ともあれ、それから25年が経ったことになります。近年では、あまりテレビを観ない生活も一般的なものになってきたようですが、当時はまだ、そこまで一般的ではなかったように記憶しています。
その後、和歌山市の大学院に進んでからも、テレビを観ない生活は続きました。ただ、ここでは周囲にもテレビを視聴しない方々が割合多くいたように記憶しています。また、私自身も、当時は比較的多くの書籍を読んでいたということもあり、あらためてテレビに注意が向くことはありませんでした。また、2005年頃では、インターネットから、さまざまな情報を入手出来るようになっており、情報を得るために、まずテレビをつけるという時代でもなくなりつつあったと記憶しています。
それ以降、インターネットを基軸とした動画配信サービスなどが盛んになり、映像を楽しむ方法も更に多様になりました。このように、自分の生活習慣を振り返るなかにも、時代の流れや変化が感じられます。
思い返してみますと、南紀白浜に転勤した2001年は、丁度、M-1グランプリが始まった年でした。関西で暮らし始めた私は、日常の会話の勢いや関西弁に圧倒され、面食らうことも少なからずありました。ただ、M-1グランプリや当時話題のお笑い、エヴァンゲリオンやK-1などには興味が向かわず、余暇としては、読書やDVDでの映画鑑賞、そしてバス釣りなどを楽しんでいました。
また、当時は、自分自身が興味深いと思うことからでなければ、何も始まらないと、本気で考えだした時期であったようにも思われます。それが年齢による変化であったのか、時折頂く文系師匠からのお便りによるものであったのか、あるいは南紀の自然環境のなかで、読書が更に楽しく感じられるようになったからであるのか。現在となっては、精確には分かりません。ただ、南紀の自然環境は、それまで私が経験して知っていたものとは随分と異なっていました。南方的な生命力が横溢する植生、日々の生活のなかに普通にある潮の香り、そして季節ごとに濃厚に感じられる樹々や草花や土の薫り。そうした環境に身を置いて暮らしていますと、気分だけでなく、ものの感じ方や考え方にも、何かしら変化が生じるのではないかと思われます。自然との接触が、気分やストレス反応に良い影響を与えるという研究もあります。もちろん、それによって自分の考えや進路の変化まで説明出来るわけではありませんが、自然のなかで気持ちが徐々に変化してゆき、以前からの自分の願望にあらためて向き合うことが出来るようになったのではないかとも思われます。
その頃から、以前より進みたいと考えていた人文系大学院のことが、徐々に意識されるようになりました。そして、興味深いことに、進学先についての考え方も変わっていきました。
以前の私であれば、都内・首都圏の大学院のみを検討していました。しかし、南紀白浜で暮らすことで、自分が勝手に知っているつもりでいた日本について、実はほとんど知らなかったことを痛感させられました。そして、そうした日本を自分なりに調べ、研究するのであれば、この地域、あるいは西日本の大学院で学ぶ方が良いのかもしれないと考えるようになりました。南紀白浜での暮らしは、大学院に進むことへの思いを再び強めるとともに、進学先の選択にも変化をもたらしたと云えます。
こうして振り返ってみますと、テレビを観なくなったことだけが、その後の歩みを決めたわけではなく、生活の様相や読書の深化、そして南紀の自然環境などが重なり合うなかで、周囲で流行しているものよりも、自分自身が興味を持てるものの方へと、徐々に関心を向けるようになったのだと云えます。
その後、私は今に至るまで、決して幸福であると云えない一方、あまり類型的ではない経路をたどり、本当に、現在まで、どうにか生きてこられたのだと云えます。それでも、当時の興味・関心に従い進んできたことを振り返ってみますと、これはこれで悪いものではなかったとも思われます。
あるいは、これまでの経験が、この先になり、何らかの意味を持つようになり、今後は更に良くなっていくのではないかと思うこともありますが、さて、どうなるものでしょうか。そしてまた、今回も、ここまでお読みいただき、どうもありがとうございます。
ISBN978-4-263-46420-5
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