2020年12月3日木曜日

20201202【架空の話】・其の51

こうしたことはBには云わず、黙って食べた。ともあれ、あまりそればかりを偏重するのもどうかと思われるが、やはり、地域の食文化とは大変面白いものであると感じられた。

私が食べ終わる頃には既にBは食べ終えており、隣で二杯目のお茶を啜っていた。そして私も食後のお茶を飲みつつ、残っていた大根の浅漬けを口直しとして齧っていると、周囲の会社が昼休憩に入ったのか、店の出入り口が慌ただしくなってきた。そこで、それぞれ会計を済ませて店から出て、再びT文館商店街の方に向かって歩きつつBは「どう、ここもTと比べて悪くないでしょ。」と訊ねてきた。すると丁度、すぐそこに以前訪問したTが見えてきた。私はそれを指さしつつ「ああ、この時間だとTの方も混んでいるようだね。まあ、それぞれ味は多少違うけれども、たしかに両方とも美味しかったよ。」と返事をし、さらに「それに、これで本来のKラーメンというものが少し分かったような気がするよ。ありがとう。」と付け加えた。

Bはそれに対して返事をしなかった。そして、アーケードの商店街をさらに少し歩いた頃「じゃあ、そこの*トールでコーヒーでも飲もうか?」と、おもむろにまた訊ねてきた。

丁度そこは、さきほど参拝したT国神社の参道沿いであり、また、交差点の向いには首都圏にもある大型書店があった。私はBの問いに頷き、店内に入ると、一階部分はあまり広くなく既に満員であった。そこで二階に上がると、こちらは奥に仕切られた喫煙可能スペースがあり、手前側の二人掛けのテーブル席が空いていたため、財布のみ取りだして荷物を置き、Bに「じゃ、買ってくるから、普通のブレンドでいい?」と訊ねると、少し間を置いて「うん、ありがとう。それでお願いします。」との返事であった。この*トールもさきの書店同様、首都圏にも多く店舗があり、先日指導教員と入ったのも、ここのチェーン店であったことが思い出された。

やがて二つのコーヒーカップが載ったトレーを階段をのぼり持って行くとBはスマホを操作していた。私の姿に気が付くと、スマホをポケットに戻して「どうもありがとう。」と座りつつも少し姿勢を正して云った。私はトレーをテーブル上に置いてから双方がコーヒーカップを取り易いように少しその位置を動かした。

寒い時期の食後のホットコーヒーは安定して美味しいものであり、そこにはあまり地域性のようなものはないことを悟った。ともあれ、そこでも学食や大学近くの喫茶店と同様、Bと進路のことや、洋服や映画のハナシをしたが、そうしているうちに周囲に座っていた他の客がこちらを少し気にしている風に感じられた。また、その後もこうしたことはこれまでに何度かあったが、おそらくそれは異なったイントネーションで話していること自体が少し気になったのだと思われる。

いつの間にか時刻は14:00過ぎとなり、また、二杯目のコーヒーも残り半分くらいになっていた。Bは何やら頃合を認識したのか「お、こんな時間だ。それじゃあ15:00少し前にここを出て16:00頃に空港に着くようにしようか。」と云い、それまでの話題であったマーティン・スコセッシ監督の映画「タクシードライバー」でベトナム帰還兵という設定の主人公トラビスが着用していたタンカース・ジャケットは、主に1940年代、第二次世界大戦時に配給された型のものだと聞いているが、映画の舞台となっている1970年代頃の軍隊でも支給されていたのか?」に戻り、結局は「あれは現行の市販用モデルに軍隊時代のワッペンを着けたのではないか?」といった結論に落ち着いた・・。

私からの影響であろうか、Bは映画を観る際、そうしたことに着目する傾向があり、また我が国の所謂アメカジファッションにおいても、そうしたアイテムが結構人気があり、レプリカなどが少なからず販売されている。そういえば、以前Wに訪問した際、兄が着用していたのもスティーブン・スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ」シリーズにて主人公が着ていたレザージャケットのレプリカであった。

