2023年6月18日日曜日

20230618 中央公論新社刊 今井むつみ・秋田喜美著「言語の本質」 -ことばはどう生まれ、進化したかー pp.164‐165より抜粋

中央公論新社刊 今井むつみ・秋田喜美著「言語の本質」
-ことばはどう生まれ、進化したかー

pp.164‐165より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4121027566
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4121027566

実は、オノマトペの持つアイコン性には、二つの種類がある。一つは、ことばを覚える前の赤ちゃんでも感じることのできる、脳が自然と感じる音と対象の間の類似性である。もう一つは、解釈によって生まれる類似性である。前者が「似ているから似ている」なら、後者は「似ていると思うから似ている」と言ってもよい。

 「似ていると思ってしまう」原因は多数あるが、その中でも注目すべきは言語と文化の習慣で、とりわけ強力なのは、「同じことば」が適応されることである。ある言語で○と△が同じことば(単語)で表現される場合に、別の言語では異なることばで区別されることは頻繁にある。

 たとえば、日本語では「水」と「湯」は別のことばで区別される。英語ではどちらもwaterである。逆に、英語ではwatchとclockは区別されるが、日本語ではどちらも「時計」である。このように、ほぼ同じ意味を持つが、日本語では別のことばで言い分け、英語では区別しない概念のペアをたくさん用意して、それぞれのペアの類似度を日本語話者、英語話者に評価してもらった研究がある。予想どおり、日本語話者も英語話者も、自分の言語で区別しないペアのほうを、区別するペアより類似性が高いと評価した。つまり、日本語話者なら〈腕時計〉ー〈壁時計〉のペアを〈水〉ー〈湯〉よりも「似ている」と判断したのである。

 私たち人間は多様な基準で類似性を感じる。とくに二つのモノ(あるいはことば)が同じ概念領域に属していたり、あるシステムの中で同じ要素を持っていたり、接辞を共有していたりすると、それだけで「似ている」感覚は強くなることが実験的にも示されている。たとえば、〈イヌ〉と〈首輪〉、〈イヌ〉と〈犬小屋〉、〈懐中電灯〉と〈寝袋〉、はては〈サル〉と〈バナナ〉などは、非常に類似性が高いと評価される。

 つまり人が感じる類似性は、見た目が似ている、内部構造や関係が似ているなどのいわゆる規範的な類似性だけではないのである。いつもいっしょに現れる(使われる)もの同士にも類似性を感じるし、同じ接辞がつく、同じ重複の形で現れるなど、同じ形の言語パターンを見つけると、それだけで類似性を感じる。このような文化や言語によって作られた「類似性」は、音と意味の間の類似性(アイコン性)の感じ方にも影響を与える。