2024年1月7日日曜日

20240107 東洋経済新報社刊 北岡伸一・細谷雄一編著「新しい地政学」 pp.142‐144より抜粋

東洋経済新報社刊 北岡伸一・細谷雄一・田所昌幸・篠田英朗・熊谷奈緒子・託摩佳代・廣瀬陽子・遠藤貢・池内恵 編著「新しい地政学」
pp.142‐144より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4492444564
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4492444566

ロシアは、間接的な形でシリアやアフガニスタンの紛争にかかわる。また、近接地域であるジョージア(コーカサス地方)、およびウクライナなどで、より目立った紛争とのかかわりを見せてきた。1990年代にロシア政府が激しく戦ったチェチェン紛争の、ロシア領域内とは言え、コーカサス地方で発生した紛争であった。

 カスピ海および黒海の沿岸地域は、19世紀に南下政策をとるロシアが、海洋覇権を握るイギリスと、さまざまな対立を繰り広げた地域である。冷戦終焉後の世界では、21世紀になってから、反ロシアの行動をとったジョージアのサアカシュヴィリ政権に対して、ロシアは軍事衝突も辞さず、南オセチアとアブハジアに対して国家承認を行っており、ロシアにとってコーカサス地方への重要な足掛かりとなっている。

 2014年に勃発したウクライナ問題についても、ロシアの姿勢はジョージアに対するものと基本的に同じであった。ロシアにしてみれば、ウクライナやジョージアに対するものと基本的に同じであった。ロシアにしてみれば、ウクライナやジョージアなどの旧ソ連邦共和国は、少なくとも西側諸国に対する緩衝地帯となるべきだというのが、ある種の不文律なのだろう。2014年で起こった親西欧的な政治運動は、ロシアが決して看過できないものであった。そこでロシアは、クリミア半島を併合し、さらにはウクライナ南部を親ロシア勢力圏に置くことによって、キエフの新政権を囲い込むことを試みた。経済コストを甘受しても黒海におけるプレゼンスを確保するためにクリミアを死守したプーチン大統領の行動は、地政学的な着想に基づいたものであったと言える。

 このようなロシアを中心にユーラシア大陸の動きをとらえる視点は、マッキンダーによって、最も劇的に説明されていた。マッキンダ―は、歴史の「回転軸」を、ほとんどがロシアの領土と重なるユーラシア大陸の中央部の「ハートランド」に見出した。

 周知のように、マッキンダ―は、大陸の外周部分を形成する国家を「海洋国家(シー・パワー)」、大陸中央部にあるのが「陸上国家(ランド・パワー)」だと規定した。この地理的制約を受けた二つの大きな勢力の間のせめぎあいこそが、「グレート・ゲーム」を形成してきた。マッキンダーはハートランドの「陸上国家」は歴史法則的に拡張主義をとるという洞察を提示し、もともとは外洋に向かって勢力圏を拡大させる「海洋国家」群は、「陸上国家」の拡張に対抗して抑え込む政策をとっていかざるを得ないという洞察も示した。これはロシアの膨張主義を、ほぼ歴史法則的にとらえる視点につながる。

0 件のコメント:

コメントを投稿