ジョージ・オーウェル著の①『動物農場』、ジョセフ・コンラッドの②『闇の奥』、そしてダロン・アセモグルとジェームズ・A・ロビンソンによる③『国家はなぜ衰退するのか』は、それぞれ異なるジャンルの著作ですが、共通して、社会の本質や権力構造について鋭い洞察を示しています。そして、これら三著作を比較することで、制度が社会や国家に与える影響を考える手掛かりが得られるものと考えます。
①『動物農場』では、寓話形式を用い、革命後の理想に向かうはずな社会が、どのようにして腐敗して、強権的な独裁体制へと変質していくかを描いています。②『闇の奥』では、19世紀末のアフリカ大陸での、列強による植民地支配下で、権力がどのようにして理性ある人間を堕落させるかを示し、倫理的な制御をなくした権力の危険性を描いています。そして③『国家はなぜ衰退するのか』では、歴史学と経済学を視座として、世界各地の包括的制度と収奪的制度とを比較して、国家の盛衰のメカニズムを考察しています。
これら三著作の相違は、アプローチの手法と云えます。①『動物農場』では、寓話的に権力が腐敗する様相を描き、②『闇の奥』では、独特な文学的表現により、19世紀末の植民地支配の実態を描いています。そして『国家はなぜ衰退するのか』では、学術的考察に基づき、制度が社会へ与える影響を帰納法的に論じています。しかし、いずれの著作も、権力の腐敗および、その制度への作用をひとつのテーマとしている点では共通していると云えます。これら三著作では、権力の腐敗がどのようにして生じ、そして制度が、それを助長あるいは制御するかを描いています。①『動物農場』では、平等を目指した革命が豚のナポレオンによって独裁に変わる様子を描き、制度が権力を制御できない場合、腐敗が避けられないことを警告しています。
『闇の奥』では、植民地支配による人間を堕落させる様子を描きます。主人公クルツの変貌は、社会制度としての倫理を失ったとき、人間の内なる暴力性がいかに引き出されるかを象徴的に示しています。
『国家はなぜ衰退するのか』は、腐敗した権力の根源を制度的視点から分析します。収奪的制度は権力者による富や資源の独占を助長し、社会全体を搾取する構造を形成します。この分析は、『動物農場』や『闇の奥』が描く個別の事例を体系的に理解する枠組みを提供します。
これら三著作が示すのは、制度が人間の行動や社会全体に与える影響の大きさです。『動物農場』は、理想の実現には制度を監視し続ける必要があることを寓話的に伝え、『闇の奥』は制度がいかにして人間を堕落させるかを文学的に描きます。一方、『国家はなぜ衰退するのか』は、包摂的制度が社会の繁栄を促進し、収奪的制度が国家を衰退に導くことを実証的に論じています。
現代社会においても、権力の腐敗や制度の設計はきわめて重要な課題です。これら三著作は、それぞれが異なるアプローチで同じ普遍的な問題に光を当て、制度の健全性が社会の持続可能性に不可欠であることを示しています。権力の制御と制度の透明性を維持する努力は、過去から現在に至るまで普遍的な課題であり続けると云えます。