2023年11月5日日曜日

20231105 東京創元社刊 ウンベルト・エーコ著 橋本勝雄訳「プラハの墓地」pp.13-17より抜粋

東京創元社刊 ウンベルト・エーコ著 橋本勝雄訳「プラハの墓地」pp.13-17より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4488010512
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4488010515

ユダヤ人について私が知っているのは、祖父が教えてくれたことだけだ。「奴らはとびきりの無神論者だ」というのがその教えだった。「奴らがまっさきに考えるのは、幸福はあの世じゃなくこの世で実現するべきだということだ。だからこの世界を征服することだけを考えて行動するんだ」

 ユダヤ人の亡霊のせいで、私の子供時代は暗かった。祖父が語ってくれたのは、人を欺こうとこちらをうかがうぞっとするような彼らの目つきだとか、媚びるようなにやにや笑い、ハイエナのように歯をむき出しにした唇、ねちっこく腐りきった醜い視線、鼻と唇とのあいだの皺は憎しみが刻み込まれていつも落ち着かないとか、南国の鳥の奇怪な嘴のような鼻とかだった・・・そして、彼らの目、その目は・・。興奮すると、焦げたパンののような色の虹彩をぎょろつかせるが、その目は、18世紀にわたる憎悪による分泌物で肝臓が腐っている病状を示し、歳とともに深く刻まれるたくさんの細い皺の上でゆがんでいる。ユダヤ人は20歳ですでに老人のように衰弱して見える。微笑むと目は腫れぼったい瞼でふさがって細い線になってしまうが、それは抜け目なさのしるしとも、好色のしるしとも言われると祖父は詳しく説明した。話がわかるくらいに私が大きくなると、祖父は教えてくれた。ユダヤ人はスペイン人のようにうぬぼれが強く、クロアチア人のように無知蒙昧、レバント人のように強欲で、マルタ人のように恩知らず、ジプシーのように図々しく、イギリス人のように不潔で、カルムイク族のように脂ぎっていて、プロイセン人のように傲慢で、アスティ人のように口が悪い。おまけに、抑えがたい情欲に駆られて不義密通に走るのだと。その原因は割礼にある。一部切除された突起物の海綿体と矮小な体型との釣り合いが取れなくなって、勃起しやすくなる。

 何年も何年も毎晩のように私はユダヤ人を夢に見てきた。
幸運にも彼らに出会ったことはない。子供の時にトリノのゲットーで出会った売女(しかし、二言三言、言葉を交わしたにすぎない)と、あのオーストリアの医師(あるいはドイツの医師、だがそれは同じことだ)を別にすれば。

 私はドイツ人をよく知っているし、彼らのために働いたことさえある。思いつくかぎり、最低の人種だ。平均してドイツ人はフランス人の二倍の糞をひり出す。腸が脳髄の分まで過剰に活動しているからで、彼らの肉体の劣等ぶりを表している。蛮族侵入の時代、ゲルマンの諸部族が進んだ道には、考えられぬほど大量の人糞があちこちに残っていた。何世紀ものあいだ、フランス人旅行者は、道端に残された異様に大きな糞を見ると自分がアルザス国境を超えたのだとすぐに察しがついた。それだけではない。臭汗症つまり汗の嫌なにおいはドイツ人特有のものであり、ほかの人種の尿には15パーセントしか含まれていない窒素がドイツ人の尿には20パーセント含まれていることが証明されている。

 ドイツ人はビールとあの豚肉ソーセージをがつがつ飲み食いするせいで、いつも腸を詰まらせて生活している。ある晩私は、一度だけ行ったミュンヘンに滞在中、かつては大聖堂だったらしい場所でイギリスの港のように煙が充満し、脂身とラードの悪臭が漂う光景を目撃した。男女のカップルさえ、一杯で象の群れの渇きを癒せるほど巨大なビール・ジョッキを両手で握りしめていた。鼻を突き合わせて獣じみた愛の言葉を交わす様子はにおいを嗅ぎ合う二頭の犬のようで、けたたましく下品に笑い、濁っただみ声で大はしゃぎをし、
体に油を塗っていた古代の円形闘技場の格闘家のように顔と四肢はいつも脂で光っていた。

 奴らはいわゆる「ガイスト」をがぶ飲みする。それは酒のことだが、この麦の酒のせいで、若い頃から頭が鈍ってしまう。だからライン川の向う側では、ぞっとするほど凶悪な人相を描いた絵画と死ぬほど退屈な詩しか芸術作品が生れなかったのだ。音楽については言うまでもない。今ではフランス人まで夢中になっている騒々しくて陰気なあのワグナーの話ではない。少し聴いただけだが、バッハの作品にはまったくハーモニーがなくて冬の夜のように冷たいし、ベートーベンの交響曲は無作法な馬鹿騒ぎだ。
 ビールを暴飲するせいで、奴らは自分の柄の悪さにまったく気がつかないのだが、その極みはドイツ人であることを恥じていない点だ。ルターのような大食漢で好色な修道士(修道女と結婚するだと?)を、聖書を母語に翻訳して台無しにしたというだけで真面目に受け止めたのだ。誰が言ったのか、ドイツ人はヨーロッパの二大麻薬、アルコールとキリスト教を濫用している。