そのようなことを他方で考えつつなおも会話を続けていると、時刻は15:00まで残り10分程度となっていた。そこで私が「じゃあ、そろそろ行こうか?」と会話の節目に訊ねてみると、Bはスマホで時刻を確認し「そうだね。じゃあ行こうか。あ、その前にトイレ行ってくる。」と云って席を立った。私はBの背中に向かい「トレーは片付けておくから。そのままおりてきて。」と云うと後ろ向きのまま、右手を少し上げて返事をした。

やがてまた外に出てみると、寒さが少し堪えたが、ホテル駐車場に戻り、そこから空港に向けて発った。今度も市街を抜けて、海際の道を走り、そして高速道路に乗って空港に向かったが、そこでも話題は、さきと同様に映画に登場する気になる衣装についてであった。やがて周囲に緑が多くなって、そしてまた陽も少し翳ってきた頃に空港に着いた。16:00少し前であり、その後に搭乗手続きなどを行うため適当な時刻であったと云える。

Bは「じゃあ、またこっち来るがあったら連絡して、あと歯科医院に行ったらCさんとD先生によろしく伝えておいて」と自分の歯を指して云った。私は「うん、分かったよ。今回も色々どうもありがとう。また修了式で会うと思うから、その時にまた会おう。」と返事をすると「あれ、云ってなかったっけ・・。指導教員にはもうご挨拶を済ませていて、あと修了証は後日、学生課から送付してくれるようにお願いしてあるから、もしも年度内で東京に行くとすれば、Cさんに会いに行く時だろうな・・。」との返事が来た。

なるほど、たとえLCCを使ったとしても、Kから東京行くのは、色々と面倒があるため、そのようにしたのだと思われ、それに対してはあまり突っ込むことは出来なかった。ともあれ、今度は私の方がKに移り住み、そして近いうちにBと再会することが予測されるため、そこでは特に感傷のようなものはなかった。

こうしてBと空港で別れ、搭乗手続きを済ませて搭乗し、K空港を離陸した私の乗る飛行機が成田空港に到着したのは19:00頃であった。到着口から半ば屋外の鉄道駅までの連絡通路を歩いていると、既に陽も落ちているということもあってか、Kよりも強く寒さが身に沁みてきた。

*今回もまた、ここまで読んで頂き、どうもありがとうございます!



ISBN978-4-263-46420-5

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2020年11月30日月曜日

20201130 岩波書店刊 宮地正人著「幕末維新変革史」上巻 pp.392-393より抜粋

岩波書店刊 宮地正人著「幕末維新変革史」上巻

pp.392-393より抜粋

ISBN-10 : 4006003919
ISBN-13 : 978-4006003913

 長州藩過激派は江戸において尊王攘夷運動を加速すべく、11月13日、横浜近郊の金沢において外人襲撃計画を企てた。薩藩は生麦にて攘夷の実を挙げた、ととらえていたからである。しかしながら警備が厳重のため実行は断念された。この時は、後述の別勅使(大原勅使と区別するための表現)で長州過激派を熟知している三条実美・姉小路公知両名が滞府しており、右の挙を阻止するため、勅命伝達直前に「横浜斬夷等の挙」ありては、一時に事の敗れと相成る故、「折角の大志暫時猶予」すべしとの書状を急派している。宛先は「久坂殿始」である。また世子毛利定広も行動阻止のため馬で途中まで出向く事態になった。

 この際のメンバーは、久坂・高杉・井上馨・品川弥二郎・大和弥八郎・長嶺内蔵太・寺島忠三郎・有吉熊次郎・白井小助・赤根武人・山尾庸三の11名である。

 この挙の直後、彼らは「百折不撓、夷狄を掃除し、上は叡慮を貫き、下は君意を徹する外他念無之、国家の御楯となるべき覚悟肝要たり」と誓い、御楯組を結成、その後山田顕義・吉田稔麿・野村靖らも加わり、総計25名となった。

 御楯組の面々は、将軍家茂が奉勅攘夷を誓い、両勅使が12月7日江戸を出立した後の12月12日、品川御殿山の英国公使館を焼打ちし、その上で政局の中心地となる京都に上るのである。

