2020年12月17日木曜日

20201216【架空の話】・其の55

「まあ、しかし、君のお父さんとは法事でこれまでに何度か会って、あと若い頃は会社の出張の時に会ったこともあるけれど、君はその息子さんかあ・・。」と両手を組んで感慨深げにこちらを眺めた。

私もまたもう少し意識して院長を見ると、たしかにその顔貌の特徴には、父や父方の親戚筋とも共通する要素があり、不図「パラレルワールドに父親がいたらこんな感じかもしれない・・」といった思いが脳裏をかすめた。

続けて院長は「うん、君のお父さんと私がほぼ同世代だから、君からすると5代前、そして私の4代前、つまり高祖父が同一人物ということになるね。丁度、この高祖父と、その下の曾祖父の世代に明治10年の西南戦争が起きてね・・。そして、まあ、高祖父と何人かのその息子達はその時に亡くなってしまたのだが・・。この高祖父「***さあ」は、戦争当時、既に高齢であったのだけれども、若い頃からボッケモンで通っていたこともあり、西郷軍の小荷駄方として従軍してね、最期は西郷軍本隊を無事に鹿児島に帰すために、殿(しんがり)の一人として人吉という場所での防戦の末、五月の末頃に戦死したと聞いているよ・・。」と、あまり感傷を交えない淡々とした調子にて語ったが、それを聞いた私は、自身の5代前にあたる人物が、我が国近代最大の内戦にて、いわば反乱軍の兵士として戦死していたことは、これまでに聞いたことがなく、さらに、自身内部のこれまで知らなかった「何か」に触れたような感じを強く受けた・・。

ともあれ、そうした共通のご先祖のハナシを聞いているとドアをノックしてトレーに載った弁当とお茶が二組運ばれてきた。運んで来たスタッフに院長は「やあ、どうもありがとう。」と云うと「ええ、ポン酢とゆず胡椒も一緒に持ってきましたから、温かいうちに。」と返事をして「では。」と明るい声で引き下がって行った。

トレーを見ると、たしかに、よくある弁当のパッケージとは別に、小瓶に入ったポン酢らしきものと、緑色のペースト状のものが入った同程度の大きさの瓶が置かれていた。それを眺めていることに院長は気が付いたのか「ああ、丁度昼時だから今日は一緒に弁当でも食べよう。ところで君は「とり天」は知っているかね?」と、これまた鷹揚に訊ねてきた。「とり天」は現在の私にとってはかなり馴染み深い惣菜であり、それは唐揚げに勝るとも云えるのだが、当時は予想される語義通り「鶏の天ぷら」であるとは察せられるものの、しかし果たしてそれがどのような味であるかについては見当が付かなかった。

院長は白衣を脱ぎ、それを執務机横にある木製の古めかしいコートハンガーに掛け、ワイシャツのカフスボタンを外し腕まくりをして、部屋の隅にある洗面台で手洗いを始めた。そして、その途中で手招きをして、私にもそのようにすることを促した。こうして出会う自然な職業的とも云える几帳面さもまた、当時の私にとっては、さきの「とり天」同様、新鮮なものに感じられた。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!





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