2021年7月19日月曜日

20210719【架空の話】・其の65 【モザイクのピースとなるもの】

医専大3年生の秋口から参加したK大学での実験は、その後、ある程度継続されて、とりあえず一段落ついたのは翌年の春が深まった頃であった。その間に、歯科用陶材の扱い方を習得するためにK市にて開業されているO先生のもとに何度か通い、また実験全体を指導されているS教授とは、親しく接する機会を比較的多く持つことが出来た。

以前にも書いたがS教授は関西人らしく気さくな人柄であり、実験機器などの納入業者の方々とも、ざっくばらんに会話をされることからか、業者の方々からのウケは極めてよく、アブストラクトの締切直前にて実験への追い込みが掛かった、かつてS教授門下の院生であった先生方数人が入れ代わり立ち代わりで研究室の走査型電子顕微鏡で試料観察をしていると、未だ水分が残った状態での試料に電子線を当て続けたためであるか、鏡筒内環境が悪くなり、電子銃のフィラメントが切れてしまうということが度々生じ、ついにストックのフィラメントが全滅してしまうということがあった。

そうした折りに、最後のフィラメントが切れてしまう場面にて電子顕微鏡を操作していたのは医専大での勤務を終え、実験のためK大を訪れていたE先生であった。時刻は既に23:30頃であったが困ったE先生は、とりあえず、その場でS教授に電話をかけた。

少し眠たそうな感じで電話口に出て来たS教授であったが、E先生から事情を聴くと「・・よっしゃ、わかった。明日の午前はペリオ(歯周病学研究室のこと)の**先生が電顕使うはずやからな・・それまでにはなんとか使えるようにするわい・・。」とのことであった。E先生はそれを聞いて「あるいはS教授がどこかでフィラメントの予備ストックを持っているのかもしれない・・。」と思ったそうだが、後で聞いたところによると、S教授はその深夜か、翌朝早くに福岡の九州全土を主管とする修理・サービスセンターに連絡を入れていたそうだ。そして、福岡から新たなフィラメントがK大学に届いたのは、その日の午前10時を少しだけ廻った頃であった。

この迅速さにはS教授御自身も大層驚かれたようで「どうやって福岡から来たのか?」と訊ねていたという。そして、担当者が自動車で来たことが分かると、教授室ロッカーの片隅から一升瓶を持って来て「これな、荷物になるかもしれへんが、ワシの郷里の「灘の生一本」や、帰って皆さんで飲んでください。そして、おかげさまで助かりましたと皆さんにお伝えください。」とのことであった。

以前にも述べたが、S教授御自身もかつて、そうした実験機器などを大学に納入する会社におられたことから、そこでのご苦労もよく分かっておられたのだと思われる。

今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!

日本赤十字看護大学 さいたま看護学部 



一般社団法人大学支援機構



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