2020年5月3日日曜日

20200502 架空の話・其の6

【架空の話】
「診察後の後片付けを終え、二人の出掛ける準備が整うのを待ち、商店街を少し歩いて、先生の行きつけであるという中華料理店に入った。この中華料理店のウリは、本場四川風の麻婆豆腐とのことであり、全員その定食を注文し、さらに先生は生ビールを注文した。Cさんと私はウーロン茶を注文し、辛いことが予想される麻婆豆腐に備えた。

そして全員の飲み物が揃ったところで、軽く乾杯をして、ハナシに戻った。先生はCさんに「どうですか、こちらの生活には慣れましたか?何かあったら気軽に云ってくださいよ。」と少し酔いが回ったのか、いつもより少し上機嫌気味で話しかけた。それに対しCさんは「ええ、こちらは色々とお金が掛かりますね・・。特に家賃が高いのには少し驚いています。でも、本当に色々なものがあって、K県に居た時と比べると刺激が多いので、それはとても面白いです。」と返事をした。すると先生は「まあ、たしかに色々とあるけれども、あまり変な方向に行かなければ別にいいよ。それより、この**君は、もともと、こちらの人なので、詳しいと思うから何か聞いてみたら。」と、話しをこちらに来るように振ってきた。私の方と云えばアルバイト以外で見知らぬ女性と話す機会はほぼないことから、実のところ嬉しかったのであるが、少し戸惑うような仕草で「・・先生、突然何をおっしゃるのですか・・。ビックリするじゃないですか!」と云ったところ「まあ、後で例の専門職大学のことを聞くためにも何か普通の会話からの糸口を作ろうとしたのだよ・・。ああ、しかし、悪かったね。」と笑って答えた。するとCさんが「そういえば、こちらで歯科に関する専門書を購入したいのですが、どこか良いお店をご存知ですか?」と先生と私、双方に向かって聞いてきたため、私は「ええと、それでしたら神保町と小川町の間にそういった書籍を専門に扱っているお店がありますよ、大概は古本ですが・・。」と答え、先生の方は「それだったらJRと都営三田線の水道橋駅近くの***社という書店があるけれども、そこだったら大体あると思うし、なければ大体のものは注文も出来るからおススメですよ。」と返答した。Cさんは少し間をおいてから、「神保町と水道橋の間の距離は長いのですか?」と質問してきたことから、私はスマホを取り出し、グーグル・マップを開いて、それぞれの位置関係を示した。すると「ああ、このくらいの距離でしたら十分歩いて行けますね。それじゃあ、今度の休みにでも行ってみます。ありがとうございます。」と云われたので、少し嬉しくなり「ええ、また何かあったらお気軽に聞いてください。」と、おそらく傍から見れば得意げに返事をした。その時、偶然にジョッキの生ビールを飲む先生と視線が合ったが、その目は少し笑っていた。
そして、私にとっては本題とも云える専門職大学のハナシになると先生は「歯科衛生士と歯科技工士の職業の成り立ちに始まり、双方共に、今後さらに重要な職分になっていくであろうという見解を述べられた。そのハナシ振りは大分板についたものであり、お酒が入っているにも関わらず、そうしたことが出来るのは、やはりそれなりにスゴイものだと感じさせられた。Cさんは、それを真面目な表情で聞きつつ「でも、現状では歯科衛生士も技工士さんも離職率が高いですからね・・。やはり、もう少し待遇や社会での認知度が上がってくれればと思います・・。そうすれば、もっと多くの人が関心を持ってくれますからね・・。でも残念ながら、私のいたK県でも、歯科衛生士は医療専門職として、あまり知られていませんからね・・なので、これは時間がかかると思います。それと、違う種類の勉強をした人が、この世界に入ってきてくれるのは、うまく云えないけれども、とても良いことだと思います。」と云われ、私の方は、そこに何かしらの隠喩的な意味合いを感じ、内心少し動揺しつつも「・・そういう状態なのですか・・。では、私も家族を説得して、おそらくダメもとになりますが、その専門職大学の技工士科を受けてみようと思います。」と答えていた・・。すると先生が「うん、まあこれも一つの経験だと思って受けてみたら良いですよ。それに、歯科技工というのは、さまざまな材料を扱うから奥が深くて本当に面白いよ・・。それこそ、今後は大学院に進む人も多く出てくるのではないかと思いますよ・・。あ、そういえば、大学院といえば、Cさんもさっき出た水道橋の次の駅、飯田橋にあるN歯科大学に新しく設置された大学院修士課程を今年、受験する予定です。何でも、ここでは社会人大学院生という制度があって、職に就きながら学ぶことが出来るらしいので、そこで摂食嚥下について研究したいらしいのです。この接触嚥下というのは、たしかに今後、社会全体が高齢化していくと、とても重要なものになり、さらに、現在では多職種連携で取組む一つの典型的な領域とされていますからね・・。なので、それはとても良いアイデアだと私も思いますよ。とにかく見聞を広げるのは悪いことはないし、それは感性が柔軟な若いうちにしか出来ませんからね・・。」と結んだ。

私の方も内心その気になって少し高揚してCさんの方を見ると、さきほど同様、真面目な調子で背筋を伸ばして「ええ、こうした勉強や研究で色々な経験を積むことが出来るのは、ちょっと悔しいですが、やはり都会ですからね・・。それで、前に勤めていた医院の院長先生や、現在の院長先生にも色々と情報を頂いて良いと思ったのがN歯科大学の大学院なのです。ここでは摂食嚥下に特化したクリニックがあると聞き、そちらでも勉強や研究が出来ると聞いていますので、ここで勉強すれば、将来、数年後にK県に戻ったら、もっと活躍できるかもしれないと思うのです・・。地方の方が高齢化は進んでいますからね・・。」このCさんの意見や未来についての抱負を聞いていると、何だか、世の中に役に立つか立たないか分からないことを研究と称して調べている自分を省みて、少し恥ずかしくなってきたが、それと同時に、こうした分野で少しでも自分も活躍出来れば・・とも思った。そこで「すいません、その歯科衛生士さんというのは、男性でもなる人は多いのですか?」と訊ねてみたところ、Cさんと先生は顔を少し顔を見合わせたのち、両人笑いつつ先生の方が「いや、歯科衛生士さんは、どうしたわけか、希望する人はほぼ女性ですね・・。ひと昔前の看護師さんみたいな感じだけれど、今後、広く世の中で、この職のことが知れ渡れば、事情も変わってくるのかもしれないけれども、現時点で**君がなるのであれば、やはり歯科技工士の方が妥当だと思いますよ。」と答え、Cさんも横で頷いていた。ともあれ、当時の私は、そうしたいわば常識とも云えることも知らなかったのである・・。
そして、注文していた麻婆豆腐定食が三つ運ばれてきて、それを食したが、この本場四川の麻婆豆腐と云うものは、その辛さの多くは唐辛子由来によるものではなく、どちらかというと、鰻にかける山椒(正式には花椒)による辛さであり、さらに、より精確に述べると「辛さ」というよりも「痺れ」に近い感覚であったと云える。しかし、山椒を調味料として用いる文化が、我が国以外にあったことに不思議に驚き、そしてまた日本も元来、東アジア文化圏に含まれることを身(味)を以て感じた。」

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

日本福祉大学
新版発行決定!
ISBN978-4-263-46420-5

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