2022年3月18日金曜日

20220318【架空の話】・其の87 【モザイクのピースとなるもの】【東京訪問篇⑦】

E先生は、背筋を伸ばし、背広の襟を正してから「じゃあ、行きましょうか。たしか三階が医院オフィスでしたね・・。」と私に云いつつ、さきほどの親子連れが下りてきたェレベータ―の方へと行ってボタンを押した。私もE先生に続いて、すぐにやってきたエレベーターに乗った。エレベーター内には、おそらくは患者さん向けであろうと思われる勉強会のポスターが貼ってあり、その講師は、接触嚥下機能のリハビリテーション界隈では最近時折名前を聞き、また、補綴系専門雑誌での連載記事などによって知られるようになりつつある、いわば新進気鋭の先生であり、その所属は、さきほど、お茶の水駅に停車した電車内からE先生が示したTMD大学であったが、そのポスターにある勉強会の開催場所は地域の公民館となっていた。そこから、おそらく、地域の歯科医師会の先生方が発案、交渉して開催にまで至った案件であるように思われたが、それでも、そうした勉強会に、さきの新進気鋭の先生が(私からすれば)気軽に参加出来るような地域の環境は、やはり、Kとは若干異なるように感じられた・・。

ともあれ、エレベーターは我々が目指す医院オフィスの三階に着いて、E先生を先頭にして下りると、すぐに下足スペースとなっており、そこでスリッパに履き替えるようになっていた。また、その下足スペース以外には、オフィスなどによくある、毛足が短いタイプの暗色カーペットが敷かれていた。くわえて、エレベーターを下りてすぐ目に入る壁には当日の来客予定者が記されたボードがあり、そこにはK医療専門職大学口腔保健工学科助教 E先生、K大学大学院歯科生体材料学研究室**様と、我々の名前も書かれており、少し嬉しくなったが、E先生の方は、落ち着いた様子にて周囲を見回して、近くにいた事務スタッフと思しき方に「すいません、本日院長先生と14:00に面談のお約束を頂いておりますK医療専門職大学のEおよびK大院の**と申しますが、院長先生に来訪の旨をお伝え頂けますでしょうか?」と声を掛けたところ「あっ、承知しました・・。では、スリッパに履き替えて頂いて少々お待ちください。」との返事があり、一端すぐにオフィス・ルームへ戻り、そこから10秒もしないうちに再び出てきて「じゃあ、先生方どうぞこちらへ、現在、CH院長は診療中ですが、もうしばらくすれば空くとのことでしたので、どうぞ院長室で、お掛けになってお待ちください。」と、我々は院長室に通された。院長室とは云っても、当医院の敷地自体、そこまで広くはないことから、それはE先生がいるK医専大 口腔保健工学科の研究室と、どこか似たような感じを受けた。

その様子は、院長用ともう一つ、同じタイプの机が横二つに並んでおり、そして、その背後には本棚が三つ置かれて、それらには歯科医療分野をはじめとして、医療を主とした法律分野、そして組織運営・マネジメント分野での著作などが並べられていた。また、それら書籍の間には、認定証や記念品のようなものが、おそらくはバランスを考慮して、いくつか置かれていた。

こうした院長室の様子を眺めていたE先生は、手に提げていた鞄から、おもむろに持参してきたと思しき歯科学会誌を開き、しばらく頁を繰っていると「おお、そうか!ここの医院のことだったんだな・・。」と一人で納得された様子であったことから、その開いた頁を覗きこむと、そこには、昨日私が訪問した**歯科大学の教授であり、補綴系某歯科医学会の会長もされていたKA先生による寄稿文が載せられていたが、その名前の横に記載の所属が「**歯科大学**学講座主任教授」ではなく、単に「CH歯科医院」となっていたが、E先生は、この机の並んだ状態から、このことを類推されたのだと思われるが、そう、その片方の机の上には、学会長を務めた際の記念品や、その他国際学会などの際に受けられたと思しき賞状や飾り楯などが置かれ、その様子は、かなり凝縮した教授室といった趣と評しても良く、また、そうした、いわば学会での重鎮を迎え入れている当医院の院長が更に少し気になったものの、E先生の方は、早々に、我々にお茶を持って来てくださった、さきとは違う事務スタッフの方に「すいません、あちらに(机上や本棚の間に置かれた楯や記念品を指差し)にお名前があるKA先生ですが、こちらは**歯科大学のKA教授のことでしょうか?」と訊ねられていた。すると、スタッフはすぐに理解されたようで「はい、KA先生は今春に**歯科大学を定年退職されて、その後は当医院で週に四日間、本日は生憎お休みですが、医員兼顧問として勤務して頂いております。」との返事であった。その様子から、おそらく、この質問はこれまでに何度か受けられていたように思われるが、たしかに同業者であれば、これは少しは気になるところであるとは云えよう・・。

さて、E先生は、元来、こうした場ではあまり話さない方ではあるものの、さきのような背景事情を知り、またこれまでに見た医院内の様子を見た感じからか、私の方に向かって小さな声で「うーん何だか、ここの院長先生は面白そうな感じがしてきましたね・・。」と話されたが、その表情は全く変えずに、また視線も、全然関係のない方向を向いていた。

さきにも少し触れたがE先生は、どちらかというと直情径行で率直な方ではあるものの、こうした場面においては、このようなすっ呆けた態度も出来るのだなと少し驚いたが、E先生はそれには気付きも、構いもしない様子にて、出されていたお茶に手をのばした。そして私もそれに倣い、お茶を飲もうとすると、はじめにE先生が声を掛けたスタッフの方がこちらの方へ小走りでやってきて「今、CH院長が空きましたので、すぐ準備をして、こちらに参りますので、もう少々お待ちください。」と我々に伝えて、すぐに去って行った。

E先生は背筋を伸ばし、若干肩を張って「はい、分かりました!」と元気よく返事をして、我々はまた待つことにした。時刻は14:07であった。

今回もまた、ここまで興味を持って読んで頂き、どうもありがとうございます。

順天堂大学保健医療学部


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ISBN978-4-263-46420-5

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