202011129【架空の話】・其の50

会計を済ませた丁度のところで携帯電話が鳴った。時刻は既に11:00をまわっており、おそらくはBからであろうと思い確認してみると、果たしてそれはBからであった。

Bは「今そちらに向かっていて信号待ちだけれども、あと10分くらいでホテルに着くから、それじゃ。」と云い、それに私が返事をしようとすると既に通話は切れていた。ともあれ、そこから再度ホテルに戻り、フロントに一声かけてから隣接する駐車場に行き、Bの着くのを待っていると、駐車場スタッフの方に「何番に駐車ですか?」と訊ねられたため事情を説明すると「ああ、聞いてますよ。」と云いメモを見てから確認するように頷かれた。

陽はさしているとはいえ、この時季は動かないでいるとすぐに寒くなってくる。もう少し暖かい服装で来るべきであったかななどと思っていると、昨日見た白の軽バンが通りの向こうから見えてきた。私が少し通りに出てこちらに手招きすると、気が付いたようでスムーズにホテル駐車場の方に入って来た。そして駐車の後、整理券を受け取り、ホテルロビーを通ってT文館の方に向かった。

Bは「いやあ、思ったより早く着いたよ。それで、今日の昼は何を食べようか?」と聞いてきた。私は今朝、専門職大学に行って、ファーストフード店で少し重めの朝食を摂ったことを手短に伝えた。」すると、しばらく黙ってから「そうか、ええと、前こっちに来た時は、どこのラーメン屋さんで食べたの?」と重ねて聞いたきたため「ああ、Y形屋っていうデパートのすぐ近くにある、たしかTって云うお店だったかな。」と返事をすると、すぐに「ああ、あそこは老舗だね。じゃあ、そのすぐ近くにもう一軒Fっていうラーメン屋さんがあって、こっちも美味しいし、普通のラーメンなら、そこまで量も多くないから、そこにしようか?」と聞いてきた。

特に異論はないためすかさず同意すると「じゃ、そこに行こうか。」と云い、そのまま歩き続けた。そして、さきのお茶屋さんも過ぎ、さらに市電が曲がるところもそのままアーケードに沿って歩き、一つ目の電停とも接続している横断歩道を渡り、そこからさらに市電沿いに歩いていると、その横にはBが内定した銀行のかなり大きな支店か本店営業部らしい趣の建物があったため、歩きながら聞いてみると「ああ、本店ではないかれど、ここには営業統括部があるんだ。それと、近いうちにこちらに本店が移転するとも聞いているよ。」とのことであった。

やがてその建物を過ぎたすぐの角を右側に曲がりしばらく行くと、以前のラーメン屋さんとは感じが異なるが、これまた味のある佇まいのお店が見えて来た。開店後あまり時間は経っていないようだが、店内にはお客さんが少なからずいて、見たところ、こちらも地元客が多いように思われた。暖簾をくぐり店内に入りメニューを見てみると「ラーメン専門」と謳っているだけありラーメンと大盛とライスのみの構成であった。

Bと一緒にラーメンを注文すると、すぐに暖かいお茶と、かなりの量と云える大根の浅漬けが出て来た。この浅漬けの量はさすがに驚いたが、Bにそれを聞いたところ「まあ二人分だからね。」とのことであってが、これには私の質問の意図が上手く伝わっていないように感じられ少し歯がゆかった・・。やがてラーメンがやってきたが、その見た目はさきのTと似ているように感じられた。そして味の方も系統としては似ているが、こちらの方がスープが澄んではいるものの、その味にパンチがあり、少し脂が勝っているように感じられた。また全体的にはTと甲乙つけがたいくらいに美味しく、さらに大きな発見であったのは、同じ九州といっても、Kのラーメンは、北部の福岡や久留米や熊本のそれと比べ、スープが澄んで淡く、あまり強い「豚骨」感がないということであった。

これと近いものとして思いつくのは「沖縄そば」と云える。しかし、それとは麺が大きく異なり、共通する要素と云えるのは「澄んで淡泊な豚骨スープと」いったところであろうか・・。

また、そのようなことを考えていて、不図思い出したのは、以前に台湾からの留学生と都内町場にある中華料理店に行った時に漢族系本省人と云っていた彼が「日本の中華料理は美味しいけれども全部しょっぱい、塩辛いね。」と云っていたことである・・。考えてみると沖縄はKの先であり、さらに台湾は沖縄の先とも云えることから、それらには通底、共通する味覚に対する嗜好のようなものがあるのかもしれない・・。そして、さらには昨日Bが云っていた鳥刺しなどの生食文化についての見解とも関係があるのではないかと思われた・・。

