2020年11月9日月曜日

20201109【架空の話】・其の42

しばらく走ると、左前方の視界に海が見えて来た。天気は良く、わずかに日光が首都圏より強いように感じられたが、気温は決して高いというわけでもなく、それは首都圏であっても冬と云える陽気であった。

Bは運転しながら「ほら、もうすぐ桜島が見えてくるよ。」と右手でそちらの方を示した。たしかにそちらの方角に、桜島と思しき煙をあげる山が見えた。そして車はk市内に近づいて行くと、左側に海を挟んで見える桜島も徐々に大きくなっていった。

以前の編入試験の際は、そうしたことをあまり気に留める余裕はなかったが、今回は部屋探しとはいえ、そこまで緊張する用向きではないことから、周囲の景色も落ち着いて眺めることが出来、他方で不思議に感じられたのは、普段、東京で会っているBが、ここKで落着いて車を運転していることであり、これはBに云ってみようかとも思ったが、それはBにしてみれば、まさに逆の感想を持つのだろうと思われ、わざわざ口に出すことは控えておいた・・。

そうすると、おもむろにBがまた「お昼はまだ食べてないよね?」と訊ねてきた。私は「うん、まだだけれど、何処か良いお店をしっているの?」と訊ね返してみた。すると「ああ、今から行く不動産屋さんの近くに昔よく行っていたお好み焼き屋さんがあって、久しぶりにそこに行こうと思っているんだけれど、良いかな?」と再び訪ねてきた。私は「九州のKで「お好み焼き」とは、変っているけれどBが行きたいのなら、全く問題はないよ。」と返事をした。すると「分かった。じゃあ、とりあえず、そこに向かおう。」と、わずかにシート背もたれから背中を反らして運転時のストレッチのようなしぐさをした。

さきほどから車は市内に入ったようで、市電が走っているのも目に入るようになってきたが、不機嫌な感じはないものの、Bはあまり自分からは話そうとはしない様子であった。あるいはkの男は無口な人が多いと、以前聞いたことがあったが、Bも故郷に帰ると、そのようなスタンスに戻るのかもしれない・・。

そこから、しばらく走り、JR線沿いの道を走っているとBが「はら、そこのお店だよ。いやあ、良かった営業しているよ。」と話しかけてきたので、前方を見ると、たしかに昭和な感じが強い、味のある佇まいのお店が見えてきた。店舗の駐車場も隣接してあり、そこに乗って来た軽のバンを停め、ドアを開け店内に入ってみると、案の定、こうしたお店にありがちといえる「チリンチリン」というドアベルの音がした。店内は熱した鉄板があるだけに暖かく、また、昼食時に近い時間であったことから、店内は混み合うほどではないが賑わっており、我々が入った直ぐ後に、食事を終えた背広を着た3人組の男性が店から出て行った。
Bは、控えめに、少し忙しそうに動いている50代半ば頃と見える店主に軽く会釈をして、空いているテーブル席に着いた。卓上にはお好み焼き屋での定番のものが置かれ、またラミネート加工されたメニューが置いてあったが、Bは慣れたもので、それを見ずに私の方に渡し「こっちはもう決まっているから、選んでね。」とのことであった。私は数秒間メニューを眺めた後「じゃあ、Bと一緒ので注文するかな。」と云うと、Bはおもむろに手を挙げ「すいません、こっちは豚玉大にライスと味噌汁を二つでお願いします。」と口頭でオーダーをした。すると、さきの店主が「あいよ、豚玉大の定食二つ!」と返事をすると、その傍らで、薄い紺色のエプロンを着けたアルバイトと思しき女の子がメモを取ってから、こちらにグラスの水を運んで来て、手際よくテーブルの鉄板に火を入れてから戻って行った。Bは「ここは、昔よく来たのだけれど、なかなか美味しいんだ。それと、店主の息子さんが同い年で、たしか今は薬学部に通っていると聞いていたんだけれども・・。」と話し始めた。どういった繋がりか分からないが、こうした地元の附き合いがあるのは、何だか羨ましく、私が住んでいる首都圏の住宅地では、こうしたものは希薄ではなかろうかと思われた・・。

ともあれ、もう一つ驚いたのは、お好み焼きとご飯と味噌汁で定食になるということであり、こうした食文化は首都圏では、あまり見られないのではないかと思われた。しかし、それは食べられないといったほどの違和感ではなく「まあ、食文化が少し違うと、こうしたこともあるのだろうな。」といった程度のことであったと云える。

店の床は基本コンクリートの打ちっぱなしであり、一部小上がりの座敷席もあったが、そちらは既に全て占拠されていた。店内にいる面々は、半分が周辺のサラリーマン、残り半分がこれまた周辺の学生さんであるように思われたが、こうした地元密着型の昭和感の強い飲食店に女子学生も当り前のように出入りしていることは、何だかとても新鮮な感じを受け、また、以前に観た映画「がんばっていきまっしょい」内の松山市のうどん屋さんで主人公と友人が高校入学後に再会したシーンを思い出させた。

さて、そうこうしているうちに、豚玉大がこちらに運ばれてくるのが見えてきたが、ここでは、大体焼き上がったものを、鉄板上で温めつつ食べるスタイルらしく、まあ、それが失敗もなく、安定しているのだと思われた。お店の方々は少し大変であるかもしれないが・・。

そして、続けて大きめの茶碗に盛られたご飯と味噌汁が運ばれてきたが、味噌汁も何だか具だくさんであり、それだけで一つのおかずのように感じられた・・。

こうして定食一人前が目の前に揃ってみると、その量には少し驚かされた。しかし、見ていても量は減らず、ともかく食べ始めてみると、意外と入るものであり、お好み焼きに麺が入っていたら、違っていたかもしれないが、とりあえずは完食することが出来た。またBの方も同様で、完食後も落ち着いた様子で、店内設置のテレビで番組を観たり、スマホを触ったりしていた。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!




ISBN978-4-263-46420-5

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