2022年10月6日木曜日

20221006 早川書房刊 ジョン・ト―ランド著「大日本帝国の興亡」〔新版〕5 :平和への道 pp.313‐314より抜粋

早川書房刊 ジョン・ト―ランド著「大日本帝国の興亡」〔新版〕5 :平和への道
pp.313‐314より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4150504385
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4150504380

 九州の大分基地では、宇垣中将が最後の神風攻撃の準備をしていた。彼は、日記で報復を呼びかけた。

 事ここに至る原因については種々あり。自らの責また軽しとせざるも、大観すれば、これ国力の相違なり。独り軍人たるのみならず帝国臣民たるもの今後に起るべき万難に抗し、ますます大和魂を振起し皇国の再建に最善を尽し、将来必ずやこの報復を完うせんことを望む。余また大楠公精神をもって永久に尽すところあるを期す。

 宇垣は階級章をすべてむしり取った制服をつけ、双眼鏡と山本から与えられた小刀を持って、飛行場にやって来た。計画では三機による攻撃だったが、十一機の小型爆撃機が待機していた。宇垣は小さな台に上がると、集まった航空隊員に「皆、それほど、私といっしょに征ってくれるのか」と問いかけた。いっせいに手が上がった。宇垣は先導機の飛行士の後部座席にのぼって入った。彼に座席をとり換えられた遠藤明義兵曹長が抗議した。「長官は私の座席をとってしまわれました。」

「貴様はクビだ」宇垣は意味ありげに微笑して言った。遠藤は負けずに、よじ登り、宇垣のわきに割り込もうとした。宇垣はよしよしと体をずらした。

 四機がエンジンの不調で引き返さねばならなかったが、その他はそのまま沖縄に向かって行った。午後七時二十四分、遠藤は宇垣の感動的な別れの言葉を打電した。

 過去半歳ニワタル麾下各隊ノ奮戦ニカカワラズ 驕敵ヲ撃砕シ 神州護持ノ大任ヲ果スコト能ワザリシハ本職不敏ノ致ストコロナリ。本職ハ皇国無窮ト天航空部隊特攻精神ノ高揚ヲ確信シ 特攻隊員ガ桜花ト散リシ 沖縄ニ進攻 皇国武人ノ本領ヲ発揮シ 驕敵米艦ニ突入撃沈ス。指揮下各部隊ハ本職ノ意ヲ体シ 来ルベキアラユル苦難ヲ克服シ 精強ナル国軍ヲ再建シ 皇国ヲ万世無窮ナラシメヨ。天皇陛下万歳。

数分後、遠藤は機が目標に突入しつつあると報告してきた。