2020年11月17日火曜日

202011117【架空の話】・其の1・2加筆修正

21世紀に入り、今後さらに進行する高齢化社会に対応すべく、国内各地に医療介護系の大学・学部・学科が新設され、また、既存の医療介護系専門学校も、新たに専門職大学に改組され、さらに、それらが合併するといった事態も生じてきた。そして、そうした高等教育における状況から、人文社会科学分野を専攻する学生数は徐々に減少していった・・。

さて、こうしたことを話している私は元来、人文社会科学分野を背景とする人間であり、A大学のヨーロッパ文化専攻に進んでいた。そして、この専攻分野では卒業しても、あまり実入りの良い就職口に就けそうにないことを3年生になってはじめて気が付いた。そこで「後悔先に立たず」から「毒を食らわば皿まで」と方針の転換を行い、同専攻の修士課程に進むことにした。

ともあれ、それは修士課程まで進むことにより「これまでとは違ったビジョンが見え、より良い選択肢を見つけることが出来るのではないか」と考えたのであるが、他方で、面倒で困難な選択をなるべく避けて「出来る限り安逸に生きていたい」といった願望が全くなかったとも言い切れない・・(苦笑)。くわえて、専攻分野について「自分は多少のセンスがある」と現実を知らずに思い込んでいたフシもあったと云える・・(苦笑)。

そのようにして大学院修士課程に進んだわけであるが、その院生生活は学部生の延長のような部分も少なからずあり他方で、研究のための文献を読む時間については、学部生であった頃と比べ、履修科目が減ったことから、かなり増やすことが出来た。また、以前からの通学路途中にあるS駅近くの古着屋でのアルバイトも継続した。このお店は、店長の趣味か、なかなかシブイ、古い映画作品に出てくるような品が並ぶことが度々あり、当アルバイトは、店長との会話を契機として、なんとなく働くようになったという経緯があった。

勤務時はしばしば、客が手にする商品について、(長々と)ウンチクを語ってしまうことがあり、時々やんわりと、店長から注意を受けることがあった・・(苦笑)。とはいえ、もともとは店長自体がウンチク好きであり、かつて客であった私と店長が話をしたきっかけも、そうした共通認識があったことから、その内容は「そういうことを人に説明したいと思うはよくわかるけれども、多くのお客さんは、あまりそうしたウンチクを聞きたいとは思っていないから、そこまで熱心にやらなくても大丈夫だよ・・。」といった感じであった。それでも、自分が良いと思った品についてハナシかけたくなってしまうのはごく普通の心情であると思われるのだが・・。

さて、アルバイトと参考資料・文献の読み込みや、調べものと多くはない履修科目の予習・復習と少しの遊びで、修士課程1年目を終え、2年目では通常であれば、本格的な就職活動を行うことになるのであるが、私の方はどうしたわけか、就職活動に身を入れることはせず、アルバイトは相変わらず続けつつ、割合ダラダラとした日々を過ごしていた。周囲の院生やゼミの学部生などは、リクルートスーツを着て大学でも就職支援センターなどに頻繁に出入りする中、私といえば色落ちしたジーンズにヨレヨレ(洗いざらし)のボタンダウンシャツで図書館と院生研究室ばかりに出入りしており、面識のある教員の方々からは「君はこの先どうするつもりなのかね?」と、あまり興味なさげに訊ねられることも幾度かあった・・(苦笑)。

当時の私は傍から見る、どのように見えていたのだろうか?いや、そのようなことは今となってはどうでも良い。それよりも、ここからが、少し重要なくだりになってくるのだが、GWが終わって梅雨に入る少し前の時期、どうしたわけか、突然、右下の歯が痛くなり、シフトで入っていたアルバイトも早退し、一端自宅に戻り保険証を手にして近所の歯科医院に、かなり久しぶりに訪問した。その院長は、かつて、どこかの歯科大学か大学歯学部で講師か助(准)教授まで勤めていたとのことであり、時折、商店街や駅の近くで見かけることがあったが、気安く話しかけるには纏っている緊張感が強すぎるように感じられた・・。しかしながら腕は確かであると近所では評判であり、実際、私の家族も皆、そこでお世話になっていた。

さて、そうした経緯で歯科医院に入ってみると、丁度、院長が開封したての学会誌のような雑誌を院内入ってすぐの待合室で立ち読みしていたようであり、雑誌を持ちつつ、こちらに目を向け「おお、**君じゃないか・・。久しぶり、どこか歯でも痛くなったのかね?」と聞いてきたので「ええ、どうもお世話になっています。実は右下の歯が少し痛みますので先生に診て頂きたいのですが・・。」といった感じで、右顎に手を触れさすりつつ少し自嘲気味で答えた。」すると「ほお、そうですか・・。君はとてもラッキーだね。丁度今、予約していた患者さんが急な事情でキャンセルになったところなので、すぐに診てあげれるよ。」とのことであった。普段、あまり運の良し悪しについて考えない私も、これには少し「運が良い」と感じ、また、それが外出先にて腹痛を起こし、飛び込んだ先の施設で清潔なウオッシュレット付きトイレが空いていた時の感覚によく似ていることに気が付いた・・。

