2020年5月9日土曜日

20200508 架空の話・其の9

【架空の話】
「さて、いざk空港に降り立ってみると、その土地の大気というのだろうか、そうしたものが五感に迫ってきて、はじめて、違う地域に来たという実感を与えてくれた。ともあれ、このK県で私が初めに得たそうした感覚は、これまでの経緯からすると、若干ベタな表現となってしまうが「何だか懐かしい」といったものであった。

しかし、飛行機を降りてしばらくしても、耳奥の痛みと体のフラフラした感じは残り、しばらくの間、空港ロビーにあるコーヒー店にて休息をとった。とはいえ、これらは飛行機に乗ったことによる一時的な不調であったことから、他の乗物同様、しばらく休むと随分落着き、そして次第に周囲の様子にも関心を向けられるまでに回復したため、先ずは市街地行きのバスチケットを購入した。

K空港から県内中心地であるK市までは、公共交通機関としてはバスの路線が走っており、所要時間はおよそ40~50分程度であり、また、運賃は当時で1100円くらいであったと記憶している。この金額設定は電車をはじめとする公共交通機関に慣れている私からすると、若干高額であるように感じられたが、その後、幾度か乗るうちに「まあ、そのようなものか・・。」と思うようになった。つまりは、空港から市街地へ出るための他の公共交通機関がないため、それに慣れるしかないというわけだ・・。

ともあれ、私がこの時に乗ったK空港からK市街地までのルートは、途中から高速道路に乗るものであり、高速道路走行時に周囲の景色を眺めると、やはり首都圏とは大きく異なり、とりわけ、漢字の「山」のようなカタチをした山があることに驚き、そして、植生やバスの中からでも感じ取ることの出来る、大気の違いから「異郷に来た感」をいよいよ強めた。さらに、走行するバス左側にK湾に浮かんだS島が見えてきたが、はじめて目にする本物のS島は、普段、生活の中で「大自然」と接する機会を持たない私からすると、人工的に造られた街並みが、大自然の産物であるS島と解け合って共存しているように見え、これに多少の違和感を覚えた。その理由として、当時の私は、人工的な街と活火山が地域の中で共存しているということが、単純に想像出来なかったからであると思う。くわえて、おそらく、こうした感覚は、首都圏在住の人々が、はるか西に見える富士山に対して持つ感覚とは異なったものであるように思われる。

そこから、Kという地域は、身近に活火山という「巨大な生き物」のような存在があることから、我が国古来の「八百万の神」に代表されるパンティズム(汎神論)が、今なお地域の人々の中に自然なカタチで息づいていると云えるのかもしれない・・。

などとボンヤリ考えていると、走行するバスの振動も手伝ってか若干眠たくなってきた頃、皮肉なことに、どうやらバスは市街地に入ったようであり、様々な看板や全国チェーンの飲食店などが目に入るようになってきた。私はTという停留所にて降車予定であり、それが、車内前方設置のテレビ画面に表示されると、上の棚に置いたビジネスバッグを信号での停車時に急いで下して、到着に備えた。

さて、いよいよT停留所に着くと、同じ停留所で私の他にも何人か降車される方々がいたようで、運転手さんも降り、バス下部に積んだ大きな旅行鞄の取り出しを手伝っていた。私は大きな荷物がないため、他の降車客が全て降りた後で、チケットを運転手席横の回収箱に入れ、ステップを下り、はじめてK市街に降り立った。

この時季のK市は既に30℃を超えており、その湿気を多く含んだ暑い街の大気は、すぐに鼻の奥にまで達した。また、さきほどまで快適なエアコンが効いたバス車内にいたことから、このギャップには少したじろいだが「異郷の地に行くということは、そうしたことも全て折込み済である。」と思い、バッグを持つ手に少し力を込めて、Tのアーケード街を歩きはじめた。時刻は13:00を少し回った頃であり、さきほど空港では、体調不良のためコーヒーを少しだけ飲み、昼食を食べていなかったことが、ここに来て思い起こされた。」

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!
日本福祉大学
新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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