20231104 当初に対話形式記事を多く作成した背景について

本日もまたこの時季としては陽気が良くなり、日中は上着はいらず、半袖でも十分でした。とはいえ世界に目を転じますと、さる10月7日イスラム教スンニ派の民族・原理主義組織ハマースが実効支配するガザ地区と隣接したイスラエル側への奇襲攻撃を契機としてはじまった新たなパレスチナ・イスラエル戦争、そして昨年2月24日から今なお続く宇露戦争も、その帰趨が明らかにならないままであり、さらに、その他にも世界各地で、いや端的に、世界規模で暗雲が立ち込めているのが現状であると思われます。

そしてまた、この先も予断を許さない状況であると云え、わたしとしては自分なりに現在の国際情勢を精確に理解したいと考え、また偶然にも神田古本まつりが開催されたこともあり、出来るだけ関連書籍を読むことに努めてはいますが、理解が深まり、そして次の進展についての自分なりの見解といったものはまだ出て来ません・・。とはいえ、こうしたことは知識が乏しい方が、色々な想像が出来るためであるのか、さまざまな考えが浮かんではくるようですが、その分野に関する新書や専門書を読んでみますと、そう簡単には、ある程度、精確と云い得る知見・見解を述べることは出来ないことが分かってきます・・。しかしそれでもなお読み進めて行きますと、次第に、それまで培ってきた異なった分野での知見や学識の全てと化合して、ようやく、満たされた容器の縁から滴が垂れるようにして自らの知見・見解と云えるものが、わずかながら生じてくるのではないかと思われるのです。

その視座から、さきに挙げた中東・東欧地域双方共に私は専門分野としたことがないため、先述のように、いまだに精確な理解に基づく自らの見解や知見を述べることは出来ませんが、それでも以前と比べますと、それぞれの背景は理解出来るようになってきたとも云えます。

そういえば、2015年7月に亡くなった親戚(伯父)は中東地域を専門の一つとしていましたが、日常的な会話で、それが話題に挙がったことは、あまりありませんでした。それでも、この親戚は好物であったお酒を飲むと時折、イスラエル在住の頃の思い出話をされ、それはそれで面白く興味深いものでした・・。

また、この親戚は「学者や研究者で酔っ払った時に自分の専門分野に関連した面白いことを云えるのはホンモノである可能性が高い」といった主旨のことも、まさにご自身が酔った状態の時に話されていましたが、これはその時には半ば眉唾モノとして聞いていましたが「これは案外本当であるのかもしれない・・」と最近思うようになりました。

さらに、この親戚は私が和歌山在住の折にも関西方面での学会出席の機会を利用して訪ねて来てくださり、その後、修士号を取得してご自宅まで報告に行きますと、近くの飲み屋に連れ出て祝ってくださり、そしてまた、その後もどうしたわけか機会がある毎に呼んでくださるようになりました。

そうした機会で大変印象に残っているのは2007年頃、主であった祖父母が亡くなり、無人となっていた伊豆の家に休日を利用して掃除や手入れに行っていたこの親戚から、庭掃除の手助けとして呼ばれて電車で訪問した時のことです。この時は丁度盛夏であり、日中は汗だくになり、あまり食事も摂らないままで雑草の刈取りや枝の伐採などを行い、その後夕方になり、近くのスーパーまで夕食や飲み物を買い出しに出かけ、戻ってきますと冷房をきかせた室内で夕食(ほぼ刺身)を摂りつつお酒を飲みながら、色々な話をされるのですが、あれは現在になって考えてみますと興味深く面白いものであり、そこから、当ブログ初期での対話形式記事の題材となっているものも複数あります。

また、そのように考えてみますと、私が当ブログ初期の頃に対話形式を多用したことは、それなりに理に適っており、それまでの、この親戚を含めた、さまざまな方々との対話の記憶がなければ、あるいは異言しますと、書籍などによる知識や見識、たとえそれらが身体化(インカーネーション)されていても、それだけでは私の場合、当ブログを8年以上継続することは出来なかったと云い得ます。

しかし面白いもので、ではまた初心に返って対話形式のブログ記事を作成してみようかと思うことは今のところありません、しかし今後またしばらく継続していますと、何かしらの内面での変化が生じてくるようにも思われますので、今しばらく、具体的には2100記事程度までは継続してみようと考えています。

*そして今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

一般社団法人大学支援機構


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ISBN978-4-263-46420-5

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