2023年2月5日日曜日

20230205 株式会社幻冬舎刊 野口悠紀雄著「2040年の日本」 pp.279-282より抜粋

株式会社幻冬舎刊 野口悠紀雄著「2040年の日本」
pp.279-282より抜粋
ISBN-10 ‏ : ‎ 4344986830
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4344986831

日本の大学は工学部が強いと思われているが、強いのは、古いタイプの工学部だ。例えば、機械工学だと、世界100位以内の大学数は4校になる(東大20位、東工大43位、京大52位、東北大72位)。コンピューターサイエンスに比べて、数も多くなるし、順位も上がる。

 機械工学は、1980年代頃までの世界で重要だった学科だ。日本では、それが、いまでも工学部の中で大きな勢力になっていることが分かる。そして、これは、現実の日本産業で、自動車産業が強いことと対応している。 

 しかし、第6章でみたように、自動車産業は大きな技術革新に直面している。とりわけ重要なのは、自動運転が進展し、自動車においてもコンピューターサイエンスの重要性が増すことだ。そのような世界において、日本の自動車産業が対応できるかどうか、大いに疑問だ。

 日本が目指すべき目標として、コンピューターサイエンスの分野で世界ランキング上位100校に入る大学数の日本シェアを、日本のGDPシェア(5.9%)と同程度にすることが考えられる。そのためには、上位100校に入る日本の大学数を6校にする必要がある。いまの2校に比べて3倍にする必要がある。

 このようにして初めて、他国と同じ水準の研究・教育水準を、コンピューターサイエンスの分野で実現できるようになる。

*新しい資本主義には「大学改革」が不可欠

政府は、2022年6月、「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。岸田文雄首相が掲げる「人への投資」に重点を置き、3年間で4000億円を投じる。デジタルなど成長分野への労働移動を促すという。「新しい資本主義」は岸田政権の成長戦略の看板になる。

 しかし、大学教育が右に見たような状況では、人材面で世界水準になることは望めない。日本では、とりわけデジタル人材が不足していると言われるが、十分な教育を大学がしていなければ、人材が育つはずがない。大学ファンドの構想もあるが、金だけ出したところで、研究や教育が進むわけではない。

 また、巨額の補助金を出して、台湾の半導体メーカーTSMCの工場を熊本に誘致するが、ここで生産するのは、10年くらい前の技術を用いた半導体だ。こうした補助金をいくら出しても、最先端半導体には追い付かない。このように、いま考えられている方策では、展望は開けない。

 日本の産業を発展させるためには、基盤となる研究開発と専門的人材の育成を行う必要がある。日本が世界水準に追い付くには、大学での研究教育を根本から組み直すことが不可欠なのだ。

大学教育の状況は、未来を映し出す鏡だ。右に述べたような状況を根本的に改革しない限り、日本に未来は開けない。


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