2015年7月15日水曜日

ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン著 丘沢静也訳 青土社刊 「反哲学的断章―文化と価値」pp.65-66より抜粋

「哲学ってぜんぜん進歩しないんですね」とか、「哲学って、その昔、ギリシャ人が頭を悩ませていたのと同じ問題で、今も頭を悩ませてるんでしょう」とか。
何度も何度も聞かされてきたセリフである。
ところで、そういうセリフを口にする人は、なぜそうなのか、理由がわかっていないのだ。その理由とは、われわれの言語が相変わらず同じであり続けているからであり、われわれの言語が何度も何度もわれわれを同じ問題へと誘惑するからである。
「sein(存在する、・・・である)」という動詞は「食べる」とか「飲む」と似た働きをするようだが、この「存在する、・・である」という動詞がある限り、また「同一の」とか「真の」とか「偽の」とか「可能な」という形容詞がある限り、また、時間の流れとか、空間のひろがりとかが語られるかぎり・・・、何度も何度も、同じような謎めいた困難にぶつかることになるだろう。そして、どんな説明によっても解決できない問題を、見つめることになるだろう。ちなみに、こういう堂々めぐりは、この世ならざるものへの望みを満足させてくれる。というのも、「人間の知性の限界」を見ているのだと思うことによって、当然、限界のむこうまで見えているのだと思うからである。
「哲学者たちは、プラトンが近づいた以上には「実在」の意味に近づいてはいない・・。」という英語を読む。
なんと奇妙な事態だろう。
それでは、プラトンがずいぶん遠くまで行けた、ということになってしまう。
あるいは、私たちがプラトンより遠くに行けなかった、ということになってしまう。
どちらにしても、なんと奇妙な話だろう。
プラトンがそんなに利口だったから、ということだろうか。
MS111 133:24.8.1931
反哲学的断章―文化と価値
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン
ISBN-10: 4791757327
ISBN-13: 978-4791757329







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