2019年1月7日月曜日

20190107 先日の陸奥宗光著『古今浪人の勢力』に関連した記述の抜粋引用

おかげさまで昨日投稿分の記事は、ここ最近では珍しいほど多くの方々に読んで頂けました。これを読んで頂いた皆さまどうもありがとうございます。また、その記事にて挙げた『競争的退行』というコトバは、かねてより組織内部での競争が盛んである我が国においては、国の全体的な勢力が退潮気味である現在では、より多く、一般的な現象としてさまざまな組織にて見出すことが出来るのではないかとも思われます。

また、先日抜粋引用した陸奥宗光 中央公論社刊『蹇々録』収録 論説『古今浪人の勢力』もまた、多くの方々に読んで頂いていたことから、本日は、これに関連すると思しき記述を以下に抜粋引用してみようと思います。


『ちかごろよく取り上げられるようになりましたが、中江兆民の『三酔人経綸問答』という書物が明治二十年に出ております。そこには「洋学紳士」と「豪傑君」と「南海先生」という三人物が登場し、南海先生の家に集まって徹夜で飲みながら国家を論じます。彼等のイデオロギーはそれぞれ違い、しばしば全く正反対になります。結局大議論の末に明け方になって別れるというのが筋書きです。大ざっぱにいうと「洋学紳士」はラディカルな民主主義と、軍備全廃の絶対平和主義を代表し、「豪傑君」は洋学紳士に真向から反対して、権力政治の立場から大陸に対する軍事的進出の方向に進路を見出し、「南海先生」は二人の議論を調整しながらイギリス流の立憲政治と、穏和なナショナル・インタレストの結論に落ち着きます。結局、三人は立場を譲らぬまま別れるのですが、彼等の議論を通じて兆民は当時の日本が選択を迫られていた主要なイッシュ―の見事な鳥瞰図を描いております。が、私がこの書物をここで挙げたわけはそういう内容ではなくて、むしろこの書物の結尾にあります。「二客、竟に復た来らず。」或は云ふ、洋学紳士は去りて北米に遊び、豪傑の客は上海に遊べり、と。而して南海先生は依然として唯、酒を飲むのみ。」これが終わりであります。この結末は、恐らく兆民が意識して以上に近代日本の知識人がその後歩んだ道程を象徴しているように思うのです。つまり明治二十年頃には、まだこういうちがったイデオロギーの持主が集って徹夜で議論するような精神的空気が実際にあった。しかもこの三人の主人公はこの夜を最後として再び会うことがなかったというのです。ではこの三人の「その後」はどうなったのでしょうか。「洋学紳士」のその後のコースは一つは「末は博士か大臣か」と謡われた出世街道を歩んだ入々であり、もう一つはクリスチャンと社会主義者です。もちろん大多数は前者に属し、しかもその中には、明治初期には急進的自由主義者であった人も含まれます。さて、第二の「豪傑君」はその後、中国の上海に遊びます。洋学紳士と同じく海外に赴くわけですが、中国・東南アジア・インドなどに行くのは、洋学紳士の場合とちがって「洋行」とは通常いわれません。したがって、「豪傑君」の人生行路は当然「洋学紳士」と対蹠的であると推定できるでしょう。「上海」という豪傑君の行先は、維新後の一連の叛乱から自由民権運動の急進化の時代までひきつづいた国内の動乱状況に住みなれたために、不断の混沌(ケイオス)の渦中にしかl精神の慰めを覚えないような習性を身につけたーつまり古来の伝統的表現を用いれば「性、乱を好む」-行動的知識人がいわゆる「大陸浪人」に転身して行った過程を暗示しております。彼等は日本の国家および社会体制が急速に整備されて行く状況にうんざりし、幻滅したあげく、そのロマンティックな野望の舞台を中国大陸に求めたわけです。そこでは清朝の帝国の末期症状がまさに果て知れない混沌を惹起しておりました。この「大陸浪人」はのちのラディカルな右翼ナショナリストの原型ですが、明治時代において彼等に一律に「右翼」のレッテルをはるのは早すぎます。西欧帝国主義のアジア浸蝕にたいする彼等の悲憤の叫び、西欧の圧力にたいしてアジア諸国の連帯による抵抗を呼びかける彼らのファンファーレは、実にフランスおよびアメリカ革命の思想で武装していた自由民権運動の系譜のなかにもこだましていました。したがって、ある時期までの現実政治の配置のなかでは、「洋学紳士」と「豪傑君」とが、明治寡頭政府にたいする闘争において、お互いを意外に近い距離に見出した、ということも十分ありえたのです。そうして「洋学紳士」が制度的知識人と在野反対派に分裂してゆくのに対して、「豪傑君」→「大陸浪人」への系列も、やがて日本の挑戦および中国大陸への帝国主義的膨張とともに、一方では、政府・軍部の片腕あるいは下請けとして(密偵!)行動するグループと、他方ではアジア主義をラディカルに貫徹して異端の右翼という運命を辿る人々(たとえば大川周明・北一輝ら)との二方向に分裂しました。』

なかなか興味深い記述であると思われるのですが、さて如何でしょうか?

そして今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます。
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ISBN978-4-263-46420-5

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