2021年4月4日日曜日

20210403 株式会社光文社刊 岩田健太郎著「丁寧に考える新型コロナ」 pp.72‐74より抜粋

pp.72‐74より抜粋
ISBN-10 : 4334044999
ISBN-13 : 978-4334044992

日本人はなぜ予後が良いのか。この観点から、京都大学の山中伸弥先生は、こうした予後を変える要素を「ファクターX」と名付けました。これから突き止めたい謎のファクター、ということですが、ぼくはむしろ日本、日本人特有のファクターではなく、もっと一般化できる(うまくいっている国共通の)要素を希求するのが筋だと思っています。

 一つのヒントは、血栓です。

 すでに重症COVID-19感染で動脈、そして静脈の血栓が起きやすいことが知られています。これが予後に影響を与えている可能性もあります。

 海外で診療したことがある医者ならよく知っていることですが、欧米と日本では抗凝固薬のワーファリンの必要量が全然違います。アメリカだろ10㎎など多い量で投与するワーフェリンは、日本人だと体重の違いを考えてもずっと少ない量で十分な抗凝固ができます。

 ぼくは最初、このワーファリンの投与量の違いから、「日本人のほうが血栓ができにくいのでは」と思ったのですが、調べてみるとこれはワーファリンの代謝の人種間の違いで、直接的な抗凝固の違いではないようです。

 ただ、それとは別に、やはりアジア人は静脈血栓はできにくいようです。

 これはカリフォルニアでの人種間の疫学研究で示唆されたもので、日本人や中国人などの静脈血栓リスクは、他の人種・民族に比べると低いようです。

 動脈血栓、すなわち心筋梗塞や脳梗塞などですが、これは高血圧やいわゆるコレステロールの高い人(脂質異常)、肥満、男性、喫煙、糖尿病などがリスク因子です。COVID-19も、男性や肥満はリスク因子になっていますから、COVID-19の動脈血栓リスクがCOVID-19のリスク(あるいはその一部)になっている可能性があります。

 そして、こうした動脈の病気も、日本人などアジア人では欧米より少ない傾向にありますから、これも説明の一つになっている可能性はあります。禁煙指導や高血圧の治療、スタチンなどによる脂質異常の治療などで動脈血栓の病気は世界的に減っていますが、それ以上に日本の頻度は海外のそれより少ないのです。

 ぼくは血管の病気の専門化ではないので、このへんの推測は一般的な医者目線からの議論に過ぎません。

 が、血栓と人種の関係は、COVID-19の重症化リスクに寄与している可能性は高いと思っています。さらに決定的なデータが出ることを期待しています。

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