その5分後には、私は診療チェアーの上にいた。診療がはじまり、痛む歯の部分だけをくり抜いたゴム製の布のようなものを被せられている時、以前の診療時にはいなかった女性スタッフが先生のサポートにあたっていることに気が付いた。見たところ、私と同年代であるように見えたが、次第に治療が本格的になってくると、そのようなことも意識が向ける余裕はなくなり、歯の真中を細い鋸のようなものが、ギシギシ云いながら歯髄の方に迫ってくる感覚には久しぶりの冷汗が流れた。とはいえ、その治療自体は、そこまで苦痛はでなかった。治療後の先生の説明は「右下の臼歯で、以前に根っこの治療をした場所に再び膿が溜まって、それで痛かったのだと思う。とりあえず、穴を空け、排膿してから洗浄して仮に封をしておいたから、また近いうちに来てください。」とのことであった。

私はその説明をただ頷いて聞いていたが、しばらくすると先生の方から「そういえば**君は今、A大の大学院生でしたっけ・・。それで、何を専攻しているのかな?」と訊ねてきたため「ええ、文学研究科のヨーロッパ文化専攻です・・。」と少し遠慮気味に答えた。

すると「それはまた何だか面白そうですね・・。それで、具体的な研究テーマは何ですか?」とさらに踏み込んで訊ねてきたことから「ええ、近現代のイギリスに帰化した作家の特徴のようなものをジョゼフ・コンラッドという作家を中心として研究しています。」と、これは割合具体的に答えたが、先生の方は「ふーん、それはノーベル文学賞のカズオ・イシグロ氏も範疇に含まれるのですか?しかし何だか難しそうなテーマですね・・。それで院の修了後はどうするつもりなのですか?」と、あまり思っていなかった方向に質問が行ったことから「・・はあ、順調に行けば来春には修士課程を修了して、どこかに就職したいとは考えていますが、正直なところ就職については今現在あまり考えていません・・。」と今度は尻すぼみ気味に返事をした。

すると、先生はしばらく天井を見て、意を決したかのようにこちらを向いて「少し前に私が出たK大学のあるK県に、公立と私立の中間のような、まあ第三セクターによって運営される医療介護系の専門職大学が設置されてね、そこでは私の仕事とも大いに関係がある歯科衛生士と歯科技工士を養成する学科が設置されているのですがね・・。それで歯科衛生士の方の学科、まあ、口腔保健学科と云うのだけれど、こちらは割合人気があって心配無用なのですが、もう一つの歯科技工士を養成する学科、これは口腔保健工学科と云うのですが、こちらの方はどうしたわけかあまり人気がないのです・・。まあ、それが理由かどうか分かりませんが、今年の夏に学士編入試験を行うという連絡が来て、それで「誰か良い学生さんを知りませんか?」と、現在その大学で教鞭を執っている同期の友人に尋ねられたのですが、そこで少し唐突ですが**君はこういった話には興味はありますか・・?」と少し伏線のある質問を投げてきた。

私は、歯科技工士云々よりも、とある理由から、その大学があるK県の方に興味を持った。そこで先生に「先生はK大学のご出身だったのですね・・。それで元々はそちらのご出身なのですか?」と、本題からは少し外れた質問をした。すると「・・ああ、知らなかったっけ、たしか君のお父さんはよく知っていると思ったのだけれど・・。まあ、それはいいけれども、私は元々こちらの出身ですが、学生時代からは、しばらくK県に住んでいたのです。そういえば、だいぶ前に君のお父さんに聞いたことがあったけれども、君の家は元々はK県の出身だそうですね・・。」先生のこの返事で、少し先回りをされた感があったが、私は「ええ、そうなのです。だいぶ前、それこそ明治時代にご先祖がk県から上京して、こちらの学校に通い、仕事に就き、居着いてから3世代ほど経っているのですが、如何せん、あちらの苗字は変わったものが多くて、私も根っから、こちらの人間であるはずなのに、苗字からK県出身者と間違われることが度々あるのです・・。あと、現在も大学での数少ない友人はこのK県の出身者でして・・」と話しているうちに、その数少ないというよりも、唯一と云っても良い友人であるBのことを思い出していた・・。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!



ISBN978-4-263-46420-5

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