2022年9月24日土曜日

20220924 碩学舎発行 中央経済社発売 クレイトン・M・クリステンセン/ジェローム・H・グロスマン/ジェイソンジェイソン・ホワン 著 山本雄士/的場匡亮 訳「医療イノベーションの本質」 pp.28-30より抜粋

碩学舎発行 中央経済社発売 クレイトン・M・クリステンセン ジェローム・H・グロスマン ジェイソン・ホワン 著 山本雄士 的場匡亮 訳「医療イノベーションの本質」
pp.28-30より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4502125911
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4502125911

今日の医学教育は、メディカルスクールのカリキュラムの骨子が制定された1900年代前半の3つの状況を反映したものとなっている。第1に、20世紀最初の数十年、医療は科学ではなく直感によるアートであったー医療の提供能力はルールやプロセス、設備ではなく医療従事者に依存していた。したがって、医学教育は直感に基づいて、個人で働く医師を育てる仕組みになっていた。第2に、学生は秋に農作業を終えてから集団で学習を開始した。第3に、現在のメディカルスクールのカリキュラムの骨子が固まった時代の疾患のほとんどは急性疾患であり、ほとんどの症例は教育病院で経験できた。
 今日の医学生が医療を実践する未来の世界は、メディカルスクールが用意したものとは全く異なるものである。相違点の1つは、直感的、または経験的医療の領域にある疾患のほとんどが、20年後の未来には精密医療の領域へと移行しているということである。その結果、多くの疾患が最終的にはナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタントによって診断、治療されるようになる。彼らは組織し管理することが、ほとんどの医師の仕事の大部分となるだろう。
 もう一つの相違点は、属人的な専門性とプロセスにおける専門性との比較にみることができる。いつの時代でも、経験豊かで直感的な専門医にソリューションショップで働いてもらう必要がある。多くの疾患にはまだ精密医療が有効でなく、これまでになかった新しい疾患も生まれるであろうからである。医学生を個々人として働けるように訓練する現在の教育方法は、そうしたソリューションショップで働く医師を育てるには十分であろうーしかし、30年度にはそうした医師の必要性は今よりも少なくなっているはずである。未来の医師のほとんどは、個人の能力のみではなく、プロセスや設備に医療提供能力の大部分を頼るような環境で働くようになる。しかし、私たちの知る限り、ミスを防止するための自己改善プロセスのデザイン方法を学ぶことができるクラスを設けているメディカルスクールはない。
 第10章で説明するように、今日の償還制度ではプライマリ医より専門医のキャリアを選んだほうが高収入を得ることが出来るために、米国のメディカルスクール卒業生は専門医教育を受けることを選択し、躊躇なく、上位市場へと進んでいる。結果、現在米国で診療を開始するプライマリケア医のおよそ半数は海外のメディカルスクールー基本的にはカリブ海周辺やラテンアメリカ、インドーの卒業生である。これらの大学は評価を高めつつあり、在職者にとって経済的に全く魅力のないマーケットを手始めとして、米国のメディカルスクールを破壊しつつある。
 これが米国の医学教育機関にとって脅威となりうるのは、将来的に多くの牽引技術によってプライマリケア医が専門医を破壊することになるからである。加えて、そのような技術の進展によってナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタントがプライマリケア医を破壊するだろう。そしてまた、米国では慢性的な看護師不足も続いているーこちらも基本的にはフィリピンなど海外で教育された移民看護師によって埋め合わせがされている。看護師不足は米国の看護学校が足りないことが根本にある。つまるところ、米国は将来必然性が増す可能性の高い専門職よりも、先細りになる可能性の高い者たちの育成に医学教育のリソースを向けていることになる。