こうしたことはBには云わず、黙って食べたが、あまりそればかりに傾き過ぎるのもどうかと思われるが、やはり、地域の食文化は大変面白いものであると感じられた。

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2020年11月29日日曜日

20201128 【架空の話】を49話まで続けて思ったこと・状況の整理

 去る4月末から断続的にではあれ、現在に至るまで書き続けている【架空の話】もおかげさまで49話まで書き進めることが出来ました。しかしながら、そのモデルとなっている自身の経験全てから考えてみますと、これまでの文量は、その全体の10%にも至っておりません。それ故、今後、当【架空の話】を書き進めるに当たり、その書き進め方については、今しばらく検討する必要があるのではないかと考えています。

具体的には、物語の進行の速度であり、これまで夏頃から物語が始まり、そして現在翌年の1月末頃を描いていることから、期間的には半年程度を49回に分け、さらにその焦点を当てている時期は編入試験とWへの旅行およびその後の時期であり、出来れば、今後2話程後にはKでの新生活が始まるようにしたいと考えてますが、こういったものを書いていて面白いと感じることは、書いているうちに、その物語の筋を即興にて変えることがあるのですが、その筋にて書いていると、再度興に乗り、ある時期・場所の描写を念入りに書いてしまうことであり、これが続くと当初の漠然としたものであれ、予定と噛み合うことが困難になり、本格的に「脱線」していくことになります。たしかにそれはそれで、その時書いていて面白いとは感じているのですが、他方でやはり、さきに述べた「全体の筋・予定」も同様に重要であると思われることから、今回このような文章を作成して、自身としても状況の整理を促し、また今後の物語進行の方向性を大まかなものであれ、読んで頂いている皆様に対し提示することにより、その路線にて書き進める必要性が生じると思われますので、これはこれで意味があると自身としては考える次第です。

また、これまでの経緯からしますと、蛇足気味にはなりますが、当【架空の話】をしばらく継続して作成し、その他については書籍からの抜粋引用文を記事としていますと、他のこれまでに作成してきたような記事を書く”コツ”のようなものを忘れてしまったような感覚を覚えるのです。そして、そうした状態にて作成することが出来る、自身オリジナルの記事とは、こうした【架空の話】にまつわるものであり、自身としても多少驚くところです。

とはいえ、それ以外にて記事作成が出来ないというわけではなく、おそらく自身内部の異なる記憶の相には、これまである程度の期間、継続的に作成してきた雑文記事のような文章を作成するための「記憶の相」が存在するはずであると思われ、また感じられることから、もし、それを強く望むのであれば、しばらく時間を必要とするとは思われますが、再度、そうした雑文系の記事を書き続けることは出来るのではないかと思われます・・。あるいは、そうしたところは、もっと疑問視すべきところであるのかもしれませんが・・。

ともあれ、現在の私はそうした状況であり、そして次回からは【架空の話】の先を作成して行こうと考えています。

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2020年11月26日木曜日

202011126【架空の話】・其の49

その後、ホテルに戻ったのは9:50頃であり、無事にチェックアウトも終えた。とはいえ、Bが着くまではまだ少し時間があることから、腹ごなしも兼ねて、また少しT文館を散策しようと思い立った。

そこで、財布など貴重品以外の荷物をフロントに預け、再度街に出てみると、週末ということもあり、人通りは朝よりも大分増えていた。してみると、さきほど覗いた専門職大学は国家試験が集中する期間ということもあってか、週末にも直前の講義を行っていたのだろう・・。

ともあれ、私の方は再びT文館の電停を挟む交差点から、今度は名君と謳われた旧藩主を祀った神社の方に出向いてみた。この神社は特に古い由緒を持つわけではないが、社叢はキレイに整備され、また社殿は時代を感じさせるものではないものの「丁寧且つ重厚に造られた」といった感じを受けた。こうしたところは、以前兄と参拝したW市に鎮座する国造家が代々神主を務めるあの神社とは、異なった印象を受けたが、こちらの方が南国ということもあってか、大胆な豪壮さが目立ち、対してW市の神社は、社叢などでも出来るだけ「自然のまま」を大事にした、詫び・寂びにも通じる感覚があるように思われた。

