2021年1月11日月曜日

20210111【架空の話】・其の62

あとは教授とE先生を交えた雑談のようになり、とりあえず今回の研究室訪問の目的は達せられた。

この雑談はその後約1時間ほど続き、主に教授がご自身のことについて語ってくださった。どうやら元来話好きの性分であるらしく、さまざまな方面にハナシが飛んだが、さすがに長年、学生相手の講義をされてきたためか、そのハナシには惹き付ける何かがあるように感じられた。

ハナシによると、このS教授は、歯学部の教授でありながら歯科医師ではなく、背景となる学問分野は工学であり、専攻は窯業つまりセラミックスとのことであった。また、これはあとになって知ったことだが、この歯科理工学研究室とは、全ての歯科大学・歯学部にある、まさに歯科医学分野の研究室でありながら、その教員は歯科医師でないことが多く、ここ最近では多少事情が変わってきているとも聞くが、当時は半数程度がS教授のような工学分野出身者や、さきにご挨拶した先生のように歯科技工士を背景とする方もいた。

教授は、もともと関西圏にあるH県の都市Kのご出身であるが、高校卒業後は大学進学のため東海地方のA県の都市Nに行き、そこで大学院修士課程まで修了され、その後、著名な歯科医療総合メーカーであるG社に入社され東京配属となった。当時は景気も良く、各歯科大学・歯学部共に割合多く備品を購入されていたようで、電気炉や鋳造機など納入機器の操作説明担当者として、しばらく滞在した都心部にある某老舗歯科大学で、当時、歯科理工学教室主任教授であったK先生に気に入られ、G社から引き抜かれて、助手として勤務することになったとのことであった。

その後、歯科大学でも熱心に研究を続け、歯学博士の学位を取得され、さらに続けてNにある母校の大学にて工学の論文博士の学位も取得されたとのことであった。

こうした博士号を二つ取得されている方を世間ではダブル・ドクターと云うようであるが、私にとっては、このS教授が、初めて見るそうした方であり、あるいは、さきに感じた精悍さも、そこに由来しているのかもしれない・・。

そういえば、面談の終盤、不図、S教授が私に「君は、今の医専大を出て歯科技工士になれたら、次はどうするつもりなのかね?」と訊ねてきた。私は突然のことで「・・ええと、普通に就職活動をして条件の良い技工所か何処かに勤めたいと考えています・・。」と少々慌て気味にて返事をすると「・・・そうか、実はうちの教室の先生方もここ3・4年で続けて定年退職されて、そうしたら今、医専大にいるウチの教室OBの連中をこっちに教員として呼び戻したいと考えておるのだが、そうすると今度は医専大の方のポストが空いてしまうからのお・・。」と云われた。それを聞いて「ひょっとしたら医専大のポストに入れるかもしれない!」と少しだけ目が見開いたが、あまり気にしないような調子で「・・そうしますと、またS先生の教室OBにて医専大のポストを充当することになるのでしょうか?」と訊ねてみると、教授は少し黙ってから「・・うむ、しかし、このEが2年前に修了してから、ウチの研究室には正規の院生はおらんのだ・・。」と、E先生の方を少し見て云った。それを聞いた私もまた少し間をおいて「あの・・もし来年度、私が無事に医専大を卒業して歯科技工士になれましたら、そちらの研究室に院生として入ることは可能でしょうか?」と、おそるおそる訊ねてみると、教授は「うむ、まあ、それは無事に受ければ可能かもしれないな・・。しかし、それでウチに来てくれるのであれば、歯科理工学の学生実習なども上手く回せるようになるかもしれんぞ・・。」と少し回りくどいような返答をされた。

ともあれ、この最後の方のやりとりは、当時の私にとって、サッと未来に光明が見えた瞬間であったことから、強く印象に残っている。おそらく、あの時もまた、一つの人生の分岐点であったのだと思われる・・。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!




ISBN978-4-263-46420-5

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