2021年7月25日日曜日

20210725 筑摩書房刊 開高健著「開高健ベスト・エッセイ」 pp.158-160より抜粋

 筑摩書房刊 開高健著「開高健ベスト・エッセイ」

pp.158-160より抜粋

ISBN-10 : 4480435123
ISBN-13 : 978-4480435125

小説を書くにはどうすればどうすればよいかということは百人百説で、めいめいがオマジナイや処方箋をもっている。パイプを三服ふかさなければとりかかれないとか、耳の垢をホジらないことには落ち着けないとか、タバコを一箱買いに行ってからとか、いろいろである。デュマはサロンにどかんと腰をおろして雑談をするとそれがことごとく小説になるのでサロンの常連からデュマ小説製造株式会社という仇名をつけられたとか、というような話もあるけれど、そんなのは例外である。

 一番多いのは酒、タバコ、それから〆切日が近づくと、ノーシンなどが机のまわりに登場するらしい。私はあまり飲まないがこの薬は奇妙に評判がよくて、あちらこちらで苦笑まじりに噂を聞く。流行の尖端をゆく小説家がシェーファーの万年筆をおいてやおらノーシンの箱に手をのばすなどという風景はいかにも日本らしい。トッポい名前が安心感をさそうのだろう。

 コーヒーについてはバルザックが派手な、しかし彼の実力からすればまんざら嘘でもないような賛辞を捧げている。なんでも彼は一日に60杯飲んで12時間書きに書き続けたという噂である。ちょっと引用すると・・・

「・・・こいつが胃の中に入ると昂奮してカーッとなる。戦場にのぞんだナポレオンのひきいる常勝軍のおうに妙想が雲のようにはげしくわきだす。軽騎兵が疾風のようにかけるようにイマージュが飛ぶ。砲兵隊がつうけざまに大砲をブッ放すように論理が躍動する。自然に微笑が浮かぶ。インキが原稿用紙のうえに一面にパッと散る。戦闘開始。インキの洪水が見る見るうちに長編小説を仕上げてくれる。まるで戦争に火薬を使うように・・・」

恐れ入りましたとひきさがるばかりである。

これらは机に向かってからの話だが、それ以前に用意されてある小説のヒントそのものはどうして入手するのか。これまた百人百説で、お菓子のかけらをお茶に浸して口に入れた瞬間に半生の時間を回復した人物もいれば、ライオン狩りや闘牛をやらないことにはダメだとする猛者もいる。チェホフはサラリーマンのようにせっせとメモをつけ、モームは南洋くんだりくんだりからモスクワまで旅行した。万人万様である。

 書くものがどうやら発表できるようになった頃のこと、私は毎日タクシーのメーターを眺めているような気分におそわれて憂鬱だった。雲の妙想、軽騎兵のイマージュ、大砲の論理、なにひとつとして在庫皆無である。コーヒーを飲むと酔うし、闘牛をやるには体重が13貫しかない。しようがない、お酒を飲んでフテ寝をした。稼げるのに稼がないのはなんと贅沢な快楽であることか。肘枕、かすんだ目を細くひらき、くちびるをかみながらカッと射す西陽を眺めて暮らした。そのうちに半ば真性のノイローゼとなり、ほんとに衰弱してしまったのにはまったく手を焼いた。

しようがないから好きなE・H・カーの名作「バクーニン」でも翻訳してやろうかと思ったが、これは埴谷雄高氏から、

「ダメだ、ダメだ、そんなことするとますます小説が書けなくなるよ」といわれたのでよしにした。思うに埴谷氏は自分のことをいっていたのである。一年ほどしてから会ってそのことをいうと、まえとまったくおなじ警告をうけた。「道ですれちがった女の匂いがムンと鼻先に迫って離れないような状態におかなくちゃあ」というのが氏の処方箋であった。

20210725 【架空の話】に登場する挿話の背景について

 今回の記事投稿により、総投稿記事数が1590に至り、残り10記事の投稿にて、当面の目標としている1600記事に到達することが出来ます。また、今月中での達成は危ういと云えますが、何れにしても、新規の記事投稿がなければ前に進みませんので、本日もあわよくば複数の記事投稿が出来ればと考えています・・(苦笑)。

ちなみに今月は残りが6日であり、本日さらに新規にて投稿することによって、6日間にて9記事の投稿を要することとなり、そうした状況のもと、この6日のうち3日を2記事の新規投稿とすることにより、今月内での1600記事到達への目途が立ち得ます。