あるいは、こうしたところにも地域性は発露するのであろうかと思いつつ、これからお世話になるKの神社に参拝をして今度はその表参道を通り、再びT文館に戻ることにした。表参道とは云っても東京のそれとは感じが異なり、その神社側奥の景色には、Wとはまた異なった様相の山なみが控えていた。また参道左手には大きな公園があり、既に家族連れなどで賑わいつつあったが、そこを過ぎて交差点を渡ると、再びアーケード街に入った。このあたりは映画館やアウトドア・ショップ、また比較的大きな遊戯施設などが並んでおり、街並みは参道ということもあってかキレイに整備されていた。そして、そのあたりを過ぎて再び市電が走る通りに出るあたりに、味のある構えのお店が目に入ってきた。なおもお店に近づくと、日本茶の薫りがしてきて、また、店内には一休み出来るように野点の茶会に用いる緋毛氈をかけた床几台も置かれていた。日本茶のお店であったが、その薫りは首都圏でのそれと若干異なるように感じられたことから、店内の方を少し気にしつつ歩いていると、店内から「どうぞ一服されてみてはいかがでしょうか?」と声を掛けられた。おそらく50代くらいの、これまた元気な感じの女性であったが、促されるまま店内に入ると店内に置いてあるお茶の説明をしてくれ、さらに小さな丼のような形の煎茶茶碗に注がれたお茶を出して頂いた。「あの歌」でも分かるとおり、この時期はお茶の旬の季節ではないが、ここ南国ともいえるKでは、もうじき四月初旬には新茶が出回るので、その時も是非飲んでみて欲しいとのことであった。ともあれ、そこで飲んだお茶は淹れ方も良かったのだろうが、これまでに飲んだお茶の中で最も味や薫りが濃厚に感じられた。お茶も作物・植物であることから蜜柑などの柑橘と同様、産地によって味が異なるということが、ここで初めて体感として理解できた。とはいえ、お店の方はあまりそうしたことに頓着しない様子で、商品の説明を続けられていたが、その中でスティック状の小袋に入った粉末状のお茶が手軽で良さそうであると思い。「すいません、あのスティック状の袋に入ったお茶を少し頂けますか?」と訊ねてみると、気安く応じて頂いた。その味や薫りもさきと同様であり、尚且つ手軽であると思われたことから、実家やD先生や指導教員へのお土産に良いと思い10本入りのものを三つ購入させて頂いた。

昨日の鶏の肝刺と云い、このお茶と云い、やはり異なった地域には、異なった種類の美味しさがあるものだと実感しつつ、会計を済ませた丁度のところで携帯電話が鳴った。時刻は既に11:00をまわっており、おそらくはBからであろうと確認すると、果たしてそれはBからであった。

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2020年11月25日水曜日

202011125【架空の話】・其の48

ちなみにE先生は、年齢がこの時29歳であり、比較的私とも近く、その後、色々とお世話になることも多かった。

その後、ブラブラとT文館を一巡し、途中でペットボトルの暖かいお茶も購入して、ホテルに帰着したのは22:30頃であった。部屋に戻ると、テレビを点けてから、バスタブにお湯を溜めつつ、ベッドに座っていると、僅かに外の繁華街の喧騒が聞こえてきたが、それもまた何故だか、異郷にいることを感じさせた。

やがて、バスタブに湯も溜まり、決して広くはないトイレと一体になったユニットバス内で器用にシャワーで身体を流してから、バスタブに浸かった。気のせいであるかもしれないが、どうも水が首都圏よりも柔らかいように感じられた。しかし、その後、幾つかの地域にて風呂に浸かる経験を経てきたが、この時の感覚は間違いとは思えず、たとえ水道水であろうと、地域による相違はあるのではないかと、現在に至るまで考えている。

