通過し、梅で高名なM町も過ぎてT市に入った。この少し先の温泉で名高いS浜で高速道路は終わるそうで、我々は9:30頃にそこに着いた。このあたりは昨日のW市街と比べても、さらに大気に自然の薫りが濃厚であり、久しぶりに深呼吸をしてみたくなった。兄の方は先の予定を見越して「じゃあ、このあたりで一休みしようか。」と、さらに車を走らせS浜の市街地(温泉街)に入った。時刻は10:00前であった。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!


新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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