とはいえ、実際、それに挑むのは未だ現在スランプ気味である私であり、ここまで書いて認識された、現実の様相に対しても既にゲンナリしつつある私もいます・・(苦笑)。

しかし、それでも遅かれ早かれ1600記事には到達することが見込まれますので、何であれ、とりあえずここは書き進めて行こうと思います。

さて、ここ数日間は【架空の話】の続編のようなものを作成し記事として投稿してきましたが、こちらも、思いのほか多くの方々に読んで頂いており、少し驚かされました。

また、これら投稿した【架空の話】の続編は、精確には続編ではなく「続編作成のための材料となる挿話」のようなものであり、これらが次の段階での物語の進行に際し、その全体のリアリティーを高めたり、もしくは、作中の世界を引き締め、深みを与えるのではないかと思われます。

ともあれ、そうした挿話もまた、いくつもの挿話的要素によって構成されたものであり、そして、その挿話的要素の基層には、作者自らの経験、他者から聞いた印象的な経験といった、より現実に近い記憶があると云えます。

そして、先日来の【モザイクのピースとなるもの】とは、まさにその意味で、物語の進行に際して描かれる挿話的なものの具体的な内容を文章としたものであり、それらもまた幾つもの挿話的要素にて構成されてはいますが、こうしたものは思いのほかに文章としては一気呵成に書く事が出来ることもあり、何か思いついた時に、【架空の話】に用いるか用いないかは別として、作成出来るものは作成しておき、後日、必要になれば、そこから手を加えれば良いのではないと思われました。

今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

順天堂大学保
健医療学部
順天堂大学医療科学部

日本赤十字看護大学 さいたま看護学部 


一般社団法人大学支援機構



~書籍のご案内~
ISBN978-4-263-46420-5

*鶴木クリニックでのオペ見学につきましても承ります。

連絡先につきましては以下の通りとなっています。

メールアドレス: clinic@tsuruki.org

電話番号:047-334-0030 

どうぞよろしくお願い申し上げます。





20210724【架空の話】・其の67 【モザイクのピースとなるもの】

 医専大卒業後は、そのままK大学大学院に進学した。ここに至るまでは色々とあったが、ともあれ、どうにか進学することは出来た。また、この進路は転居を要さず、むしろ通学先はさらに近くなることから、楽になると思われたのだが、私の住むアパートの敷地を出てすぐに坂があり、その坂のさきにK大学があるのだが、この坂が意外なほどに険しく、通常の自転車では、一度も地に足をつけないで上り切ることは困難なほどであった。

そうした事情もあり、入学後すぐに中古にて原付を購入したが、首都圏在住時は、その交通事情から、さすがに危険であると考え、乗ることを控えていた原付にいざ乗ってみると、これがかなり便利であり楽しかった。休日に鹿児島から桜島フェリーに原付を載せ、大隅半島側に渡り、垂水、鹿屋を抜け、大崎や志布志の地域を一周したこともあったが、当時の私にとって原付は、とても新鮮に感じられる一種の遊び道具のようなものでもあった・・。

さて、K大学大学院に進んでからの日常は、医専大の頃と大きく変わりはなかったが、今までの医専大では教えられる学生という立場であったが、ここK大院では、他の研究室の先生からすると、私のような歯科技工士なり立て1年目のいわばオールド・ルーキーの院生でも、何かの専門家として扱われることから、あまり下手なことは出来ず、云えないような雰囲気であった・・。

朝、研究室に着くと、その一角にある自分の席に荷物を置き、既に出勤されている研究室の先生方に挨拶をしてから、その時間には大抵在室であったS教授の研究室に行き、当日の予定などを聞き、特に用事がなければ、依頼を受けていた、さまざまな試料の作製に取り掛かり、そして、それと併行して自分の研究分野と関連すると思しき先行研究、著名な論文などを読み、辞書をひいては訳していくといった作業をしていた。

片や先行研究の読み込みで、もう片方は1000℃以上にまで加熱された電気炉内から試料の出し入れなどを行っていたことは、現在考えてみると、あるいは少しおかしかったのかもしれないが、当時としては、そうしたことも考えずに、ただただ作業をしていたことが思い出される。とはいえ、こうした事情は、当研究室を修了された他の先生方もまた概ね同様であり、それぞれ先生方が行っている手指を用いる実験と、論文の読み込みや作成などの文章仕事とのバリエーションに特徴があり、これもこれで興味深いものであったと云える。

そういえば、S教授には、同じ研究分野にて着実に地歩を固めつつある若手の後継研究者と云われるような存在はなく、むしろ逆に、この研究分野、いやS教授のもとで学位を取得されると、どうしたわけか、より素の自分に近いと思われる研究分野へと進まれて行くといった不思議な傾向があるように見受けられた・・。

一面的ではあるものの、良い指導教授とは、あるいは本来そうしたものであるのかもしれない。

今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

順天堂大学保
健医療学部
順天堂大学医療科学部

日本赤十字看護大学 さいたま看護学部 



一般社団法人大学支援機構



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ISBN978-4-263-46420-5

*鶴木クリニックでのオペ見学につきましても承ります。

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メールアドレス: clinic@tsuruki.org

電話番号:047-334-0030 

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