さて、風呂から上がり少しのぼせ気味の中、テレビをボーっと観ていると、時刻は24:00近くになっていた。翌日は特に早起きする必要はないものの、少し早く出て、またT文館を歩いてみようと思ったが、そこで不図、ホテルのチェック・アウト時刻が10:00であり、また明日Bがやって来るのが昼前であることを思い出した。そして、Bがやってくる頃には既に宿泊客ではなくなっている私に駐車場を貸してもらえるかが心配になってきた・・。そこで、フロントに内線電話をかけようとしたが、こうしたことは面と向かって言った方が良いと思い、タオルで頭をもう一度拭いてから、客室備え付けの寝間着を着てフロントに向かった。冬季だけに室外は多少冷えたが、我慢できないほどではなかった。やがてフロント前に着くと、若い男性が何やらPCの入力作業のようなことを行っていてが、私の姿を認めると「何か御用でしょうか?」と訊ねてきた。そこで「明日、昼頃から14:00過ぎあたりまで駐車場を使わせてもらうことは可能か?」という主旨の質問をすると、すぐに一端バック・ヤードに下がり、そしたまたすぐに戻ってきてPCの画面を確認してから「ええ、明日の昼は大きな宴会も入っておりませんし、また、自動車でお越しになる早めのチェック・イン予定の方はいらっしゃいませんので、大丈夫です。ええと、何処のお部屋にお泊りでしょうか?」と訊ねてきたことから「はい、7階の7**号室の**と申します。」と返事をすると、ペンで何かを記入して「はい、承知しました。では、その旨、明日勤務の者にも申し伝えておきます。」とのことで、無事に駐車場を使用させて貰えることになった。

安心して、部屋に戻るとルームキーを室内に置いたまま出て来たことに気が付き、閉ざされたオート・ロックのドアの前で少し困惑したが、ここは速やかに再度フロントに行くべきと判断し、またフロントに戻った。フロントのスタッフの方も前と一緒であり、またこちらを認めると何か言い出しそうであったが、私が先に「すいません・・。ルームキーを室内に置いたままで出てきてしまいまして・・」と頭を掻きながら話しかけると「ああ、そうですか、では今ご一緒に伺います。7**号室の**様ですね。」と云い、バック・ヤードに一声掛けてから、しゃがんでキーケースの中にあると思しきマスター・キーを手に持ち、エレベーターに乗り解錠のために同行してくれた。

そこで少し雑談をしたが、こうしたことは度々生じるそうで、特に恥ずかしいことではないとのことであったが、しかし、それでもやはり恥ずかしいには違いないだろう・・。

そうして、どうにか再び室内で落ち着くことが出来たのは、24:00過ぎであり、早々に洗面や歯磨きなどをしてから、就寝した。この日も色々と初めての経験があったことから多少の気疲れもあったようで、すぐに寝付くことが出来た。

翌朝目を覚ましたのは7:30頃であり、特に用事もないことからテレビを点け、そのままベッドの中から観ていると、徐々に目が覚めてきて、ベッドから出て洗面、歯磨きなどを行い、着替えてから概ね荷物をまとめ終えたのが、大体8:15頃であった。チェック・アウトまではまだ大分時間があることから、どこかへ行ってみようと考えたところ、昨夜、偶然会った面接官(E先生)のことから思い出したのか、もう一度大学を見に行こうと思い付いた。そうと決めると動きは速やかになり、外出の準備を済ませて外に出た。今度はルーム・キーは持参したままである。

電停までは徒歩5分もかからずに、やがて来た中央駅方面への市電に乗り、目指す市民病院前駅に着いたのは8:50過ぎであり、思いのほかに早く着いた。そこから大学まではまた徒歩で1、2分程度であり、大学の前に立つと、どうやらこの時期は医療系資格の国家試験が集中しているようで、何だか全体にピリピリした雰囲気が漂っていた。こうした雰囲気は人文社会科学系の大学キャンパスではあまり感じられないものであり、これに関しては今に至るまで、どうも慣れることが出来ない・・。

