本答申において示される「知の総和」とは、「学修者数」×「個々の学修能力」によって算出される、国家的な知的資源の総体を指します。また、これによると、2022年度時点で約63万人であった大学進学者数は、2035年には約59万人、2040年には約46万人にまで減少するという推計が示されており、約言すれば、2040年には現状より約27%大学進学者数が減少することになります。こうした大学進学者数の急激な減少のなかで、もはや量的な拡大のみでは社会の知的基盤を維持することはできず、いかに個々人の学修成果の質を高めていくかが喫緊の課題となっています。
また、本答申では、学修者の資質向上のためのカリキュラム改革、学位授与の厳格化、大学間連携の強化、そして博士課程における実践性の高い人材育成の推進が提言されています。くわえて、大学の情報公開の徹底により、高等教育の透明性と信頼性の確保を図る方向性も示されています。
そして、本答申では、専門知識と技能を備えた専門職人材の養成についても言及しており、そこには歯科医師や歯科衛生士などの歯科医療専門職も含まれます。これらの職種はかつて、口腔領域での専門職と認識されていましたが、近年の多くの研究により、口腔機能が全身の健康状態、栄養摂取、言語能力、そして認知機能の維持にも関与していることが明らかになってきました。
具体例を挙げますと、要介護状態のご高齢の方々を対象に、訪問看護サービスを併用した歯科訪問診療を行ったパイロット研究では、OHAT-J(合計16点満点)のスコアが介入前平均4.5(SD 2.3)から、1週間後に3.7(SD 2.0)、4週間後に3.6(SD 2.2)へと有意に改善し(p < 0.001)、口腔内環境の改善が定量的に裏付けられました。さらに、一年にわたる歯科訪問診療を実施した介護施設での追跡研究では、舌・歯肉・粘膜・義歯・口腔清潔の各項目に関するOHAT-Jの各サブスコアが有意に改善され、長期的な口腔内状態の安定維持が確認されています。
これらの研究成果や、近年の我が国高等教育における潮流(コメディカル職種養成機関の四年制大学化)を背景として、歯科衛生士などパラデンタル職種の養成機関にも変化が生じており、従来は三年制短期大学および専門学校が主流であった歯科衛生士の養成課程の四年制大学化およびその新設が進みつつあります。さらに、大学院段階においては、臨床現場の知見を研究に昇華させる「実践的博士人材」の育成が、文部科学省の中長期的な教育政策に位置づけられています。
こうした社会の流れを受け、医療・介護系の専門職大学の新設も現実的な選択肢となります。専門職大学は、2019年の制度施行以来、2025年4月の時点で全国に19校が設置されており、その多くが看護、保育、福祉、そして情報など、社会的需要が高い分野を対象としています。また、文部科学省は、地域医療や在宅ケアに資する人材養成の拠点として、地域密着型の医療・福祉系専門職大学の制度的支援を強化しており、歯科衛生士や理学療法士、介護福祉士等の医療・介護系専門職を複合的に養成する大学および専門職大学の構想の実現可能性は、今後さらに高まることが見込まれます。
さらに、2024年の診療報酬改定では、多職種連携と口腔衛生管理の重要性が強調されており、そのなかで歯科衛生士が在宅医療・介護の現場で果たす役割は拡大の一途を辿っていると云えます。こうした社会状況を鑑みますと、歯科衛生士など歯科医療専門職もまた、単なる一専門職にとどまらず、地域社会の持続性を支える社会基盤職としての性格を強めつつあるとも云えます。
結論として、歯科医療をはじめとする医療・介護系専門職種全般は、社会のニーズに対応しつつ、高度な技能や専門性を涵養することが可能な将来性のある職種であると云えます。それ故、進路選択に悩む高校生の方々や、転職やリスキリングを検討されている既卒の方々にとって、歯科医療専門職を養成する大学は、一考の価値がある選択肢となると云えます。そしてまた、継続的な研鑽により、比較的安定した生活と、確かなやりがいが得られる領域であることには異論の余地は少ないと云い得ます。
これからの社会を支えるのは、歯科医療に限らず、専門性と技能を併せ持ち、自律的に課題を発見・解決できる人材であると考えます。そして、こうした人材養成のために、我が国の高等教育は転換点を迎えていると云えます。
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ISBN978-4-263-46420-5
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