ともあれ、そうした事情から、折角訪れたキャンパスではあるが、何やら邪魔をするようで悪いと感じ、また時刻も悪くないことから、編入試験の際も利用したファーストフード店に入ると、この時も以前と同様少なくない学生さんと思しき方々がいたが、混雑とまでは行かず、すぐに席も確保出来た。そして、ソーセージエッグマフィンセットを注文し、比較的時間をかけて食べ、食後も一休みしていると、時刻は9:30に近くなっていたことから、ホテルに戻るべく立ち上がり、そして「今日の昼食はあまり食べられないな・・」と不図思った。その後、ホテルに着いたのは9:50頃であり、無事にチェックアウトも終えた。とはいえ、Bが着くまではまだ少し時間があることから、腹ごなしも兼ねて、また少しT文館を散策しようと思い立った。

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20201125 株式会社講談社刊 村上春樹著「羊をめぐる冒険」上巻pp.19-22より抜粋

株式会社講談社刊 村上春樹著「羊をめぐる冒険」上巻pp.19-22より抜粋

ISBN-10 : 4062749122
ISBN-13 : 978-406274912

 1970年11月25日のあの奇妙な午後を、僕は今でもはっきりと覚えている。強い雨に叩き落された銀杏の葉が、雑木林にはさまれた小径を干上がった川のように黄色く染めていた。僕と彼女はポケットに両手をつっこんだまま、そんな道をぐるぐると歩きまわった。落ち葉を踏む二人のの靴音と鋭い鳥の声の他に何もなかった。

「あなたはいったい何を抱え込んでいるの?」と彼女が突然僕に訊ねた。

「たいしたことじゃないよ」と僕は言った。

彼女は少し先に進んでから道ばたに腰を下し、煙草をふかした。僕もその隣りに並んで腰を下した。

「いつも嫌な夢を見るの?」

「よく嫌な夢を見るよ。大抵は自動販売機の釣り銭が出てこない夢だけどね」

彼女は笑って僕の膝に手のひらを置き、それからひっこめた。

「きっとあまりしゃべりたくないのね?」

「きっとうまくしゃべれないことなんだ」

彼女は半分吸った煙草を地面に捨てて、丁寧に踏み消した。「本当にしゃべりたいことは、うまくしゃべれないものなのね。そう思わない。」

「わからないな」と僕は言った。

ばたばたという音を立てて地面から二羽の鳥がとびたち、雲ひとつない空に吸い込まれるように消えていった。我々はしばらく鳥の消えたあたりを黙って眺めていた。それから彼女は枯れた小枝で地面にわけのわからない図形を幾つか描いた。

「あなたと一緒に寝ていると、時々とても悲しくなっちゃうの」

「済まないと思うよ」と僕は言った。

「あなたのせいじゃないわ。それにあなたが私を抱いている時に別の女の子のことを考えているせいでもないのよ。そんなのはどうでもいいの。私が」彼女はそこで突然口を閉ざしてゆっくりと地面に三本平行線を引いた。「わかんないわ」

「べつに心を閉ざしているつもりはないんだ」と僕は少し間をおいて言った。「何が起こったのか自分でもまだうまくつかめないだけなんだよ。僕はいろんなことをできるだけ公平につかみたいと思っている。必要以上に誇張したり、必要以上に現実的になったりしたくない。でもそれには時間がかかるんだ」

「どれくらいの時間?」

僕は首を振った。「わからないよ。一年で済むかもしれないし、十年かかるかもしれない」

 彼女は小枝を地面に捨て、立ち上がってコートについた枯草を払った。「ねえ、十年って永遠みたいだと思わない?」

「そうだね」と僕は言った。

 我々は林を抜けてICUのキャンパスまで歩き、いつものようにラウンジで座ってホットドッグをかじった。午後の二時で、ラウンジのテレビには三島由紀夫の姿が何度も何度も繰り返し映し出されていた。ヴォリュームが故障したせいで、音声は殆ど聞きとれなかったが、どちらにしてもそれは我々にとってはどうでもいいことだった。我々はホットドッグを食べてしまうと、もう一杯ずつコーヒーを飲んだ。一人の学生が椅子に乗ってヴォリュームのつまみをしばらくいじっていたが、あきらめて椅子から下りるとどこかに消えた。

「君が欲しいな」と僕は言った。

「いいわよ」と彼女は言って微笑んだ。

我々はコートのポケットに手を突っ込んだままアパートまでゆっくり歩いた。